教員紹介

THE POWRE OF DOCTORS
羽尾 裕之
HIROYUKI HAO 羽尾 裕之
日本大学医学部
病態病理学系人体病理学分野 主任教授, 学生担当

「教えてください」と言えないと,
最終的にいちばん困るのは患者さんですから。

患者の命を預かる医師という仕事

 医師は毎日がプレッシャーです。私の仕事は, 患者さんを直接診察するわけではなく, 例えば手術や内視鏡で検査をしたときに採ってきた組織をガラススライドの標本にし, 顕微鏡で診断するという病理診断です。その時の判断は, 何か計算して正しい解が出るわけではなくて, その標本の色や形を目で見て自分で答えを出します。だからファジーなんです。
 答えが揺れる時が自分の中でもあるし, 同じものを100 人が見てその100 人が同じ判断をしない検体というものは, 私たちが実際に診断している世界ではたくさんあることです。その判断を誤って例えば悪性のものを良性と言ってしまうと, 患者さんは数年後に転移が見つかって治療が間に合わないことも起こり得る。だからそこの判断は非常に難しいし, 慎重にならないといけません。毎日1 例1 例診断するたびにプレッシャーを感じます。その間違いをどうやったら無くしていけるのか? ということも, 私たちの仕事の1 つです。
 他の先生に同じ症例を見てもらって意見交換するとか, 本当にすごく難しい症例の場合は,そういった症例をたくさん経験している先生に見てもらうなどが必要です。自分の力だけでは解決できない事柄は絶対に起こることです。自分の力を過信して自分の判断だけで診断を進めると時として大変な過ちになるので, 人に聞く力とか, 自分がわからないことを正直に「わからないので教えてください」と教えを乞う姿勢が重要になります。
 経験を積んでいけば当然引き出しが増えていくので, 経験はすごく大事ですし, 日々の勉強も大事です。でもそれと同じくらい大事なのは, どこまで自分で判断していいかを見極める力。それが無いとどこかで必ず失敗します。医学の道はどれだけ勉強しても終わることはなく,永遠に続く勉強の過程の中で自分がどう考えるか? という能力が必要になります。「教えてください」と言えないと, 最終的にいちばん困るのは患者さんですから。そういう人格形成が大事だし,そういう人が日本大学に来て欲しいと思います。

受験生のみなさんに期待すること

 今わかっていることを真実と思わずに, 色んなことを空想する学生生活を送って欲しいです。今は未だ「夢」でしか見れないかもしれないですけど, そういう空想や夢は医学研究者にとってすごいエネルギーになります。
 医学部の6 年間では確かに覚えることがたくさんあって, 今の学生は非常に忙しくて大変なんですが, そんな中で色んなことを夢見たり空想したり, 教科書に書いてあることや今真実とされていることに対して「本当なのかな?」「これが患者さんのためになっているのかな?」と思って色んなことを調べたり学んだりする力がある人は, 必ず将来いい臨床医や医学研究者になると思います。

日本大学の学生生活について

 日本大学の学生はみんな人がいいんです。特に指導しなくても, お互い助け合って勉強をしたり, 出来ない学生に声をかけたり等, みんなが自主的にやっています。なぜかというと,人に教えるためには自分が100% 以上理解しないといけないということをわかっているからだと私は思います。勉強が出来る学生にとって, 人に教えることはデメリットではなくて, 他人に教えることが最高の学習になるんです。そういった意味で, 我が校の学習環境はすごくいいと思います。
 最近感心したことがあったんですが, 最初に緊急事態宣言が発令された2020 年の新入生は登校も出来ずにずっとオンライン授業で, 孤立していたんです。特に地方から上京してきた学生はずっと下宿先で先生の授業をPC を通して受講するだけの毎日です。何かで悩んだとしても, 相談する友達が居ないんです。そんな時, 上級生たちが自主的に企画して, オンラインで新入生との交流会を催して, 学生生活や学業について相談する機会を作ってくれたんです。この交流会を経験した学生が上級生となり,同じことを新入生にしてくれています。素晴らしいことをしてくれたなと,すごく嬉しく思いました。

阿部 雅紀
MASANORI ABE 阿部 雅紀
日本大学医学部
腎臓高血圧内分泌内科学 主任教授, 学務担当

学生の頃からたくさんの経験を積んで,
初期研修医になってもより多くの経験を積んで欲しいと思います。

学務担当について

 学生の学力向上, 進級や卒業に関するサポートや, 国家試験などの合格率を上げることなどが学務担当の役割です。試験の成績が低下傾向の学生には個別で面談することもありますし, 学習環境を整備したり, 病院での実習をスムーズに行えるように調整することもあります。最近は病院での実習がかなり重要視されていて, 病院での診療を指導することもあります。
 医療者としては知識だけではなく, 患者さんとのコミュニケーションが必要です。なので,以前は筆記試験だけで医師免許を取得できていた時代もありましたが, 最近では実技試験も必須となっています。試験で患者さんの診察をしたり, しっかりと患者さんとコミュニケーションをとり, 話を聞き出せるかを確認する医療面接もあります。
 実技試験は4 年生と6 年生にあって, 4 年生時はCBT (Computer Based Testing) という知識を問う試験と, OSCE (Objective Structured Clinical Examination) という実技試験があり, その2 つに合格しないと病院での実習に参加することが出来ないんです。4 年生の段階でまず医学生として社会の医療現場に出ていいかどうかを評価する。だからその2 つをクリア出来るような知識と態度, 技能を身に付けてもらいます。4 年生の後半からは実際に病院で患者さんと触れ合う実習が始まります。そして, 実習が終了した6 年生では, 医師として社会に輩出して良いか問われる実技試験があり,その試験に合格しないと卒業出来ません。
 なぜコミュニケーション能力が必要かというと, 現在はチーム医療が主流で, 医者だけがんばっても駄目なんです。看護師さんや様々なメディカルスタッフとの協調性が求められますし, その中でリーダーシップを発揮してチームをまとめる医師にならないといけない。医師に対する社会のニーズは変化してきております。それに対応すべく, 医学的な知識のみならず, 技能,態度, コミュニケーション能力を備えることが必要となってきております。

コロナ禍の学習環境について

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で,2020 年の1 年間は病院実習は出来ませんでした。しかし2021 年からは日本大学ではほぼ通常の実習を行えています。学生は約700 人居るんですが,そのうち2021 年の感染者は20 人だけでした。これは他校と比べて非常に少ないですが, それだけ感染対策を徹底的に指導し,実践してもらっていますし, ほとんどの学生はワクチンを3 回接種しています。そういった感染対策をしっかりと行った上で, 2021 年からは2019 年以前と同じような形で実習出来ています。日本大学医学部付属板橋病院は, 新型コロナ感染患者の診療数は全国の大学病院の中でもトップクラスですが, 職員も含め感染者数が少ないというのは, 医学部と病院が一体となり取り組んでいるところが大きいです。

どのような医師を目指すべきか

 人を診ることが出来る医師になって欲しいと思います。人と話が出来る,人の心を汲み取れる。やはり患者さんや周りの人から信頼されないと何事もうまく進まないと思います。しっかりと人の気持ちや痛み, 辛さを知ることが出来る人間になることが大切です。
 臨床医としては, 経験した数が非常に重要です。例えば同じ2 年間の初期研修でも,100 例しか経験しなかった医師と1000 例経験した医師とでは, 身に付いた実力は全然違います。学生の頃からたくさんの経験を積んで, 初期研修医になってもより多くの経験を積んで欲しいと思います。
 日本大学医学部の教育の中で, 最も重視しているのが「良き臨床医を育てる」です。実際に患者さんの病気を治し, 患者さんから感謝される医師になれるような教育を行っています。また,医学は日々進歩しています。研究を行い,新たな発見を世界に先駆けて発信できる医師を育てることも日本大学医学部の重要な使命であると考えています。

森岡 一朗
ICHIRO MORIOKA 森岡 一朗
日本大学医学部
小児科学分野 主任教授

産学連携研究で“ 赤ちゃん” をまもる
「知」を社会に還元

 産学連携の「産」は, 企業など商業的活動をする集団で, 「学」は, 大学等のアカデミックな活動集団のことです。大学が社会から求められている役割は, 教育活動を通して高度な専門性を身に付けた人材を社会に送り出すとともに, 大学で創造・開発された研究成果を社会に還元することです。「産」と「学」が有機的に連携することにより, 「知」を 「経済」に結びつけ「社会」に還元するための開発研究を産学連携研究と言います。
 私たち, 小児科学分野では, 新生児から思春期まで全ての領域の診療を行っています。新生児領域においては, 出産予定日よりも早く生まれたり, 生まれつきの病気を持った「赤ちゃん」を救命する診療だけでなく, その後の健やかな人生を送れるよう研究を行っています。今回はその新生児医療に関する研究を紹介します。
 新生児黄疸をご存知でしょうか?生まれた赤ちゃんは, 全員,皮膚や眼が黄色くなる黄疸を呈します。通常, 無治療や簡単な光を当てる治療を行うことにより軽快します。しかし, 何らかの原因で,この黄疸のもととなるビリルビンが体内で多くなると, 脳障害(脳性まひや難聴) を引き起こします。この脳障害を予防するためには, 鋭敏に予測できる検査が必要です。しかも, 小さな赤ちゃんからは, 成人のように多くの血液を採取することはできず, できる限り採血量を減らし検査を行う必要があります。
私たちは, ビリルビンと特異的に結合して蛍光を発するタンパク質(ニホンウナギの蛍光タンパク質:UnaG),グルコースオキシダーゼやペルオキシダーゼの酵素を組み合わせる研究を実験室で行いました。その結果, 新生児の1 滴の微量血液で異常を鋭敏に予測できるアンバウンドビリルビンという分子を測定する検査法の開発に成功しました(国際特許 第6716108 号, Int J Mol Sci. 2020,下図a,b)。この技術を用いて検査することによりビリルビンによる脳障害から赤ちゃんをまもられることが期待されます。
 しかしながら, この「知」を新生児医療現場という社会に実装するためには, この学術的な研究成果だけではなし得ることができません。
 専門性のある企業の協力が必要不可欠です。
 幸いにも,この技術の新生児医療への必要性を理解してくれる日本と米国の企業が現れ, いわゆる, 産学連携研究により血液1 滴で測定可能な機器開発が開始されています(下図c)。ごく近い将来に日本大学医学部付属板橋病院での臨床研究を経て, 我が国の新生児医療の現場に登場することを多くの小児科・新生児科医が待ち望んでいます。
 このように,「知」を社会に還元するためには,産学連携研究が不可欠です。私たちの特許技術を搭載した機器が新生児医療の現場で使用され, 多くの赤ちゃんがビリルビンによる脳障害からまもられることを実現するために,日夜研究に励んでいます。

相澤 志保子
SHIHOKO AIZAWA 相澤 志保子
日本大学医学部
病態病理学系 微生物学分野 准教授

感染症研究は世界を救う

 瞬く間に全世界に広まり, パンデミックとなりました。感染症は私たちの日常生活のみならず,社会基盤を大きく変革してしまいます。「感染症」というのは病原性をもつ微生物(病原体)が体に侵入することによって引き起こされる病気のことです。私たちの体は侵入してきた病原体を除去するための免疫システムを持っています。また感染症を防御するためのワクチン開発には, 免疫システムを理解することが必要です。
 私は, 結核菌や非結核性抗酸菌に対する免疫応答について研究を行ってきました。結核にはBCG という有効なワクチンがあります。BCGは20 世紀の初めにフランスのパスツール研究所で作られた,現在実用化されている唯一の結核ワクチンです。しかし,BCG は乳幼児の結核重症化の予防には効果的ですが, 成人の結核予防効果は限定的であることが問題となっています。さらに, 結核と似たような菌で,Mycobacterium aviumM. kansasiiM.intracellulare などの非結核性抗酸菌と呼ばれる菌の感染者数が世界的に増加傾向にあります。非結核性抗酸菌はヒトからヒトに感染しないのですが, 結核よりも治療薬が効きにくいことがあり, 治療が難しい場合も多いのです。
 私たちの研究グループでは, 新しいワクチン候補として, BCG に外来抗原を組み込んで組換えBCG を作製する研究を続けてきました。この技術を利用して, 新しい結核ワクチン, 非結核性抗酸菌ワクチンを作製することを試みています。私たちはBCG にM.kansasii 由来のAg85B という抗原を組み込んで,新しい組換えBCG (rBCG-Mkan85B) を作製しました(図1)。rBCG-Mkan85Bを接種したマウスでは,何も接種しない対照群のマウスやBCG を接種したマウスに比べてM.kansasii の感染を抑えられることがわかりました。また,rBCG-Mkan85B は結核に対する免疫応答を誘導できるので, 結核防御にもはたらくことが期待できます。この組換えBCG や免疫誘導の際に重要なエピトープペプチドは, 日本大学産官学連携知財センター(NUBIC) を通じて,特許を取得することができました。
 また, 私自身は産婦人科医の臨床のバックグラウンドがありますので, 母子感染の研究も続けています。感染症の中には, 風疹やサイトメガロウイルス, 梅毒のように妊娠中にお母さんが感染すると子宮内の胎児に感染して胎児の奇形や発達障害, 死産などを引き起こすものがあります。しかし,COVID-19 に妊娠中に感染しても胎児が感染することはほとんどありませんが, 胎盤ではウイルスが検出されることがあります(図2)。したがって,胎盤がウイルスが胎児に感染しないようにバリアになっている可能性が考えられます。私たちは, これまでにインフルエンザや風疹, COVID-19 の母子感染における胎盤の役割を調べてきました。例えば, 胎盤を構成する細胞はインフルエンザウイルスに感染しますが, ウイルスの増殖は起こさないことがわかりました。現在はSARS-CoV-2 感染における胎盤の役割を研究しています。
 感染症研究は研究者自身が感染しないように最大限注意しなければならず, また病原微生物を外に持ち出さないようにしなければなりません。日本大学医学部にはバイオセーフティレベル3 (BSL3) という高いレベルの病原微生物を使用できる実験室があります。私立大学の医学部でBSL3 がある大学は多くはありませんので, 本学は感染症や病原微生物の研究において恵まれた環境にあると言えます。
 COVID-19 パンデミック により, 微生物学や免疫学の基礎研究の重要性が改めて認識されました。COVID-19 が制圧されても,また新たな感染症が出現し, 我々の生命や財産を脅かすことがあるでしょう。すぐに役に立つ研究も必要ですが, 長期的な視野に立って地道な基礎医学研究を続けていくことも重要であると考えています。

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