2024年度も終わりに近づいて、ついに新校舎の建築が始まりました。私の教授室の前の庭は、仮校舎の建設が予定されており、庭木やベンチが整理されました。ヒポクラテスの木もあったのですが、きっとどちらかに一時的に移されているのだと思います。ヒポクラテスの木とは、プラタナスの木のことで、 医学の父と呼ばれる古代ギリシャの医学者ヒポクラテスが,プラタナスの大樹の陰で弟子たちに医学を教えたことから、医学教育施設の庭には、よく植えられているようです。医学の芽生えの光景に思い巡らせて、学問を追求する新たな場所が整備されることに、期待が高まります。まずは、ここから始まって、4年後に医学部校舎が完成します。
本年度から、板橋病院は吉野脳神経外科教授が院長に就任され、新たな病院執行部を組織して、経営の改善に向けて取り組んでいます。とはいえ、これまでの院長の先生方が様々な工夫をされても思い通りにはいかず、かつ全国の多くの病院も同様に直面している難しい局面であり、一筋縄にはいきません。大学医学部付属病院であるからこそできる様々な活動を大切にするためにも、経営の面も歯を食いしばってやりたいと思います。
糖尿病・代謝診療においては、昨年のこのご挨拶でも述べたGLP-1受容体作動薬を基盤とする治療のうねりが大きな展開を遂げています。GLP-1受容体とグルカゴン受容体の両者に作用する薬剤を昨年紹介しましたが、まだ市場には出ていません。間もなくと思われますので、期待したいと思います。これまで、いろいろな食事療法や運動療法を含めた生活習慣の改善を患者さんと話し合い、既存の薬剤の組み合わせをいろいろ試し、それでも期待するような血糖コントロールが得られなかった患者さんの半分近くが、GLP-1受容体作動薬を基盤とする薬剤により、改善しています。患者さんとともに、非常に喜んでいる私の頭の片隅で、今まで何をやってきたのだろうか?という思いがよぎったりもします。生体は実に精密にできたものであり、その働きが一度軌道をはずれると、外から介入して戻すのは非常に難しいのです。人類はそれを一つ一つ解いてきたわけです。そのことの素晴らしさに、うれしい思いが湧き上がります。
医局の研究活動は、さまざまな難しい事象もありますが、基礎研究と臨床研究が統合するような形で、physician scientistの小集団として一閃の輝きを放つべく、努力を続けています。
いうまでもなく、世界は混乱に突き進みつつあります。どんな波が押し寄せてくるか想像もできませんが、個々の人間が、自分に与えられた医師としての役割をしっかり理解して、粛々とその役割を果たしていくしかないと思います。医局員一同団結して、教室の診療・研究・教育に邁進していきます。ご指導・ご鞭撻のほど、宜しくお願い申しあげます。
2025年3月
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