特色を生かした医学部の研究
スポーツ医学の最前線
新たな評価方法で選手をサポート

KAZUYOSHI NAKANISHI
中西 一義
日本大学医学部
整形外科学系整形外科学分野 教授
スポーツ医学は、整形外科やリハビリテーション科、脳神経外科、内科といった臨床医学の分野に加え、バイオメカニクスや運動生理学など、身体の動きを科学的に探究する分野も含まれる、非常に幅広い学問領域です。
当教室のスポーツ整形外科分野では、関節鏡手術による身体への負担の少ない治療を提供するほか、大学運動部や各種競技団体でチームドクターとしても活動しています。こうした現場での豊富な経験を生かし、選手たちをより良くサポートするための研究にも積極的に取り組んでいます。
みなさんは「膝前十字靱帯(ACL)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ACL は膝関節の安定性を保つ重要な靱帯で、サッカーやバス
ケットボール、スキーなど、方向転換やジャンプの多い競技で特に損傷しやすい部位です。かつては、この靱帯を損傷すると競技復帰が困難
とされていましたが、医学の進歩により、現在では多くの選手が手術後に競技へ復帰できるようになっています。
ACL再建手術後に競技へ安全に復帰するためには、術後の筋力回復が重要です。当院では、筋力を高精度で測定できる「BIODEX®」という機器を用いて評価を行っています。しかしこの機器は大型かつ高額であるため、多くのス
ポーツ施設や病院での導入は現実的に困難です。
そこで私たちは、BIODEX® の代替や補完となる評価法として、タニタ株式会社と共同で医療用体組成計を活用した研究を行いました。この体組成計は、家庭用よりも高機能でありながら、
比較的導入しやすい機器です。特に注目したのは、「フェーズアングル」という筋肉の状態を表す指標で、この値が高いほど筋肉量が多いとされています。ACL 再建術を受けた27 名の患者さんを対象に、術後3 ・6 ・9 ・12 カ月時点で
フェーズアングルと膝の筋力(BIODEX® 測定)
を比較しました。その結果、両者には明確な関連性が認められました。つまり、比較的手軽に使用できる体組成計によって、筋力回復の程度をある程度把握できる可能性があるのです。これにより、リハビリテーションの評価を医療施設に限らずより多くの施設で実施でき、選手の安全な競技復帰を支援することが期待されます。
医学研究の魅力は、このように臨床の現場に役立つ新たな技術を生み出せる点にもあります。スポーツに関わる医療や研究に興味のある
方は、ぜひこの世界をのぞいてみてください。

