インタビュー

徳橋 泰明 医師

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目指せ!打って,守って,走れる整形外科医!

インタビュー 徳橋 泰明(とくはし やすあき)
板橋病院 副院長・整形外科部長
1980年,日本大学医学部卒業,1984年,日本大学大学院修了,整形外科学講座入局。
公立阿伎留病院をへて,板橋病院に勤務。2009年から現職。
日本整形外科学会整形外科専門医,日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医,日本整形外科学会脊椎脊髄病医。整形外科学系整形外科学分野 主任教授

常に挑戦し続ける医師になる。

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私のモットーは「打って,守って,走れる整形外科医」。

なんだか躍動的な整形外科医だと思われるかもしれませんが,“臨床”,“教育”,“研究”の3拍子揃った医者になることが入局した頃から理想でした。すべてに対していつも挑戦的な意志をもってやっていきたいと。

私は学生時代から神経に興味があって,なかでも末梢神経から脊髄までを扱う整形外科に魅力を感じていました。当時も,脊髄の病気は難病のひとつ。専門の医師でしか分からない,いや,専門の医師ですら分からないことが多く,背骨の手術は大手術という大変な時代でした。分からないことが多い世界だから足を踏み入れたい,現場で患者さんの治療をしてみたかったのです。

「打って,守って,走れる整形外科医」は私のオリジナルでなく,実は映画のセリフです。30年ほど前,映画好きな私が観た『ヒポクラテスたち』という医大生を描いた青春映画に出てきます。野球選手として甲子園出場の夢は叶わなかったけれど,医療班として甲子園へやって来た整形外科医が,甲子園の砂を持って帰るときに言ったセリフ。「いい言葉だなあ!」と感動して以来,これを自分の理想としているんですよ。

板橋病院に勤務しはじめてから,松崎浩巳(まつざき ひろみ)先生というすばらしい指導者との出会いがありました。今でも忘れません。私が最初に立ち会った松崎先生の手術で,先生が自信満々に「この術式を知っていますか?」と聞かれるので,「知りません」と答えたところ「これは松崎式○○術です」との答え。先生の名前が付いている程だから,よほど凄い手術だと思って「何例くらいされたのですか?」と聞けば「今日が一例目です」(笑) 泰然と自分の名前をつけてしまう,非常にユニークで創造性豊かな先生でした。

なんて自由でいい雰囲気なのだろう感動しましたね。冗談だとしても,新しいものを作って自分の名前を付けられるなんて,すばらしいじゃないですか。しかも,松崎先生は当時では珍しい背骨のこともされていて,だれもやらないようなことにもチャレンジしていました。30年前,背骨の手術をした患者さんは1か月も2か月もベッドに寝たまま,マヒになるかもしれないと言われた時代です。そんななか,挑戦して実績を作っていく姿松崎先生の姿勢はすごかった。まさに「打って,守って,走れる整形外科医」を実践していました。先生の,常により良い方法を考えようとする姿勢に接したことは,私にとって大きな経験でした。

あの頃からいまも,創造性を大事にする医局の精神は変わりません。今は私が若い医師を指導する立場になりましたが,指導医というよりコーチでしょうか。若い医師がいろいろなことに挑戦するのは,おおいに結構。教授が決めたことに従うのでなく,ここには良い専門医がたくさんいますから教育は彼らにお任せして,私はある程度自由にさせています。

私が松崎先生を見て刺激を受け,いろいろ考え,やる気を起こしたように,良いスタッフに囲まれれば必ず良い医師が育つ。医局の雰囲気に惹かれて,研修医もたくさん入ってきます。あまり大きな声では言えませんが,ここに入局したばかりの若い医師たちは学生時代,違う意味で自由に過ごしていた人間が多い(笑)。その若い先生たちが臨床経験を積むうちに,自慢のすばらしい医師に育っています。他の病院から専門医を呼んでくるのでなく,ここで育てて,彼らが成長して更に後輩を育てて…これが繰り返される。だから人材が豊富。良き臨床医を育てることにも,熱心に取り組んでいるのです。

初めての英語論文が,世界で認められた"Tokuhashi score"に。

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今も世界中で使われている「徳橋スコア」。これは,がんが骨に転移してしまった患者さんの予後を,術前に予測できるスコアです。「全身状態」や「脊髄転移の数」など各項目を点数で評価し予測します。このスコアを使えば,患者さんの状態にあわせた治療が可能になります。手術がいいか,放射線治療がいいか,もしくは緩和ケアがいいなど,その患者さんに合った治療法が選択できるのです。

もう20年以上前のことです。当時の鳥山貞宜(とりやま さだよし)教授が自から執刀したのに,患者さんが早く亡くなってしまう。教授が手術しているのは,肺がんや乳がんが骨に転移し,主治医から「骨はうちの科で手術できないから」と依頼されてくる重症の患者さんたち。早くに亡くなってしまうのは仕方の無いことですが,予後を判断する目安がきっとあるはず。私は,背骨にがんが転移した患者さんを様々な角度から分析して,点数をつけてみることにしました。すると早くに亡くなった患者さんはその点数が悪くなることが分かったんですね。それを教授に伝えると「あなた,それをもっと詳しく調べなさい」と言われ,それがきっかけで医局をあげての大プロジェクトがスタートしました。

しかし,当時の私は外科医としてまだ経験が少ない。なので,素直にアプローチをし,単純明快なスコアを作りました。患者さんの全身状態をみることから入ったのが正解で,様々な知識がありすぎたなら局所にこだわってしまって,違うものができていたかもしれません。関連病院から多くの調査データを集めるなど,医局員の協力を得ながら大がかりな研究が進められ,約1年かけて論文が完成しました。

ところが国内での最初の反応は「がんの専門でもない整形外科の若い医師が作ったスコアで,予後が分かるのか?」というもの。たしかにベテランの医師から見れば,おかしな話ですよね。でも,このスコアが結構当たる。そして論文が海外で査読されると世界中で認められ,"Tokuhashi score"という名前になって日本に戻ってきます。国内では評価されなかった私の論文が,逆輸入されて初めてみんなが“あっ”と振り向くものになったのです。

実はこれが英語で書いた初めての論文なのですが,認められたことで英語の論文の威力を痛感しました。作家でいうなら,処女作がベストセラーになったという感動もあります。「徳橋スコア」は,ドイツ,イタリア,フランス,世界各国どこで使っても大きな差がなく信頼度は約86%。教授には「天気予報より当たる確率が高いね」と冗談を交えながらほめていただきました。「徳橋スコア」は,新しいものを抵抗なく導入しようとする医局の姿勢があってこそ誕生したものです。研修を終えて間もない医師に,医局全体がバックアップしてプロジェクトを組むなんて,ふつうでは考えられないことですね。

鳥山教授をはじめ当時の医局の先生方には,今でも感謝しています。

治療の第一歩は,患者さんの年齢に対する先入観を無くすこと。

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私たち整形外科は病気を治すだけでなく,患者さんがいかに楽に生活をしていけるかを重視して治療する“機能外科”とも言えます。だから患者さんを診て,治療方法を考えるうえで,その方の生活環境や活動の状態も大事な要素になってきます。高齢で元気な方もいれば,家の中でしか生活できない方もいる。年代は一緒でも立場はさまざま。その人にとって最適な治療方法を選択することが大切になるのです。

元気であればいろいろなこともできるわけで,私たちは単に年齢で治療方法を決めることはしません。これがとても大事なことなんですね。そのために,まずお話をしっかり聞いて,患者さんのことをよく知り,その方が求めていることの解決策を考えていく。外を歩けるようになりたいのなら「歳だからあきらめなさい」ではなく,できる範囲のことを考える。「高齢だから手術は無理です」ではなく,元気があるのなら低侵襲な手術も考えられます。高齢だからといって,いろいろなものが駄目になってしまうことはないのです。

手術に関しても患者さんの負担を考え,体にやさしい低侵襲性な手術を行うことが大事になってきます。例えば椎間板ヘルニアのほとんどは,内視鏡を用いた手術が行えます。ふつうの手術だと傷口は7㎝位,術後2日くらいから起きて動け,約2週間で退院できるのに対し,内視鏡手術の場合だと傷口は約2㎝と小さく,術後も痛みが少ないので翌日から動くことができ,約1週間で退院することができます。なにしろ術後の痛みが全く違うのだから,内視鏡手術は圧倒的に有利。これは背骨の変形を矯正する手術から椎間板ヘルニアまで広範囲な病気に対して,積極的に行っている手術です。

各分野の優秀な専門医が揃った,最先端・最良の治療が自慢。

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板橋病院整形外科の特長は,整形外科全体の分野を網羅できる専門医が揃っていること。腫瘍,脊髄や腰,関節,四肢の外科,そしてスポーツ整形外科など,全てを専門的に診ることができます。お店に例えるならば,専門店がたくさん集まったブランドショップのようなもの。ですから患者さんに「その病気はうちの科では扱っていません」ということはありません。特定分野に特化していると「この病気ならこの病院」と有名になりがちですが,板橋病院には各分野の優れた専門医がいるので,どんな病気に対してもきめ細やかな対応ができるのです。

「最先端・最新の医療を率先して導入する」これも当科の特長のひとつです。背骨の内視鏡手術では,将来,最新の機械を導入した関節のナビゲーション手術が行われるようになるでしょう。スポーツ整形においては,ひざの靭帯の損傷や肘のけが,肩の痛みなどほとんどのケースで内視鏡手術が可能です。さきほどお話したように,手術後の痛みや腫れも少なく,リハビリテーションが早くからできるので,早期の復帰が可能になります。オリンピック選手やプロスポーツ選手が行っている手術や医療を,部活動で頑張っている学生やスポーツを楽しんでいる普通の方々に,これからもっと応用していきたいですね。

私は良くなった患者さんより,治せなかった患者さんたちを,よく覚えています。最新の技術をもってすれば,あの患者さんを救えたかもしれない,過去を振り返って,そう思うこともあります。医学の進歩は目覚ましい。あの時にこの治療法があれば,という思いはあります。だからこそ,治せる患者さんを増やすために,これからも常に最新の医療技術に挑戦していきます。

(2011年8月26日 取材)

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