日大医学雑誌

小児の生活習慣病予防とは心血管病の
primary prevention である

総説

著者

岡田 知雄  黒森 由紀  宮下 理夫  原田 研介
日本大学医学部小児科学講座

はじめに

近年におけるわが国の心血管病による死亡率は 30%である.生活習慣の欧米化に伴い,その罹病率と死亡率の増加が問題となっている1).最近,AHA は心血管病の予防戦略として,もはや小児期からの対応は early preventionではなく primary prevention であるという書き方に変わってきたのである2, 3).すなわち,心血管病の基盤である動脈硬化性病変は,小児期すでに生活習慣病の存在下に進展することが病理学的に証明されていること4~6).また,有効な予防策として幼児期から肥満の発生抑止が非常に重要な課題であると認識されてきたからである.小児の肥満はその 70~80%が成人期に移行し7),膨大な医療費のかさむ疾病の温床になっている.成人になってから生活習慣病へ対応するのでは,遅すぎる上に効果はあがりにくいというわけである.さらに,リスクの減少は,動脈硬化の発症を遅らせたりその経過を変えることができることも多くのエビデンスをもって証明されてきており,冠動脈疾患の一次予防は小児期において始めるべきものとする認識を持つべき時代が到来したといえるであろう2, 8, 9).また,最近,生活習慣病は胎児期にその素因が作られるという成人病胎児期発症説が唱えられはじめた.すなわち,妊娠末期に母体が低栄養にさらされ胎児が低体重で生まれると,BMI が高いランクで推移し,大人になってから肥満や糖尿病や高血圧,虚血性冠動脈疾患などの生活習慣病の発症のリスクが高くなるという説で,最初の提唱者である Barker にちなんで Barker仮説と呼ばれる10).このような,胎児プログラミングの要因についても遺伝のみでなく,心血管病の一次予防として考えておかねばならない.

keyword

childhood obesity, childhood life style-related diseases, metabolic syndrome, cardiovascular disease,
primary prevention
小児肥満,小児の生活習慣病,メタボリックシンドローム,心血管病,一次予防