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研究背景・目的

  医学研究の最終目的の一つは、難治性疾患に対する治療法を開発し、苦しんでいる患者に光明をもたらす事です。

  近年、ゲノム化学および分子生物学研究の発展に伴い,さまざま疾病の原因遺伝子の同定が進み、それら分子を特異的に阻害する分子標的薬の開発が可能となってきました。ピロール・イミダゾール(PI)ポリアミドは、芳香族アミノ酸 N-methylpyrrole(Py) および N-methylimidazole(Im) で構成される分子であり、DNA 二重らせん副溝に配列特異的に結合することがP.B. Dervan らにより報告されています(Cho et al. Proc Natl Acad Sci USA. 1995)(図1)。Im/Py ペアはG・C を、Py/Py ペアはT・A および A・T を認識します。(図2)。

図1

図2

  PIポリアミドとDNA への結合は、DNA結合蛋白質とDNA の結合に相当する親和性を持ち、Im/PyとPy/Pyの組み合わせ次第で、多様な配列のDNAに結合させることができます。
このPIポリアミドを各遺伝子のプロモーター領域の転写因子結合部位に結合させることで、遺伝子特異的な発現抑制が可能になります。siRNA などと比べて安定性も高いことから、分子標的治療薬として大きく期待される化合物です。

  日本大学では、PIポリアミドの自動合成法の開発と難治性疾患の責任分子を抑制するPIポリアミド化合物の開発を行い、知財として確保し、前臨床試験を推進してました。
この成果に基づき本プロジェクトにおいては、

  1. PIポリアミドの大量合成法の確立
  2. 新規標的分子に対するPIポリアミドの設計と培養系・動物実験における機能解析
  3. PIポリアミドの物性試験、毒性・安全性試験、長期全身投与の薬物動態および薬物効果の前臨床試験
の3つの課題を遂行し、これらの成果をふまえ、臨床第Ⅰ相試験を行うことができる創薬開発、臨床応用研究拠点の形成を目指します。

  本拠点は、PIポリアミドの臨床応用に向けて研究する大学機関での臨床研究拠点となるものであり、医療介護分野の国家戦略にも寄与しうる大きな意義があります。

研究設備・体制

  PI ポリアミドの合成およびそれを用いた基礎研究から前臨床試験まで、日本大学医学部リサーチセンター内の拠点施設において行うことができます。さらにその研究成果を臨床に応用するための臨床研究体制を確立中です。他研究機関、創薬前臨床研究拠点、製薬企業の創薬開発部門との共同研究体制は既に整っています。

  各疾患研究テーマ毎に、臨床各科(総合内科、眼科、泌尿器科、皮膚科、整形外科、放射線科、腎臓高血圧内分泌内科、消化器内科、消化器外科、小児外科、産婦人科、脳神経外科、血液膠原病内科、循環器内科等)と日本大学薬学部が参加し、医師主導による臨床応用に向けた研究を行っています。

進捗状況

  現在までに以下の通り、新規の疾患関連遺伝子を標的としたポリアミドの設計・解析、実験動物を用いた前臨床試験、より効果の高いサイクリック型ポリアミドの開発が進行しています。

  1. ヒトTGFβの発現を抑制するポリアミドを複数設計し、最も効果の高かった一つを選び詳細な解析を行ったところ、ヒトゲノムと相同性の高いゲノム構造を持つマーモセットに対して投与した場合、皮膚の肥厚性瘢痕の形成を抑制することを確認しました。

  2. 腫瘍において増幅・発現上昇が見られるMycの下流遺伝子の発現を抑制し腫瘍の増殖抑制を行うことを目的としてE-box 認識ポリアミドを開発しました。現在のところ、骨肉腫細胞株を含むいくつかの腫瘍細胞株に対し増殖抑制効果を示すこと、その細胞死がアポトーシスよる可能性があること、in vivo においても腫瘍増殖抑制効果を示すことを確認しています。

  3. 前立腺癌においてはアンドロゲン応答遺伝子TMPRSS2 とEts family 遺伝子の一つERG が癒合し、細胞の癌化、悪性化を促進していることが報告されていることから、この融合遺伝子の生成、発現を抑制するポリアミドの開発を行いました。同ポリアミドを前立腺癌細胞株に投与したところ通常アンドロゲン刺激により生じる融合遺伝子の生成が低下すること、細胞増殖および浸潤能を低下させること、in vivo における腫瘍増殖を抑制することを確認しました。同ポリアミドに関しては特許申請中です。

  4. 刷り込み異常によるLIT1 遺伝子の高発現がBeckwith-Wiedemann症候群や腎芽腫の原因として知らているが、本研究ではLIT1 遺伝子の発現を抑制するポリアミドを設計し、同ポリアミドが腎芽腫細胞株におけるLIT1 の発現を抑制し、LIT1 にサイレンシングされているP57KIP2 の発現を上昇させること、細胞増殖の抑制、アポトーシスの誘導を行う事を確認しました。

  5. ループス腎炎発症のキーとなる免疫グロブリンFc受容体γ遺伝子のプロモーター構造を解析し、転写因子結合部位にポリアミドを設計しました。さらに、このPIポリアミドがFc受容体γの発現を抑制することを確認、報告しました。

  6. 従来のヘアピン型ポリアミドよりもDNA 二本鎖への結合力が強い環状ポリアミドの開発を行っており、現在のところTGFβポリアミドが従来の2本鎖型に比べて強くヒト繊維芽細胞株におけるTGFβの発現を抑制することを確認しています。