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神経膠腫(グリオーマ)に対する覚醒下手術

神経膠腫(グリオーマ)とは,脳実質より発生する腫瘍であり,その手術に際しては,脳機能を温存しつつ,いかに腫瘍を最大限に摘出するか,ということがポイントとなります。1996年,本邦で初の覚醒下手術が当施設にて行われました。以後,独自に開発した術中マッピング・モニタリングを組み合わせ,さらにナビゲーションシステムや術中蛍光標識腫瘍観察モジュールなどの手術支援法を駆使することによって,大切な神経機能を保護しつつ摘出手術を行っております。その手術成績はこれまでの報告を大きく凌駕するものであります。

神経膠腫はグレード1から4に分類されますが,グレード1は成人の大脳にはほとんど発生しませんので,覚醒下手術が必要となるのはグレード2から4のものとなります。特にグレード4の膠芽腫(グリオブラストーマ)はきわめて治療に難渋する浸潤性の悪性腫瘍です。従来の報告では,手術ではほとんど摘出できず,平均生存期間は12ヶ月前後といわれておりました。

当施設では,覚醒下手術が行われるようになった1996年から2008年までの間,78例の膠芽腫を手術してきました。その78%で腫瘍は全摘出されており,平均生存期間(中央値)は20ヶ月でありました。また,同期間,グレード2では51例,グレード3では36例の方が手術を受けられております。現時点でそのほとんどの方が生存されており,5年生存率は,グレード2では92%,グレード3では66%でありました。

手術中に覚醒させると言うと,不安,恐怖感を感じる方も少なくはありませんが,脳自体には痛みを感じる神経はありません。皮膚を切開し,頭を開く(開頭)までは,通常の全身麻酔で行いますので,まったく苦痛はありません。開頭が終わった段階で,麻酔を醒ませます。腫瘍の摘出は,覚醒状態のまま,医師と話ながら行います。これによって,言語などの大切な脳機能を保護しながら,最大限の腫瘍摘出を遂行することが可能となります。腫瘍摘出が終了したら再び全身麻酔として頭を閉じます(閉頭)。

覚醒下手術を受けられた方にアンケートを行ったところ,半数の方は手術中のことをまったく覚えておりませんでした。そして手術中にストレスや苦痛を感じた方は皆無でありました。当施設では,覚醒下手術に精通した麻酔科医と脳機能マッピング・モニタリングを専門とした脳神経外科医とでチームを組んでおり,安全で高い腫瘍摘出率が得られるように工夫した独自の方法で,覚醒下手術を行っております。

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メールにて対応致します。

脳神経マッピング・モニタリングを用いた聴神経腫瘍・頭蓋底髄膜腫の摘出手術

脳を覆う髄膜より発生する髄膜腫や聴神経などの脳神経より発生する神経鞘腫では,完全摘出によって治癒が期待できます。しかし,頭蓋底部や脳幹近傍の腫瘍では,顔面神経や眼球運動神経などが腫瘍に巻き込まれていることが多く,その摘出は必ずしも容易ではありません。

当施設では,独自に開発した脳神経マッピングとモニタリングを駆使することにより,脳神経機能温存を計りつつ手術を行うことが可能となってきました。

特に聴神経腫瘍については,2002年から2009年までに,84例の方が当施設にて手術を受けられました。後遺症として顔面神経麻痺がみられたのは4例(5%)のみであり,その温存率は95%でありました。

脳神経が腫瘍に巻き込まれ,その剥離が困難な場合には,無理して腫瘍を全摘出せずに,エックスナイフなどの定位的放射線治療を選択するようにしています。

診療科から

メールにて対応致します。 メールアドレスはtakao@med.nihon-u.ac.jpです。

神経刺激制御療法(ニューロモデュレーション療法)

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日本大学脳神経外科では,脳や脊髄を電気刺激し,神経機能を制御・修正して病気の治療を行う神経刺激制御療法(ニューロモデュレーション療法)に以前より力を入れてきました。ニューロモデュレーション療法には,脳の深部に電極を挿入・留置して刺激を行う脳深部刺激療法と脊髄の表面に電極を留置して刺激を行う脊髄刺激療法があります。これ以外にも大脳皮質を刺激する方法や体内にポンプを植込んで神経系に持続的に直接薬剤を注入する方法などがありますが,脳深部刺激療法と脊髄刺激療法が現在は中心的な存在です。

脳深部刺激療法は,1979年に我々の施設にて本邦第一例目が行われ,現在も全国一の手術経験数を誇っています。脊髄刺激療法についても本邦では最も早くこの治療を導入した施設の一つで,手術症例数も全国トップレベルにあります。以下に各々の治療法の内容を説明します。

脳深部刺激療法

脳深部刺激療法は,脳の中に直径1 mmちょっとの細くて柔らかい電極を植込み,弱い電気刺激を持続的に送って病気の治療を行う方法です。電気刺激の発生装置は,心臓のペースメーカーと似たしくみの機械で胸部の皮下に植え込みます(図1)。脳深部刺激電極や刺激発生装置はすべて体内に植込んでしまいますので外から見てもわかりません。刺激を行っている状態で運動や入浴をすることも可能です。ただし,刺激装置の電池には寿命があり,4〜5年に一度,電池交換のための局所麻酔下で行える簡単な手術が必要となります。

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(図1)

脳深部刺激療法は,今からおよそ50年前に薬物での治療が困難な慢性の痛みの治療法としてその研究がはじめられました。その後,パーキンソン病などの不随意運動症の治療法としても有効なことがわかり普及してきました。日本国内では,不随意運動の保険適応となった2000年には年間100件程度だった手術件数は,2009年には年間800件以上になり,すでに全国で5000人以上の患者さんがこの治療を受けています。最近,欧米ではてんかんや精神疾患,痴呆症などの治療法としての研究も進められています。

脳深部刺激療法はすべての装置を植え込んだ後も特殊なプログラマーを用いて簡単に刺激のオン・オフを切り替えたり刺激の強さや速さなどの条件を調整することができます(図2)。このため治療を開始した後に何か問題となるような副作用が発生してしまっても,スイッチを切ればほぼもとの状態に戻せます。また,病期が進んで病態が変化しても刺激条件を調整して対応することが可能です。こうした作用を「可逆性」と「調節性」といい,脳深部刺激療法の優れた特長とされています。

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(図2)

脳深部刺激療法が有効な疾患としては,パーキンソン病,ジストニア,本態性振戦(ふるえ),難治性の痛みなどが挙げられます。パーキンソン病は体が硬くなり動きが遅くなったり震えが出現したりする病気です。はじめのうちはお薬による治療がとてもよく効きますが,徐々にお薬が効く時間が短くなったり,体が勝手に動いてしまうジスキネジアや幻覚などの薬の副作用が出現するようになってきます。進行して薬による治療が難しくなったパーキンソン病には脳深部刺激療法が有効なことがわかっています。パーキンソン病はいろいろな病気の中でも最も多く脳深部刺激療法が用いられている疾患です。

ジストニアという病気は筋肉の緊張に異常をきたし運動がうまく出来なくなったり筋肉の緊張に伴う痛みが生じたりする病気です。筋肉の緊張が起こる部位は,全身であったり,頸部だけだったり(痙性斜頚),上肢だけだったりと様々です。従来はほとんど治療法のなかった病気ですが,タイプによっては脳深部刺激療法がとてもよく効きます。とくによく効くタイプは子供の時に発症した全身性のものです。さらにお薬での治療が困難な本態性振戦(ふるえ)やひどい痛みの治療としても有効です。

ただし,この治療を受けても多くの場合,病気そのものが治ってしまうわけではありません。ですから,刺激を持続的に続け適宜刺激条件を調整しなければなりません。さらに,電極を入れるための手術に際しては,約2%程度の脳内出血の危険があります。出血をおこした場合でも半分以上の患者さんは無症状もしくは一時な障害のみで回復しますが,後遺症を残すこともありえます。これらの点は患者さんとそのご家族によく理解して頂かないと手術を行うことはできません。

脊髄刺激療法

脊髄刺激療法は主に慢性的な痛みの治療として用いられています。最近では脳深部刺激療法よりも痛みの治療法としてはこちらをよく用いるようになってきています。電極を留置する部位は脊髄の膜の外側になりますので,脳深部刺激療法に比べ手術は簡便で危険性もそれ程高くありません。鎮痛剤を使っても腰の手術を受けても良くならなかった下肢や腰の痛み,手足の血液の流れが悪くなることによる痛みに有効であることが知られています。さらに脳血管障害後やヘルペス後,手足の切断後に起こってくる幻肢痛という痛みなどにも有効です。

脊髄刺激療法にも脳深部刺激療法と同様に「可逆性」と「調節性」という特長がありますが,脊髄刺激療法で植込む装置では患者さん自身が専用のプログラマーを使用して刺激のオン・オフや強さ・速さなどを調整することができます。このため最適な刺激条件を患者さんが自分自身で感じ取って設定することができます。

診療科から

現在かかっている先生がいらっしゃる場合は,できるだけその先生の紹介状をお持ちになって脳神経外科外来を受診して下さい。通常は,手術の適応があるかを検討するための1週間程度の検査入院が必要となります。

脳血管内治療

脳血管内治療とは

脳血管内治療とは外科手術のメスの代わりにカテーテルと呼ばれる細く長い管を脳血管に挿入して血管の内側から病変を治療する方法です。具体的には足の付け根の血管からカテーテルを入れて脳血管に到達させ,病気を起こしている部位で診断や治療を行います。カテーテルが足の付け根から脳に到達する様子や,病気を起こしている部位での検査や治療を行っている様子は,放射線診断装置のモニターをチェックしながら行われます。

この治療は近年,急速な進歩を遂げています。その理由は,診断技術の向上や脳ドッグなどによる患者数の増加に加えて,治療機器の進歩によるものです。脳血管内治療は足の付け根の部分である鼠径部から大動脈を経由して頭部までの長距離で屈曲・蛇行した経路を通る必要があり,さらに治療は手元から約1.5メートル先(カテーテルの標準的な長さ)に離れたわずか数ミリ程度の病変に対して行う必要があります。血管を傷つけにくい高性能のカテーテルとカテーテルを誘導するガイドワイヤーの登場により,このような微細な操作が可能なものとなりました。

さらに,安全で正確な治療を行うためには,高性能な血管撮影装置も重要です。当院では最新型の血管撮影装置を用いて,複雑な脳血管の三次元の立体像を素早く描き出し診断や治療計画を迅速に決定しております。

また,この治療による侵襲(体力的な負担)は脳血管撮影と呼ばれる検査とほぼ同じ程度であるため,高齢の方や全身合併症等で外科手術が受けられない患者さんでも少ない負担で手術と同等の治療効果が期待できます。また,創処置や長期間の点滴も不要で治療後早期からベッドから起き上がることができるため,入院期間も短縮できます。

脳血管内治療の対象となる疾患

主として脳卒中の急性期治療(くも膜下出血の脳動脈瘤コイル塞栓術,脳梗塞の局所血栓溶解療法など)から慢性期の再発予防(頸動脈狭窄のステント留置術など),未破裂脳動脈瘤のコイル塞栓術を中心に幅広い範囲の脳血管内治療を行っています。

日本脳神経血管内治療学会では,2001 年から厳しい審査で指導医・専門医の認定を行っています。2010年3月現在,指導医123名,専門医423名の合計546名が日本全国の脳血管内治療の専門家として認定されています。当院では指導医1名,専門医2名が治療を担当しております。

診療科から

脳神経外科外来へお問い合わせください。

脳血管外科

脳血管障害(脳卒中)は,脳の血管が詰まったり,切れたりして,神経の障害を生じる状態です。この脳血管障害は,日本における死亡原因の第三位に位置するとともに,寝たきりになる原因の第一位であり,非常に恐い疾患です。脳血管障害には,脳梗塞,脳出血,くも膜下出血が含まれます。これらの脳血管障害を手術により治療したり予防したりするのが脳血管外科です。

脳梗塞

脳の血管が詰まり,血液による脳への酸素や栄養の運搬が障害され,脳組織が死滅してしまう状態です。脳の血管につながる首の血管(頸動脈)は,動脈硬化により狭くなりやすく,この狭くなった状態を頸動脈狭窄と呼びます。頸動脈狭窄が高度になると,血液をサラサラにする薬を飲むなどの内科的治療を行っていても脳梗塞を生じてくる確率が高く非常に危険です。外科的にこの狭くなった部分を摘出して,脳梗塞になる危険性を減らすのが頸動脈血栓内膜切除術です。

また,頸動脈や脳の血管が完全に閉塞もしくは非常に狭くなっており,脳の血流が高度に低下している場合には,脳の血流を増やす血行再建術(バイパス術)が行われます。

脳出血

高血圧などにより脳の血管が切れて出血を生じ,脳を破壊するのが脳出血です。出血が小さい場合は,血圧のコントロールや止血剤の投与などにより出血の拡大を防ぐ内科的治療を中心に行います。出血が大きい場合には,出血を除去する手術が行われます。

くも膜下出血

脳の表面にはくも膜という膜が存在します。このくも膜の下(脳の表面)に出血し脳全体にダメージを及ぼすのがくも膜下出血です。脳動脈瘤とは脳血管の一部が膨らんだ状態であり,くも膜下出血の多くは,この脳動脈瘤の破裂が原因です。一度破裂した脳動脈瘤は高率に再破裂を生じ,再破裂による出血はしばしば致命的となります。

これに対し,脳動脈瘤にクリップをかけ再破裂を防止するクリッピング術が行われます。動脈瘤の形や位置,あるいは患者さんの状態により,カテーテルで血管の中から脳動脈瘤に詰め物をして再出血を防止する血管内手術や,脳動脈瘤が出ている脳血管そのものをクリップで遮断するトラッピング術,脳動脈瘤の表面を手術用綿などで覆うラッピング術などが選択される場合があります。

破裂する前に発見された未破裂脳動脈瘤に対しても,上記の外科的治療を行うことで,くも膜下出血を未然に防ぎます。

診療科から

脳血管外科専門外来で,症状,画像診断などによる医学的評価を行い,患者さんご本人およびご家族とお話ししながら適切な治療法を選択していきます。

間脳下垂体外科

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下垂体腫瘍や頭蓋咽頭腫と言った間脳,下垂体部に出来る病気は他の部位に出来る脳の病気と異なり,内分泌機能障害を伴うため,その診断・治療にはより専門的な知識と技能が必要です。このような疾患を内分泌内科や小児内分泌科と協力し合い外科的治療を中心に診療を行っていくのが間脳下垂体外科です。

脳下垂体は径10mm弱の大きさで,頭蓋底のほぼ中央にあり,全身のホルモンの中枢として働いています。脳下垂体に腫瘍(しゅよう)ができると,視神経や視交叉に近接しているため,視力・視野障害が特徴的な症状になります。それ以外に腫瘍はホルモンを産生しないタイプと産生するタイプに分けられ,それぞれ特有の症状をひき起こします。

主な症状

  • 目が見えにくい(下垂体腫瘍)
  • 頭痛がする(下垂体腫瘍)
  • 手足の先端(靴や指輪のサイズが合わなくなった),あごや舌が肥大する,糖尿病,高血圧になった(先端巨大症,成長ホルモン産生下垂体腫瘍)
  • 月経が止まった,乳汁がでる(高プロラクチン血症,プロラクチン産生下垂体腫瘍)
  • 顔が赤く,丸くなった(クッシング病,ACTH産生下垂体腫瘍)
  • 尿が多い(尿崩症)

診断

診断はCTやMRIとホルモン採血によって,専門医によって正確に行われます。

治療

プロラクチン産生腺腫だけは薬物療法が第一選択になりますが,その他の疾患に対しては原則手術が第一選択になり,腫瘍をできる限り多く取り除くことで解決します。手術は,開頭手術ではなく経鼻的下垂体手術(内視鏡併用)で行います。経鼻的下垂体手術はすでに確立した手術で,鼻の穴もしくは上口唇粘膜を切開し,鼻腔側からアプローチする手術です。開頭手術のように傷あとが残ることはないので,患者さんは社会復帰しやすいといえます。また近年内視鏡による手術方法が確立され,当院でも導入しており,より安全かつ的確に手術を行えるようになりました。十分に腫瘍が取り除けなかった場合は,術後に薬物療法や放射線療法(エックスナイフ)をおこないます。また,手術後にも内分泌異常をきたすことがあります。その場合にはホルモン治療薬による治療を内分泌内科や小児科とともに行っております。

当院の脳神経外科において,間脳・下垂体腫瘍の外科治療は,内分泌内科,放射線科及び小児科の専門医と密接に連絡をとりあう集学的治療を中心にして,患者さんの生活の質の向上をめざしています。ご不明な点などございましたら,お気軽に私どもの外来にご相談ください。

診療科から

外来医長(福島)もしくは午後の間脳下垂体外科専門外来(火曜日)の吉野まで連絡ください。

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