肝癌の治療

1.肝癌の現状

肝癌(肝細胞癌)はそのほとんどが慢性肝炎または肝硬変といった障害肝を合併しています。そのため、肝癌の治療方針は、癌の進行度だけでなく、肝臓の機能が治療に耐えられるかどうかを十分に考慮する必要があります。また、手術などで完全に治療しても、肝臓の他の部位に再発する率が年間20%に達する再発しやすいがんです。再発後も適切な治療が行えるような治療方針の選択が重要となります。一方、ほかの癌と異なり、肝癌には数多くの治療選択肢があります。当科では、肝切除・肝動脈化学塞栓療法・全身化学療法を行っています。患者さんの肝障害度および腫瘍の大きさや個数に応じて、各々の患者さんに一番良いと思われる治療法を提案しています。

2.肝癌の治療

肝切除

肝癌に対して、最も有効な治療法で、3個以下もしくは脈管侵襲をともなう肝細胞癌に対して肝切除が推奨されています。肝臓の切除は、術後の肝不全を防止するため、患者さんの肝機能に応じた適切な肝切除術式を選択することが重要です。そのため当科では、肝臓の3Dシミュレーションソフトを用いて、肝切除術前に綿密な計画を立てています。根治性が得られると判断すれば、血管の合併切除・再建を伴う拡大肝切除手術も積極的に行っています。一方、合併症が少ない安全な手術を行うよう心がけています。

近年では、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術などの低侵襲手術を積極的に導入しています。低侵襲手術の導入により、従来行っていた開腹手術の根治性・安全性を担保しつつ、傷の小さく、出血量が減少し、早期退院が可能になっています。

肝切除
肝動脈化学塞栓療法(TACE)

肝外転移のない、4 個以上か 2,3 個で径 3 cm 超が適応とされています。当科では、全身状態,合併症等により切除やラジオ波の適応外の患者さんにTACEを選択しています。また、肝内病変が予後を規定する場合は、肝外転移が存在、全身化学療法施行している患者さんでも、TACEを行います。TACEは、足の付け根からカテーテルを入れ、がんを養う動脈に抗癌剤と塞栓物質を注入、がんを壊死させます。患者さんの状態に応じて、抗がん剤の種類や投与量を調節しています。

肝癌件数推移
全身薬物療法

肝切除・肝動脈化学塞栓療法の適応にならない患者さんは全身化学療法を行います。

・分子標的薬(レンバチニブ・カボサンチニブなど)
・免疫チェックポイント阻害薬・血管新生阻害剤(アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法、デュルバルマブ・トレメリムマ ブ併用療法)
化学療法は、様々な副作用が生じる可能性がありますが、その対処法はすでに知られております。できるだけ早期に副作用に対処し、治療を継続することで、腫瘍増大を抑える効果が期待できます。化学療法により、腫瘍が縮小、切除が可能となれば、積極的に切除を行います(conversion手術)。また、適宜、TACEと併用も行っています。

当科では、年間200例以上と数多くの肝切除を行っています。入院中は、肝切除の管理に習熟した看護師・薬剤師などのスタッフが対応します。治療終了後は、定期的な通院が必要になります。再発を早期に発見、適切に治療をおこなうようにしています。