研究内容

がん遺伝子治療

 日本で最初に遺伝子治療が行われたのは1995年であり,稀な遺伝性疾患であるアデノシンデアミナーゼ欠損症に対するものであった。その後は,腎癌に対する遺伝子治療が東大医科研で始まり,次いで肺癌に対する遺伝子治療が岡山大学で実施された。最近では、頭頸部扁平上皮癌における遺伝子治療の研究も盛んに行われている。
 現在世界中で行われている遺伝子治療の統計によれば、癌遺伝子治療に用いられるベクターの主流は、遺伝子導入効率の良いウイルスベクターである。一方、非ウイルスベクターは遺伝子導入効率の低さによりあまり利用されていない。しかし、安全性と経済性に優れた非ウイルスベクターの使用は見直されており増加傾向にある。そのため、その欠点である低い遺伝子導入効率と治療効果の改善が強く望まれている。そこで私たちは非ウイルスベクターを利用したDevelopmental endothelial locus-1 (Del1) によるがん遺伝子治療を開発した。そして私たちは、Del1 タンパク由来のペプチド(E3C1)の持つ遺伝子導入効率改善効果、アポトーシス誘導効果および細胞外基質タンパクへの沈着効果を利用し、E3C1 遺伝子によるマウス移植腫瘍に対する遺伝子治療で腫瘍縮小効果や生命予後の劇的な改善を得ることに成功した。さらに特記すべき副作用の発現を認めず、腫瘍増大の抑制が腫瘍血管の変化によるものであるという作用機序も明らかとなった。またE3C1にも存在するEGFモチーフ(CXDXXXXYXCXC)が細胞膜に影響を与え、フォスファチジルセリン(PS)を反転させることが明らかとなっている。そして近年では、E3C1 遺伝子が腫瘍血管の血管内皮細胞や腫瘍細胞の細胞膜へ与える影響や抗PS抗体薬との併用によりマウスの生命予後の改善や腫瘍縮小効果について明らかにした。
 この研究により頭頸部扁平上皮癌の局所での腫瘍成長のコントロールを可能とした遺伝子治療のプロトコールを確立したいと考えている。さらに、頭頸部癌のみならず多種多様ながんの治療に役立てたいと考えている。

がん遺伝子治療

顎口腔組織幹細胞を用いた再生医学研究

 近年、生体内の多くの正常組織には、自己複製能と多分化能を保持した幹細胞が存在し、組織の発生や損傷修復において極めて重要な役割を果たしている。顎口腔領域においても、現在までに多くの幹細胞分離とその性状解析に関する報告が相次いでおり、その組織採取の簡便性とその利用価値が非常に高いことが注目を集めています。
 顎口腔組織の幹細胞は、その多分化能から顎口腔領域以外の多くの疾患に対する細胞供給源としても注目されています。現在までにわれわれは、ヒト埋伏智歯抜歯時に採取した組織から歯髄幹細胞、歯根膜幹細胞および口腔粘膜間質幹細胞から神経堤幹細胞様細胞を単離することに成功しています(S Abe et al. Oral Sci Int, 2007., S Abe et al. Biochem Biophysic Res Communi, 2008., Abe et al. Stem Cell Res Therap, 2011., S Abe et al. Cell Boil. Int., 2012., S Abe et al. Stem Cells Transl Med, 2016.)。
 われわれは、“ヒト組織再生医学研究においてはヒト組織から幹細胞を用いた研究を行うことに意義がある”と考えています。これらのヒト組織由来の幹細胞を用いて、実際の臨床に応用できるような再生医学研究を行っております。本研究は、日本大学医学部倫理委員会の承認(承認番号:P20-19-0)の下、研究を行っております。
 将来的には、顎口腔外科手術後の再生医学の細胞供給源としてのみならず、その他多くの疾患に対する幹細胞治療の可能性を見出すような研究を行いたいと考えております。

当科における再生医療の研究概要
当科における再生医療の研究概要

血液凝固第Ⅸ因子の血管内皮細胞への影響

 血液凝固第 IX 因子(以下 F9)は、止血に必須の血漿タンパクです。非活性型 F9 は、N末端側の軽鎖と、それに続くactivation-peptide (以下 F9-AP)、C末端側の重鎖から構成されます。凝固反応の過程で F9-AP が切断されると、軽鎖と重鎖からなる活性型に変化します。

カンボジアでの口腔内検診

これまで非活性型 F9 及び F9-AP には機能がないものと考えられてきましたが、われわれは、非活性型のF9には細胞に対する機能があること、その機能はF9-APに存在することを発見しました。非活性型F9(あるいはF9-AP)は培養細胞の伸展を促し、細胞間接着を強化します(Kitano,H., Mamiya,A., Ishikawa,T., Kokubun, S,. Hidai,C,:Coagulation facter Ⅸ regulates cell migration and adhesion in vitro:Cell Biology International, (2015) 39:1162-1172)。
 その結果、血管の透過性が抑制されました(Mamiya,A., Kitano,H., Kokubun,S., Hidai,C., : Activation peptide of coagulation factor IX regulates endothelial permeability :Translational Research, (2016) online 23 June)。
 F9-APのもう一つの機能は、生体の低酸素耐性の誘導です。この機能はマウスを用いた実験で発見されました。大腸菌由来内毒素の静脈内投与による低酸素血症モデルマウスを作成して実験したところ、F9-APを静脈内投与した群では酸素飽和度が対照群より低値になっても生存する個体が出現し、低酸素への耐性が誘導されたと考えられました。さらにF9-APは、培養細胞を無酸素無栄養状態で培養した時におきるアポトーシスを抑制します。これらの結果から、我々は、F9-APには強い障害ストレス下で細胞機能を保護する作用があると推察しています。
 今後は、この血管内皮細胞への作用を解明し、血管内皮細胞が障害されることに起因する多くの疾患の治療の一端を担うことを期待しています。

数値流体力学解析(CFD)を用いた睡眠時無呼吸症の研究

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の要因のひとつに,解剖学的に狭窄もしくは閉塞した上気道があります。これを改善する目的として,上下顎前方移動術(MMA)と舌骨を牽引する舌骨上筋群前方移動術(GA)が行われていますが,その効果は形態学的分析が主体で,呼吸生理学的機能の変化についての評価は十分とはいえません.そこでこの研究は,MMA及びGA術後に起こる上気道呼吸動態の変化について数値流体力学解析(CFD)を用いたシミュレーション解析を行い,MMA及びGAの効果を評価しています。
OSAと診断されかつ顎変形症を合併している患者に対して,MMA及びGAを同時に行い,術前および術後1年経過時に鼻腔通気度測定,MDCTを撮影し,MDCTより気道と軟組織の境界を抽出し,解析モデルを作成します.作成したモデルから計算メッシュを作成し,CFD解析を行います。
この研究により、術前に気道狭窄部位の確認や静圧の高い部位の確認ができ,気道閉塞が生じる可能性を警鐘することや,手術での移動量や方向の検討に有効な予測データを提供していきたいと考えています。

気道メッシュモデル CFD解析による気流及び圧力分布

カンボジアでの口腔内検診

 カンボジア王国はインドシナ半島に位置する国で、国民の90%は上座部仏教徒を信奉している。カンボジアはかつて、フランスの植民地支配や大国の戦争に巻き込まれてきた。そして、1975年から約4年間、ポル・ポト率いるクメール・ルージュ(カンボジア共産党)によって行われた、過激な共産化と大量虐殺の歴史が未だ暗い影を落としている。人口分布は、ポル・ポト政権下での大量虐殺の時代を生きた年齢層が極端に少なくなっていて、いびつなピラミッド状態になっている。社会を牽引する重要な年代の人たちを失ってしまった結果、カンボジアの復興や発展は大きく立ち遅れることとなってしまった。
 しかし、現在は海外からの様々な支援もあり、小学校の数や就学率は増えてきた。ただ、家庭の事情や同地域に中学校、高校がないため、学年を増すごとに就学率は下がっていき、小学校の入学率は約95%あるものの、小学校→中学校への進学率は約40%、中学1年→中学3年まで進級がその中の40%、中学→高校へは20%、大学へ進学する率はほんの数パーセントにしかすぎない。
 そのカンボジアにおいて私たちは、毎年シェムリアップの小中学生を対象に口腔内検診を実施している。そして口腔内検診の内容を分析し、口腔環境の維持のための解決策や治療法を検討している。さらに、アンコール大学公衆衛生学部の学生に対して口腔機能の維持が及ぼす全身への影響や学術的な重要性を講義している。そしてこの研究・活動によりカンボジアの医療発展に貢献できればと考えている。

カンボジアでの口腔内検診

日本大学医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学系

歯科口腔外科学分野

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TEL : 03-3972-8111 (代表)

Oral Surgery

Nihon University School of Medicine

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