前立腺癌の症状と治療【日本大学医学部 泌尿器科】

前立腺癌

疫学

前立腺と一言で言っても場所がわからない方がほとんどだと思います。 前立腺は骨盤の中、膀胱の下、尿道の付け根に位置し、精液の一部を作りだす 臓器で男性にしかありません(図)。前立腺癌は複雑です。

男性泌尿器

ひとつには高齢者のことがあります。一般に高齢者とは65歳以上を指し、国勢調査に おいてこれら高齢者は75歳を境に前期高齢者(65-74歳)と後期高齢者(75歳以上)に分類されます1)。 後期高齢者の生物学的背景としてはまず平均余命が挙げられます2)。 今後の変動はあるとしても、後期高齢者の平均余命は約10年以下と考えられます。

次に生理機能です。一般に後期高齢者では肺機能は健常人の75%、心機能は70%、腎機能は 50%に低下するといわれていますが3)、これらのことは後に述べる治療選択に影響します。

潜在癌

前立腺癌を複雑にしているもうひとつの要素に潜在癌があります。 潜在癌とは生前、癌と 診断されず、死後剖検によって初めてその存在が確認される癌を指します。 70歳以上の日本人剖検例では40%以上に潜在癌が認められ、欧米との比較において本邦の潜在癌の 頻度は変わらないのに臨床癌の頻度は1/3から1/4と少ないことが報告されています。

この原因として食事、生活環境などの差が癌の進行に影響していることが推測されました4)。 いまひとつはinsignificant cancerについてです。

さきに述べた潜在癌の存在から、多様な方法で発見される後期高齢者の 前立腺癌のすべてに治療が必要とは考えられず、発見された 癌が患者にとって有害で治療を要するもの(significant cancer)か 否か(insignificant cancer) という問いが生まれます。

significant cancerの定義には、期待余命や腫瘍体積倍加時間、分化度 を加味した定義があり、平均余命を過ぎたとき、腫瘍体積が20ccに到達しないものを insignificant cancerとしています。

分化度については年令で層分けしていて60-69歳では Gleason score6以下、70-79歳では7以下と定義されています。この場合 insignificant cancerは0.3-14.5%でした5)。

つまり全摘症例の検討から は、significant cancerのほうが圧倒的に多いといえます。日本人症例については平均余命を 補正して全摘症例を検討した結果では、とくに(後で述べる)T1c癌ではinsignificant cancerの割合が 10-50%と高いことが警告されていますが6)、現在のところ全摘以外に治療前に腫瘍体積を正確に 決める手立てがないのでいずれかの治療を行うのが原則です。

当院前立腺癌症例の臨床病期、分化度を 前期高齢者と後期高齢者で比較すると進行癌が後期高齢者に多い傾向がありますが、比率に大きな差は ありません。従って、前期高齢者と後期高齢者の前立腺癌に増殖、進行速度の差がないとすれば、両者の違いは 平均余命と生理機能のみと考えられます。

前立腺癌の症状と前立腺生検

前立腺癌特有の症状はありません。後で出てくる前立腺肥大症と共存することもありえます。

このときは排尿困難頻尿尿道出血(下部尿路症状)などがみられます。

u 現在では採血でPSA(前立腺特異抗原)を測定して、前立腺生検をおこなう べきかどうか決めます。検診でPSAが高くて来る患者さんも稀ならずいます。 転移による症状がおこり、骨転移のための腰痛で来る患者さんもいます。

前立腺生検は当院では1泊2日で行っています。外来で午後局所麻酔、横向きに 寝てエコー(超音波)をみながら経直腸的におこないます。輸血用の針で12箇所ほど 刺します。施行時間は10分ほどです。術後尿閉、血尿、発熱が3−5%ほどの患者さ んで起こりうるので1泊2日です。

前立腺癌が検出された場合は、転移がないかどうかみます。 おもに骨盤内リンパ節をみるためCTを、骨転移をみるため骨シンチをとります。

前立腺癌のタイプ

限局癌から進行癌までAからDまで分けます。AはTURなどで見つかったもの、Bは 限局癌で前立腺に限局してふれるもの、Cは局所進行癌、Dは転移癌です。 骨盤内リンパ節に転移があればD1,骨転移があればD2です。

治療(限局癌)

教科書的にはA2からB1,B2までが入ります。

前立腺全摘ブラキセラピー (ヨウ素125シード線源による 永久挿入密封小線源治療;前立腺癌で行う内照射;夏から 日大板橋病院でも導入いたします)、外照射のいずれか単独かホルモン療法 との併用です。

ホルモン療法は、本邦では、LH-RHアナログを中心とした 内分泌療法が主体を占めていると考えます(1ないし3ヶ月に一回皮下注射)。

一方、医療経済的観点から今後は、除睾術も見直される可能性があります。 限局癌が生命予後に影響をおよぼすには10年以上の経過が必要 であり、期待余命(life expectancy)10年以下の症例には侵襲的な 治療を選択すべきでないとされています7)。

このことから、平均余命10年以下の 限局癌に関してはwatchful waitingとして、明らかな症状や進行がみられてから 治療を行うという考えがあります。

限局癌と考えられる223人(平均年令72歳)の watchful waiting例に関し、15年の平均観察期間で疾患特定生存率が81%で あったことから、watchful waitingの有用性が報告され8)、一方、低分化(Gleason score7-10)癌 でwatchful waitingを行った場合、たとえ診断時年令が74歳でも癌死の危険が高いことが報告されています9)。

watchful waitingの長期成績に関して結論はいまだ得られておらず、現在randomised studyが おこなわれ、結果待ちの状況です10)。したがって、watchful waitingを積極的に行う指針は まだありません。

暫定的には、
(1)低分化癌でないこと
(2)経時的なPSAの上昇など進行を示唆する所見のないこと
(3)治療が不利益をもたらす可能性のある、生理機能の低下や併存疾患のないこと
を参考に個々の症例で判断するしかないと考えます。

治療(進行癌)

進行癌に関しては、非侵襲的かつ全身的な治療を行います。 本邦では内分泌療法がその大部分を占めると考えられます。 ホルモン療法単独では平均約2年でふたたびPSAが上昇するので、 つぎに抗癌剤による治療(多くはドセタキセル)が必要なことがあります。 金丸らは長期成績の検討から、進行癌は後期高齢者であっても、明らかに 生命予後に悪影響を及ぼすことを示しています10)。

文献

1)総務庁統計局:国勢調査、1997.

2)厚生省大臣官房統計情報部:第18回生命表、1997.

3)臨床外科 33:1081-1178、

4)Yatani R, Shirasaki T, Nakakuri K et al.:Trends in frequency of latent prostate carcinoma in Japan from 1965-1979 to1982-1986. J Natl Cancer Inst.80:683-687, 1988.

5) Dugan JA, Bostwick DG, Myers RP, et al.: The definition and preoperative prediction of clinically insignificant prostate cancer. JAMA, 275:288-294, 1996.

6) Egawa S.:Impact of life expectancy and tumor doubling time on the clinical significance of prostate cancer in Japan. Jpn J Clin Oncol 27:394-400, 1997.

7) Walsh PC: The natural history of localized prostate cancer. Campbell s Urology (eds. by Walsh PC, Retik AB, Vaughan ED, et al), Seventh edition, Saunders, Philadelphia, 1997,pp. 2539-2546.

8)Johansson JE, Holmberg L, Johansson S, et al.: Fifteen year survival in prostate cancer: a prospective, population- based study in Sweden. N Engl J Med 277:467-471, 1997.

9) Albertsen PC, Hanley JA, Gleason DF, et al. Competing risk analysis of men aged 55 to 74years at diagnosis managed conservatively for clinically localized prostate cancer. JAMA 280:975-980, 1998.

10) Wilt TJ and Brawer MK.: The Prostate Cancer Intervention versus Observation Trial (PIVOT). Oncology 11:1133-1139, 1997.

ブラキセラピーの導入

ブラキセラピー(ヨウ素125シード線源による永久挿入密封小線源治療;前立腺癌で行う内照射) 夏から日大板橋病院でも導入いたします。

腰椎麻酔を行い超音波を見ながら小さな線源を いくつか前立腺に刺入します。

2時間ほどの予定です。現在3泊4日を予定しています。


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