特色を生かした医学部の研究
再生医療
胎盤由来幹細胞が切り拓く未来の再生医療

TOSHIO MIKI
三木 敏生
日本大学医学部
生体機能医学系生理学分野 主任教授
私たちの身体には, 生まれつき「治す力」が備わっています。その力を基礎研究で見極め,最大限に引き出す。そして, 臨床応用に繋げていく。これが, われわれの目指す再生医療です。
日本大学医学部生理学分野では, 胎盤から得られる「ヒト羊膜上皮細胞(hAECs)」という細胞を用いた新しい再生医療の研究を行っています。胎盤は出産後に自然に排出される組織であり, 倫理的な問題が少ないことから, 再生医療に適した「未来の細胞資源」として世界中で注目を集めています。
hAECs の大きな特徴は, がん化する心配がなく, 免疫に対して寛容であること。そして何よりも, 他の細胞にリソソーム(細胞のリサイクル工場) やミトコンドリア(細胞のエネルギー工場) などの細胞内小器官を分け与えるという,非常にユニークな性質を持っています。この機能を利用すれば,ダメージを受けた細胞を元気にすることができるかもしれないのです。
現在, 私たちの研究チームでは, hAECs の持つこのような新しい生理現象をより深く解析することによって, 肝臓病や代謝異常症など, これまで治療が難しかった疾患への細胞治療の可能性を研究しています。
また, 細胞そのものだけでなく, hAECs が分泌する「細胞外小胞(EV)」というナノサイズの成分にも治療効果があることがわかってきました。EV は体内に注入しても細胞のような拒絶反応が起きにくく, 保存や運搬も簡単で, 将来の医療現場での活用が期待されています。
これらの研究は, 医学部だけでなく, 理工学部の数学科, 生物資源科学部, 国際関係学部, 法学部など, 学部を超えた連携によって実社会に成果を届けることができます。たとえば, EV の大量生産を可能にするための大型細胞培養モデルの設計には数学の力が必要であり, さらには文化的・法律的な観点から, 胎盤を使った治療法の国際的な受容性も検討することが必要です。
総合大学である日本大学だからこそできる,多角的で未来志向の基礎研究は, 世界に向けて革新的な再生医療を発信する第一歩となるはずです。このような研究や活動に興味がある方は, ぜひ私たちの研究に触れてみてください。未来の医療を一緒につくっていきましょう。

