日大医学雑誌

ヒト淡明型腎細胞癌病期特異的発現遺伝子の同定

原著

著者

北島 彰子1, 2)  滝本 至得1)  江角真理子2)
1)日本大学医学部泌尿器科学講座
2)日本大学医学部病理学講座

要旨

ヒト腎細胞癌の発育進展機構を知るために,TNM 分類による T1a, T1b, T2, T3 の腫瘍における発現遺伝子の違いを解析した.オリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いた包括的遺伝子発現解析を行い,各病期間で発現量の異なる遺伝子を検索した.その結果,37 遺伝子が候補に挙がった.これらについて,症例を増やしリアルタイム PCR を用いて相対的発現定量解析を行った.その結果,37 遺伝子のうち発現に有意差を認めたのは 7遺伝子であった.T1a: T1b の比較では T1a で発現が高い遺伝子が 1 個,T1b で発現が高い遺伝子が 2 個みつかった.浸潤の有無 (T1&T2: T3) で発現の異なる遺伝子は 4個で,いずれも浸潤のある腫瘍で発現増強を示した.さらに,浸潤の有無 (T1+T2: T3) の判別に有用な 3遺伝子の組み合わせを見いだした (正答率 100 パーセント,p = 0.004).これらの遺伝子には,増殖関連遺伝子が5 個含まれていた.病期の進展に伴い,異なる増殖関連シグナルが働いていることが示唆された.これらの遺伝子は病期や予後などを診断,推測する上で役立つことと思われる.

keyword

renal cell carcinoma, TNM classification, gene expression, microarray, real-time RT-PCR
腎細胞癌,TNM 分類,遺伝子発現,マイクロアレイ,リアルタイム RT-PCR