日大医学雑誌

頭 頸 部 癌 治 療 の 最 近 の 進 歩

同窓会学術奨励賞受賞講演

著者

遠  藤  壮  平
日本大学医学部耳鼻咽喉科学講座

はじめに

本邦では癌は 1981 年に死因の第 1 位になって以来,その死亡率は全体では依然として上昇傾向にある1) (Fig.1).しかしながら癌になり易さは年齢の 4 乗に比例して増加する2) と言われているので,本邦における人口構成の急速な高齢化が癌死を増加させている側面もある.年齢構成を 1985 年と同じに調整して癌死数を比較することによって初めて割合として癌死が増えているかどうかを評価することが出来る.Fig. 2 に年齢調整死亡率から求めた腫瘍臓器の癌死率を示す.1998 まで癌死の第一位であった胃癌は既に 1960 年に死亡率のピークを迎え以降は低下していることが判る.肺癌,大腸癌なども 1990年代後半まで死亡率の増加を認めたが,以降は減少に転じている.それに比較して喉頭癌死亡率は余り変化していないし,口腔・咽頭癌死亡率に至っては未だに増加傾向を示している.更に頭頸部癌に限った死亡数の年次推移をみてみると (Fig. 3),上顎癌に代表される鼻・副鼻腔癌 (統計的には中耳癌も含まれてしまうが) は 1970 年には頭頸部癌死因の最多であったが以降は減少し,それに代わって口腔癌,甲状腺癌,下咽頭癌,中咽頭癌が増加しているのが判る.特に口腔癌に関しては 1990 年代になってから驚異的に増加しているのが判る.また,2002年というポイントで見てみると,本邦における癌死亡総数は 30 万 4 千余人であり,そのうちで悪性リンパ腫を除く頭頸部癌による死亡数は 8,176 人 (2.7%) であった.その内訳は,口唇・口腔癌による死亡数が 2,662 人であり,頭頸部癌死の内で最多の 32%を占めた.次いで咽頭癌による死亡が 25%を占め,両者で約 6 割となっていた(Fig. 4).  このように口腔・咽頭癌は,頭頸部癌の中でも主要な死因であり,死亡数の推移からみても未だに制御されていない癌と言える.本論文では当科で口腔・咽頭癌に対してどのように対処し,その治療成績を改善してきているかを紹介する.