インタビュー

内山 真 医師

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人間にはこらえられないことがたくさんある。 だから患者の立場になりきった「心の触診」をする

インタビュー 内山 真(うちやま まこと)
精神神経科部長
1980年,東北大学医学部卒業。国立精神・神経センター精神保健研究所精神生理部部長等を経て,2006年から現職。
精神保健指定医,日本精神神経学会精神科専門医,日本睡眠学会認定医,日本臨床神経生理学会専門医(脳波),日本女性心身医学会認定医,精神医学系 主任教授

ゆううつ感だけじゃない。
うつ病の症状は全身に表れる

人の気持ちは晴れたり曇ったりを繰り返し,毎日を送っています。けれども,心がどんより曇ったまま,眠れない,食べられない,なんとなく調子が悪い。そんな不安を抱え「もしかしてうつ病かも?」と思ったとき,あなたならどうしますか?

うつ病は“心の風邪”とも表現されるように,かかり始めのケアが大切です。風邪をこじらせてしまうと肺炎になってしまうこともあるでしょう? うつ病もこじらせないのが大事。適切な治療をすれば治る病気。そういう意味でも,最初の段階でこじらせないよう,うつの症状が出たら,専門医に診てもらうことが必要なのです。精神科に抵抗があるなら,まずはかかりつけのお医者さんへ。そこで身体の病気なのか,精神科の専門医にみてもらう必要があるのか判断してもらうのも,受診への第一歩です。

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うつ病とは,どんな病気でしょう? 症状の一番の特徴は,気持ちの落ち込みや不安を積極的に解消できないこと。だれでも,ゆううつになることがありますよね。ふつうなら一晩眠ると昨日の嫌な気分は少し薄れ,数日経てばもっと薄れるかもしれない,と気がらくになってきます。あるいは何かをして気を紛らわしたり,ちょっとふてくされてみたりしながら,嫌なことに対処していきます。しかしうつ病の場合,昨日の嫌な気持ちからずっと逃れられず,休養をとっても解消できなくなってしまうのです。

二番目に,気分の落ち込みが激しくてものが食べられない,食べてもおいしくない,夜よく眠れない,身体がだるい,という身体の症状を伴ってきます。自分がうつ病だと最初の頃は気づきにくいので,身体のどこかが悪いのではないか,眠れないせいで体調が悪いのではないかと思いがちです。それでもなんとか頑張ろうとするので,とても苦しくなり,症状をさらに悪化させてしまいます。

そして,物事に対して関心がもてなくなってしまう。それまで楽しみだったことが楽しめなくなるのも特徴です。例えば毎朝新聞を見ていたお父さんが新聞を見なくなった,テレビが大好きなお母さんがテレビを見なくなった。趣味の庭仕事をしても楽しくない,好きな音楽を聴いてゆううつ感を晴らそうとしてもうるさく感じてしまうだけ。こんなふうに,気を紛らわすことができない症状がでてきます。

患者さんの家族からは,それまで温厚だったのにキレやすくなった,ため息が増えた,表情や生気がなくなった,という声が多く聞かれます。

うつ病は「心の病」ではなく
脳の機能が低下する病気

うつ病の主な治療法のひとつに「薬物療法」,抗うつ薬を使った治療があります。私が「抗うつ薬を投与しましょう」と言うと,気分をハッピーにする麻薬のような怖い薬ではないかと心配する患者さんもいらっしゃいます。そうではなくて,身体が重たい,気持ちが重たい,決断ができないなど,うつ病の苦しい症状を少しずつ和らげ,ゆううつ感をとっていく薬です。脳の中にはセロトニン,ノルアドレナリンという物質があって,うつ病になった状態ではこれが足りなくなっていることが推測されています。この物質が脳の中で減るような薬を飲んでいるとうつ病になりやすく,実際に動物へ投与してみると元気がなくなった,との結果も出ています。そんなことからセロトニンやノルアドレナリンが減った状態でも,うまく節約して使いながら機能を回復させてあげよう,というのが抗うつ薬です。

薬物療法のほかに,本人の状態に合わせた心理的サポート「支持的療法」を行っています。うつ病の方は責任感が強く「周りに迷惑をかけられない」という気持ちから,仕事を休むことを嫌がります。でも,思いきって休み,集中して治療をしたほうが結果的には短期間で回復できます。ですから服薬に対する知識や病気の性質を分かってもらったうえで「身も心も,一定期間ゆっくり休ませてあげましょう。きちんと治療すれば治る病気です」と話し,本人に理解してもらう。不安や悩みも話してもらい,私たちがそれを支持することで,患者さんの気持ちがらくになっていきます。これは病気や自分の症状に理解を深めてもらい,精神の安定を図っていく治療法です。

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最近注目されているものに,認知行動療法があります。うつ病の患者さんは物事を白か黒だけで選ぼうとして,どちらもダメな場合すごく落ち込む傾向があります。例えば自分の好きな音楽家が海外から来日するが,その日は仕事があってどうしても都合がつかないというとき。A:何がなんでも行く。B:仕事があるから全くあきらめてしまう。うつ病の方は,このふたつの答えしか思いつきません。でも,ほかに考え方がありますよね? 休みが合えば格安航空券を使って海外へ観に行こうとか,また来日するかもしれないからそのときを待とうとか。白と黒との間の気持ちの持ち方をうつ病の人はできないので,ゆううつになってしまう。そのゆううつな物の見方を少しずつ解いていくトレーニングをする,これが認知行動療法です。再発予防や,職場復帰する時期にもこの療法を行っています。

そして,「修正型電気痙攣療法」も行っています。入院でしかできない治療法で,薬がなかなか効かない,薬の副作用が出て早急に治さなければいけない,自殺の訴えがあって危険な場合などが適用になります。頭皮上電極から通電を行って脳内にけいれん発作を起こさせて,精神症状の改善を図る治療です。これは非常に効果的な治療法で,薬の効果が現れなかったとき入院してこの治療を受ける方法もあります。

ほとんどが外来で治る
だから悲観的にならないで

うつ病はいまや身近な病気ですから,ご家族に「周りは,どんなふうに接すればいいですか? “頑張れ”って言っちゃいけないのですよね」と聞かれることもあります。周りの人は“精神力で頑張ってよ”“弱音をはかずに気力をふりしぼって”などと,つい言ってしまいがち。でも患者さん本人は自分がそれに応えられないから,さらに調子を悪くしてしまうことが多い。迷惑をかけずうまくやっていきたいと強く思っているので,追い詰めてしまうことに。こういう叱咤激励は,避けなければいけません。では,どんなことをしてあげればいいのか。仕事であれば責任をシェアする方向にもっていく,本人の負担を軽くしてあげる,調子が悪そうであれば少し休んでみてはどうかとすすめるなどの対応が必要になってきます。このようにあたたかく受け止めて,サポートしてあげるのが大切なのです。

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どんな人がうつ病にかかりやすいか,という質問もよくあります。「遺伝病では?」と思っている方も多いようですが,それは違います。体質や性格が似ているという意味で,身近な人がかかったことがある場合,かかりやすいということはありますが。うつ病に生涯かかる率は日本で6.7%と推計されていて,約13人に1人がかかることになります。そう聞くと,だれにでもかかりうる病気だと思いませんか? 親戚にだれか一人かかっていてもおかしくない数字でしょう。ですから,うつ病と関係のない人はあまりいない。日本では一般的に,几帳面でまじめすぎる人がかかりやすいと言われています。また,周りといさかいを起こすことに気を遣い,自分の意志が言えず,相手に言うくらいなら自分でなんとかしよう,まるくおさめようとするタイプの人。ただし,このような経験的な性格論についての科学的な根拠は乏しいのが現状です。また,タイミング的には,無理をして頑張りすぎているときや,その直後の虚脱したときにかかりやすい傾向があります。

でも実際には,どんな人がかかるか,そして原因もはっきり分かっていません。私たちはその研究をいま進めているところです。例えば家族にうつ病にかかったことがある人,小さな頃ショックな出来事に出合った人,一定の性格の人がなりやすいのか。患者さん以外の健康な方たちも含め何千人かのデータを集め,解析しています。

ですが前にお話しした通り,うつ病は治る病気です。ほとんどが外来で治すことができます。多少良くなったり悪くなったりの波を超えて治るまでだいたい数カ月,重症の場合も2~3年治療を続けると回復の傾向をとってきます。元気になったら体調に合わせながら,元の活動に戻していきましょう。本当に良くなったら,睡眠時間も睡眠不足を感じない程度に6~7時間で大丈夫。健康な方は予防に似た意味合いで,ふだんから趣味をもって楽しみ,ストレスをためない心のマネージメントをしていくのもいいかもしれませんね。

あまり知られていない「統合失調症」
10代,20代からの発症率は,およそ100人に1人

もうひとつ,統合失調症についてお話しましょう。10代,20代にかかり始める病気で,発症率は約1%。つまり100人に1人の割合で罹病する可能性があります。症状として,幻聴等を主とする幻覚や被害関係妄想,思考形式の乱れなどがあります。全体としては物事の意味を正確にとらえることが困難になっています。健康な人の場合だれかと話すとき,相手が何を言いたくて,どう思っているのか,相手の言葉の意味やその背景にある心の中を探りながら接しています。もしかしたら怒っているのかも,そうでないのかも,と相手の雰囲気をつかみとってうまくコミュニケーションをとります。でも統合失調症では,相手の言葉や素振りが全て自分を嫌っていているように見えて,被害妄想に陥ってしまう。幻覚も起こってきます。ものが見えてくるのは稀で,ほとんどが言葉が聞こえてくる幻聴。自分の悪口を言っている明らかな声が聞こえてくる場合が多くあります。

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例えば,患者である女の子とお母さんが病院へ行く場面を想定します。外を歩いていてお母さんには何も聞こえないのに女の子は「あの人,私の悪口を言ってきたよ」と訴えてくる。これは,幻聴です。病院へ着いてからは「落し物が届いているので,心当たりの方は受付までいらっしゃってください」という,アナウンスが流れたとします。お母さんは自分たちに関係がないから聞き流すのですが,女の子は“私が悪いことをしたから非難しようとして,私のことを呼んでいるんだ”と感じてしまいます。母と子,同じ言葉が聞こえてきたのに,受け止める意味合いが違っていますよね。なんでも嫌な方向に受け止めてしまう,これが統合失調症の症状です。

この幻覚や妄想は,脳の中でドーパミンという物質が脳の一部において活発に働きすぎているときに起こりやすいことが分かっています。薬物療法では,ドーパミンの活動を抑える「抗精神病薬」を使って精神的な安定を図っていくのが主な治療です。この薬によって確実に苦痛がとれ,自分が生き生き生活できるのが分かってきます。その状態を患者さんに維持してもらうことが大切。薬物療法を続けながら,うつ病と同じように指示的療法も行っていきます。

再発する患者さんも多いから
長期的なフォローアップが必要

良くなった統合失調症の患者さんの中には,些細なことがきっかけでまた悪くなってしまうケースもあります。人間関係のちょっとした事件が,引き金になることがあるのです。例えば,買い物に行って店員さんにお釣りを少なく渡された,自分の傘をだれかが持って行ってしまった,仲のいい人に100円を貸したが忘れていてなかなか返ってこない…。相手にはなんの悪意もなく,ただの間違いで起きた事件に遭遇したとします。統合失調症の人は「相手に話そうか,いや話すまいか,どうしよう,どうしよう?」とひどく悩み,上手な対処法が見つかりません。その都度考え込んでしまうのです。一度だけならいのですが,二度三度と事件に出合ってしまうと気持ちが不安定になり「どうして自分だけこんな目に合ってしまうのだろう。もしかして私に敵意をもっているのかも」,と人間関係を悪く捉えるきっかけになって再発につながってしまいます。

このような場面に出合ったらどうしていくか練習していく,ソーシャルスキルトレーニング(社会技能訓練)があります。「相手に話そうか,話すまいか」と患者さんが心の葛藤をもちやすい様々なシチュエーションを想定して,いくつかの回答の中から選んだり,こんな対処法もあるね,と患者さんと私たちがいっしょに考えていくトレーニングです。周りとコミュニケーションが上手にとれるようになったら,再発初予防のために行う重要な治療のひとつです。

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予防という意味で薬物治療も同じ,続けていく必要があります。患者さんの中には経過が良くて,生き生きした生活ができるようになってくると自分で判断して薬をやめてしまう方もいます。抗精神病薬には,物事の意味を悪く考えすぎないよう気持ちを安定させる予防効果もあるので,医者の指示があるまで服薬をやめてはいけません。再発によって,入院してしまうケースも多々あるのです。薬の服用期間は,症状によって一生飲んでもらう場合もあるし,そうでない場合もあります。でも「一生飲みなさい」と言われたら,健康な方でも落ち込んでしまいますよね。ですから「予防のためにきちんと続けてください」と私は患者さんにお話しています。この病気が発症する原因も分かっていないのですが,神経科学上の進歩もあり治療面ではどんどん進んでいます。新しい治療の良いアイデアが薬にも生かされてきていますから,決して悲感する病気ではありません。

うつ病も統合失調症も,患者さんを検査してみると,脳の中で何かが起こっているのが分かっています。ある部分の活動が尋常でなく高まっている,または下がっている。「心の病」は「脳の機能の乱れ」とイコールなのです。ですから治療を続けながら,脳を休めるために休養をとることも大事。

また,最近では精神科を受診する人数が増え,「ストレス社会も関係しているのでは?」という声もよく聞かれます。でも実は100年前の教科書にも“現代のストレスは精神科の病気を増やしている”と書かれていて(笑)。いつの時代も,みんな自分の生きている時代が一番ストレスに満ちていると信じているのかもしれませんね。

精神科は怖いところではありません
私に話すだけでもらくになる

私の診察は,患者さんのお話を無理のない範囲で聞くことから始まります。いつ,どんなときに,どんな状況で,怖い思いをしたのか,嫌な気持ちになったのか。患者さんのリアルな言葉と表現からその方の物の捉え方が分かってきます。同時に,もし私が患者さんと同じ場所にいて同じ経験をしたら,どんなふうに感じるだろう,と患者さんになりきって考えていきます。なるほど,その状況だったら苦しいかもしれない,それは気持ち悪くなっても仕方がない出来事なのかな,などシミュレーションしながら患者さんの症状を判断し,どんな病気なのか把握していく。そのうえで患者さんときちんと対話しながら,治療を続けていきます。

お医者さんにかかることの良い面は,辛い気持ちを少しでも第三者に聞いてもらい,分かってもらえることでもあります。心が休まる要因にもなるのですから,「病んでいるかも?」と感じたら早期に受診してみてください。

(2010年10月18日 取材)

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