インタビュー

矢久保 修嗣 医師

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身体全体を診ることで,ひとり一人に合った最適な治療を導き出す。

インタビュー 矢久保 修嗣医師(やくぼ しゅうじ)
総合科(内科)外来医長
1984年日本大学医学部卒業,1988年同大学院内科学修了。循環器科臨床医を経て東洋医学外来へ。
日本東洋医学会認定漢方専門医・指導医,日本内科学会認定総合内科専門医,日本東洋医学会代議員など

患者さんの「人間」を診ながら治療方法を決めていく

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私は初めて受診される患者さんに,よくこう言います。『東洋医学とは病気を診るのではなく,患者さんの人間そのものを診る医療です』と。

西洋医学(現代医学)では「この病気にはこの薬」という,治療のパータンがあります。漢方の場合は「どのような体質で,何が原因で,なぜこの症状になったのか?」この流れを読み取って診断をしていきます。だから同じ疾患や症状でも患者さんによって処方する薬が当然異なってくる。患者さんをみるときには患者さんの性格も関係してくるので,「人間を診る」ということがものすごく重要になるのです。

患者さんには初診の段階で,“手足が冷える” “胸がドキドキする” “顔がほてる”など,約100の質問にアンケート形式で答えてもらいます。それを元に,さらに詳しい問診と診察で身体の内側の状態を探っていきます。診察は舌をみる,脈を触れる,お腹をさわるの3つが主要な診察方法です。症状が出ている部位だけでなく身体全体を診ていく。慢性疾患の所見が出やすいお腹の診察は特に重要です。触ってみた私の手の感覚で,ストレスがある,胃腸系が弱い,婦人科系のトラブルがあるなどの体質や症状も分かってくるのです。

東洋医学外来外来には,身体の痛み,頭痛,吐き気,消化不良,下痢や便秘,アレルギー,胸が苦しいなど,あらゆる症状の患者さんが訪れます。

以前,しつこい頭痛が治まらず来院された患者さんがいました。お腹を診るとストレス特有の反応がかなりある。問診で話を聞いていくうちに,ひどいストレスと何かに対する「怒り」が感じられます。さらに突っ込んで聞いてみると,対人関係でトラブルを抱えているよう。念のため血液検査をするとアドレナリンが多量に検出され,心電図からは交感神経緊張の強い反応が出ました。これらを総合的に判断し,ストレスから血圧が上がり頭痛となっているのだと考えました。

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漢方の場合,ストレスや怒りは気の流れを停滞させたり,逆流させたりしていると考えます。気とは目に見えない生命エネルギーのようなもので,頭から足の先へスムーズに流れているのが健康な状態です。この患者さんは明らかに滞っている。それに加えて,逆流している。そこで動悸やイライラに使う漢方薬,気がスムーズに流れていく柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりょうこつぼれいとう)を処方したところ『イライラがなくなり,頭痛がなくなった』と劇的な改善がみられました。実際に血圧を測ってみると20mmHgほど下がっている。やはり,もとにあるストレスが影響していたのですね。身体の源にある精神的なストレス,漢方でいう気の流れにアプローチした,東洋医学の本質に迫った治療例といえます。

西洋医学では治療困難な「冷え」を漢方で治す

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病気ではないけれどなんとなく調子が出ない,その原因に「冷え」が関係している事がよくあります。頭痛,腹痛,肩こり,関節痛,不妊などさまざまな疾患が「冷え」から起こることがあり,私は「冷え」も立派な病気だと考えています。しかし,西洋医学には「冷え」の概念も治療法もありません。一方,漢方では「寒熱」という概念を重要視しています。上手に温めるのというのは漢方の得意技ですから「冷え」の治療は漢方の独壇場とも言えます。どこがどのように冷えるのかを詳細に診察して,それぞれに合った漢方薬を処方しています。合わせて,患者さんの生活習慣の見直しも必ず行っています。身体を冷やす食材を摂らない,身体にやさしく冷やさない服装を工夫する,入浴時はシャワーだけで済まさず湯船につかって身体を温めるなど「養生」も大切。また,「冷え」に関わらず,こんな例もありました。アトピー性皮膚炎と喘息の疾患で来院した患児の食生活を聞くと,週に何回かファーストフードを食べているとのこと。この疾患には乳製品や動物性脂肪,砂糖などの過剰摂取は良くないので「まず,ファーストフードをやめましょう」と指導したところ喘息の改善が見られたのです。食生活を正すことも大事な治療法です。日常生活のなかでひとり一人に欠けている点,偏ったところなどを具体的にアドバイスしながら,病気になりにくい身体づくりのお手伝いもしています。

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『漢方薬は飲みにくいのでしょう?』と聞かれることがよくあります。「良薬口に苦し」といいますが,漢方の立場で言えば「良薬口に美味し」。飲んでいて体調が良くなり,その患者さんに合っている薬であれば,自然と美味しく感じるはずです。

私は『漢方薬は味と香りが大事なので,できれば漢方薬のエキス剤でも,患者さん自身でお湯に溶かして飲んでください』とお話しています。漢方薬には独特の味や香りがありますが,まずそれを味わってもらう。漢方薬には,味覚や臭覚に刺激を与え効果を発揮するものがあるからです。しかし,あまりに美味しくないと言われると,処方が合っていないのかなと考えてしまうこともあります。どうしても飲みにくい場合は遠慮なくご相談ください。また,お子さまの場合は飲みやすくする為にゼリーを使って飲ませたり,オブラートを使うなど,いろいろと飲み方の工夫もしています。

アートからアカデミーに
科学的な検査も積極的に導入

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漢方は患者さんへの問診と診察所見で治療方針を決めていくので,診察する医師の技量や感性に左右されていく「アート」の部分が多くなります。極端な話で言えば,患者さんの顔を見ただけで「この患者さんにはこの薬を使おう」という直感も働きます。一方,西洋医学はさまざまな検査や画像診断などの科学的解析で,どの医師が診ても同じ診断結果を導き出す「アカデミー」の世界。私は漢方も,どの医師が診察しても同じ治療ができるアカデミーの世界に近づけていきたいと考えています。

幸いここは大学病院ですから,西洋医学の各診療科と連携し最新の検査も行なえる。他科の先生方と意見交換をしながら数値化への解析をしていけます。さらに東洋医学外来独自の機器として,爪の生え際の末梢血管を拡大して診る顕微鏡や,腹部の温度を診ていくシステムなども併用しています。脈を診る装置も本学工学部と共同開発しているところです。このように科学の要素を加えながら,漢方を「目で見える」医学へ変えて行こうと,いま取り組んでいる最中です。

東洋医学外来には私の他に,食養生に関する指導をしている医師,癌に関する漢方治療を中心に行っている医師,精神科出身で心の治療を行っている医師,泌尿器科出身,循環器科出身,膠原病科出身で漢方治療をしている医師など,スタッフがひとつのチームとなって治療を行っています。現代西洋医学も取り入れた漢方治療で,病気を治すとともに,病気に罹りにくい身体にしていく,それが東洋医学のめざすものです。治療によって症状が改善してくると,気分も良くなってきます。そうすると治療の為に通院することも楽しいものになってくる。私はこの東洋医学外来が,患者さんにとって健康づくりを楽しむ場になれば,と考えています。

(2010年7月29日 取材)

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