遺伝性疾患の遺伝子診断
(遺伝学的検査)精度管理体制
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1. 医療法改正の歴史

1. 医療法改正の歴史

医療法は 1948(昭和 23)年に制定されて以来改正されてきました。2018(平成 30)年 12 月 1 日の医療法の第 8 次改正に伴って、検体検査の品質精度管理の整備に関する法令(改正医療法)が施行となりました(表 1)。

表1 医療法改正の歴史

制定 昭和23年 1948年 それまでの国民医療法の廃止に伴って制定された
第1次改正 昭和61年 1986年 医療計画の導入
第2次改正 平成5年 1993年 特定機能病院及び療養型病床群の制度化
第3次改正 平成10年 1998年 療養型病床群の設置、地域医療支援病院の制度化、インフォームド・コンセント法制化(努力義務)、総合病院の廃止
第4次改正 平成13年 2001年 それまでの国民医療法の廃止に伴って制定された
第5次改正 平成19年 2007年 それまでの国民医療法の廃止に伴って制定された
第6次改正 平成26年 2014年 それまでの国民医療法の廃止に伴って制定された
第7次改正 平成27年 2015年 それまでの国民医療法の廃止に伴って制定された
第8次改正 平成29年 2017年 検体検査の精度管理の確保、特定機能病院におけるガバナンス体制の強化、医療に関する広告規制の見直し、持分なし医療法人移行計画認定制度の延長 その他

2. 検体検査の分類

2. 検体検査の分類

医療法改正の歴史

検体検査という言葉は聞きなれない方も多いかと思いますので説明します。医療施設で行う臨床検査は大きく検体検査と生理機能検査(生体機能検査)とに分かれます。検体検査は血液や尿といった人体から得られた臨床検体(サンプル)を用いて成分の分析や微生物無などを調べるものです。一方、生理(生体)機能検査は患者(被検者)さん自身の人体(生体)について行う検査で、循環機能検査(心電図、心臓超音波など)、呼吸機能検査、神経筋機能検査(脳波、筋電図など)、平衡機能検査、超音波検査などです。検体検査は改正医療法によって一次分類が7つになりました(表2)(一般社団法人 日本衛生検査所協会 会報 JAMT Vol.24(17) 平成30 年9 月1 日号から4 改訂)。

遺伝子関連・染色体検査については今まで血液学的検査、病理学的検査、微生物学的検査の範疇で行われていたものをまとめて一次分類として独立しました。

表2 検体検査の分類(2018年12月1日改正医療法による)

一次分類 二次分類
微生物学検査 細菌培養同定検査
薬剤感受性検査
免疫学的検査 免疫血液学検査
免疫血清学検査
血液学的検査 血球算定・血液細胞形態検 査
血栓・止血関連検査
細胞性免疫検査
病理学的検査 病理組織検査
免疫組織化学検査
細胞検査
分子病理学的検査
生化学的検査 生化学検査
免疫化学検査
血中薬物濃度検査
尿・糞便等一般検査 尿・糞便等検査
寄生虫検査
遺伝子関連・染色体検査 病原体核酸検査
体細胞遺伝子検査
生殖細胞系列遺伝子検査
染色体検査

3. 検体検査の精度管理等に関する
検討会とりまとめ(平成30年3月)について

3. 検体検査の精度管理等に関する
検討会とりまとめ(平成30年3月)について

検体検査の精度管理等に関する検討会とりまとめ(平成30年3月)について

医療法の第8 次改正施行には、さかのぼること9 か月前の2018 年3 月に公表された「検体検査の精度管理等に関する検討会 とりまとめ」(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000200535.html)での議論が基になっています。2017 年10 月27 日、11 月20 日、12 月20 日、2018 年1 月29 日、3 月9 日の5 回にわたって検体検査の精度管理等に関する検討会が行われました。この検討会で、「遺伝子関連検査・染色体検査の場合は、個別検査ごとに検査手法が大きく異なること、また外部精度管理調査の実施主体が限られていることから、免疫学的検査、血液学的検査、生化学的検査において実施されているような広域的な外部精度管理調査を実施できる体制は整っていないことが確認された。」とされました。そこで、この段階での結論として遺伝子関連検査・染色体検査については「医療機関、衛生検査所等の各施設が施設間で連携して、それぞれ保管・保有する検体を用いるなどして、検体検査の精度について相互に確認することが適当である。」と記載されました。1 つのサンプルを複数の施設で相互に測定し、確認することをクロスチェックと言います。

また「今後、大幅に申請件数が増加することも想定されるところであり、それに応じた審査体制の整備も段階的に行う必要があることから、まずは、第三者認定の取得については、勧奨とする。」とされました。

4. 遺伝子関連・染色体検査に必要な書類について

4. 遺伝子関連・染色体検査に必要な書類について

検体検査の精度の確保に必要な書類として、作業の手順を記した書類として標準作業書、台帳、作業日誌とその他になります(表3)。業務(検査)案内書以外で、全部で28 種類になります。遺伝子関連検査も検体検査のうちの一つなので登録衛生検査所やブランチラボにおける遺伝学的検査ではこれらのうち19 書類が、そして医療機関における遺伝学的検査では8 種類が必要になります(図1)。

表3 検体検査に必要な標準作業書、台帳、作業日誌一覧

  標準作業書 台帳 作業日誌
検体採取(案内書) 1.業務(検査)案内書★    
検査全般(依頼・結果含む) 2.検査依頼情報・検査結果報告情報標準作業書(新設) 14.検査依頼情報・検査結果報告情報台帳(新設)  
    15.検査結果報告台帳★  
  3.教育研修・技能評価標準作業書(新設) 16.教育研修・技能評価記録台帳(新設)  
検体受付及び仕分け 4.検体受付及び仕分標準作業書★   24.検体受付及び仕分作業日誌★
血清分離 5.血清分離標準作業書☆   25.血清分離作業日誌★
検査機器保守管理 6.検査機器保守管理標準作業書☆   26.検査機器保守管理作業日誌☆
工程管理・精度管理 7.測定標準作業書(標準作業手順書)☆   27.測定作業日誌☆
  8.精度管理標準作業書(新設) 17.試薬管理台帳☆  
    18.温度・設備管理台帳(新設)  
    19.統計学的精度管理台帳☆  
     (内部精度管理)  
    20.外部精度管理台帳☆  
苦情処理 9.苦情処理標準作業書(新設) 21.苦情処理台帳★  
検体処理 10.検体処理標準作業書(新設) 22.検体保管・返却・廃棄処理台帳(新設)  
委託検査管理 11.外部委託標準作業書(新設) 23.委託(外部委託)検査管理台帳★  
検体受領・搬送(外部から受託する場合) 12.検体受領標準作業書(新設)★   28.検体受領作業日誌★
  13.検体搬送標準作業書(新設)★   29.検体搬送作業日誌★

☆は遺伝学的検査について医療機関において必要なもの厚生労働省令からまとめ(2018年7月27日)

☆および★は遺伝学的検査について衛生検査所、ブランチラボにおいて必要なもの

図1

5. 遺伝子関連・染色体検査における「診療の用に供する」とは

5. 遺伝子関連・染色体検査における「診療の用に供する」とは

遺伝子関連・染色体検査における「診療の用に供する」とは

「検体検査の精度管理等に関する検討会 とりまとめ」(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000200535.html)では「疾病の診断や、治療効果の評価などの診療の用に供する目的ではなく、研究目的で検体検査を実施する場合においても、精度管理に努めることが望ましいが、医療法又は臨検法に基づく精度の確保に係る基準を遵守する必要はない。ただし研究目的で実施する場合には、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針等、当該研究の目的や内容に応じて適用対象となる指針を遵守するとともに、当該検体検査の精度の確保の状況を含めて被験者のインフォームド・コンセントを受けることが望ましい。」とされます。ここで言う「診療の用に供する」かどうかが重要なポイントになります。病院や登録衛生検査所など精度管理されたものを医療(診療)とし、それ以外を非医療とするのであれば研究室で行われたものは、研究目的ではなく、医療に貢献しているものとしても、後者(非医療)として扱われることになりました。

そこで遺伝子関連検査・遺伝子解析を研究室などで実施した際に発行する報告書に「この解析はヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針を遵守して行われた結果であり、臨床検査としての結果ではありません。医療における検体検査の精度管理の確保に係る基準を遵守する必要がありません。」などの記載をすることが必要でしょう。実際は多くの研究室では正確な結果を出しており、臨床検査室と同等かそれ以上の精度で行われていると思われます。ただし研究室で実施された遺伝学的検査結果に対して今後は精度管理された施設で確認検査をする方向性が示される可能性があります。

6. 遺伝学的検査の外部精度管理調査としてクロスチェックについて

6. 遺伝学的検査の外部精度管理調査としてクロスチェックについて

遺伝学的検査の外部精度管理調査としてクロスチェックについて

遺伝学的検査の外部精度管理調査の受検は重要であり、努力義務とされました。しかし病原体核酸検査や体細胞遺伝子検査に比べて外部精度管理調査が広く行われる体制が整備されていないようです。そこで、私の施設では「多施設におけるDNA 塩基配列決定法の精度管理体制構築」というテーマにて当施設の倫理委員会の承認を受けました。遺伝学的検査の外部精度管理調査としてのクロスチェックについて施設外からの申し込みを受けています。受検施設には「遺伝学的検査の外部精度評価実施証明書」を発行します。こぞってお申込みください。

■遺伝学的検査の外部精度管理調査の受付

遺伝学的検査の外部精度管理調査を下記の項目について実施いたします。

1. 実施項目

ヒトゲノムDNAにおけるバリアントのgenotyping一致率検討
この外部精度管理調査は「多施設におけるDNA塩基配列決定法の精度管理体制構築」として日本大学医学部倫理委員会を通過しています(許可番号263-1)。
同意書にて同意いただいた方のヒトゲノムDNAをサンプルとして用います。申し込みされた施設にはサンプルを郵送します。ある遺伝子の一部をダイレクトシークエンシングや次世代シークエンシングなどで塩基配列を決定していただきます。そしてあるバリアントについて遺伝型を決定(genotyping)していただきます。同一サンプルについて複数の施設間でgenotypingの一致率を割り出し評価をします(クロスチェック)。
受検施設には「遺伝学的検査の外部精度管理調査実施証明書」を発行します。
その報告書をもって外部精度管理調査受検とします。


2. 参加申し込み方法・詳細については下記にお問い合わせください。

日本大学医学部病態病理学系臨床検査医学分野
日本大学医学部附属板橋病院臨床検査医学科
中山智祥
03-3972-8111