眼科先端医療研究講座(ときわ台村中眼科)

眼科領域における先進的な治療法の開発を行うことを目的とする。そのため ときわ台村中眼科は、日本大学医学部に寄附を行い新たな寄附講座を設置する。現在の公的研究費はトランスレーショナルリサーチが中心で臨床の根幹をなす基礎的な分野の研究資金は限られる傾向にある。そこで本寄附講座では、必ずしも臨床に直結しなくても将来の臨床につながる可能性のある分野に特化した研究を推進する。

本寄附講座が行う研究プロジェクト

  • プロジェクト1:
  • 「ドライアイにおける疼痛緩和・涙液分泌亢進を目的とした実験的三叉神経研究モデルの開発」
     角膜には三叉神経第1枝が角膜神経として分布しておりそのほとんどが知覚神経である。知覚神経は、その神経の種類(侵害受容器)として機械的刺激を知覚するポリモーダル侵害受容器、冷覚(温度変化)を知覚する冷覚侵害受容器などがあり、角膜神経におけるポリモーダル侵害受容体としてTransient receptor potential cation channel subfamily V member 1 (TRPV1)、冷覚侵害受容器としてTRPM8が豊富に存在する。しかし、角膜の再生医療や角膜血管新生の研究に比べ角膜神経の研究は大きく立ち遅れており、動物実験においても全身麻酔下に角膜や三叉神経節における神経興奮を電気生理学的に検討する手法は取られるが、培養条件下での角膜神経研究モデルはほとんど存在しない。
     近年、ドライアイにおいて角膜障害がほとんどみられないにも関わらず強い異物感を呈するBreak-up time (BUT) 短縮型ドライアイのようなドライアイにおいては角膜の知覚過敏状態であることが報告されている。このようなneuropathic painにはTRPV1が強く関与していると報告されている。また、角膜表面の温度変化を感知するTRPM8が、涙液分泌促進に強く関連していることが近年報告されている。
     本研究では、マウスの三叉神経節細胞の初代神経培養モデルを確立し、TRPV1/TRPM8陽性神経細胞における各種薬剤の神経刺激効果を検討し、疼痛緩和(TRPV1阻害)や涙液分泌亢進(TRPM8刺激)に関わる薬剤のスクリーニングを行い、将来の治療応用を目指すことを目的とする。
     本研究では、マウスにおいて角膜の知覚神経である三叉神経節細胞について初代培養を試み、角膜神経研究モデルとしてマウス三叉神経節細胞の初代培養を確立する。そして、初代培養細胞に対してTRPV1のアゴニストであるカプサイシンやTRPM8のアゴニストであるメントールを用いて刺激した際に出現する細胞内Caイオン濃度上昇を蛍光標識で認識し(Fura-2 AM)、カプサイシン投与で興奮した細胞をTRPV1陽性細胞、メントール投与で興奮した細胞をTRPM8陽性神経細胞として同定する。さらに、各種ドライアイ治療薬(ジクアホソル、レバピミド、シクロスポリン)や神経興奮に関わる作用が未知の様々な既存薬を、上述の手技で同定したTRPV1/TRPM8陽性神経細胞に対して添加し、これらTRPV1/TRPM8陽性神経細胞の神経興奮を確認する。

  • プロジェクト2:
  • 「遺伝子改変糖尿病ブタを用いた糖尿病網膜症発症における眼循環動態と網膜神経との関連評価 」
     糖尿病トランスジェニック(Tg)ブタを飼育しながら、糖尿病発症から網膜症発症そして進展に至る一連の過程を、レーザースペックル血流計(眼血流)および網膜電位図(ERG)を用いて繰り返し経時的に測定し、網膜症の発症・進展と血流および眼炎症の変化との関連について、定量的かつ経時的に評価する。またフリッカー刺激に対する網膜血流増加反応を網膜における神経-血管連関(Neurovascular Coupling: NC)の指標として経時的に評価し、糖尿病状態における網膜神経活動と循環動態との関連性を検討する。  生後持続する高血糖により糖尿病発症を確認したのち、生後2ヶ月から10ヶ月まで、インスリン療法にて血糖をコントロール(強化療法群)して経過観察し、生後6ヶ月の時点でインスリンによる強化療法を開始する群(途中介入群)も作成し、急激な血糖コントロールによる網膜症悪化(Early Worsening)の有無と、網膜循環動態との関連について検討する。更に屠殺後の摘出ブタ網膜血管を用いたex vivo実験による検討により、網膜内皮機能評価で各群に差があるか評価し、高血糖負の遺産(レガシー効果)が網膜血管機能に及ぼす影響を評価する。この摘出血管を用いたex vivo実験系はすでに日本大学医学部に設置・稼働済みである。

  • その他のプロジェクト:
  •  眼科医療の発展に関わる研究に関しては責任者の判断で随時研究プロジェクトとして実施する。

      期待される効果
      プロジェクト1: このモデルを用いて様々な薬剤の神経興奮効果を検討することで、主にドライアイをターゲットにした疼痛緩和・涙液分泌亢進を目的とした新規治療の開発が期待される。
      プロジェクト2: 糖尿病網膜症の病態解明のみならず、循環改善薬などによる治療法確立が期待される。
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