インタビュー

照井 正 医師

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皮膚疾患を的確に診断し治療をする。患者さんの笑顔を取り戻すために。

インタビュー 照井 正(てるい ただし)
板橋病院 副病院長 皮膚科部長
1981年,東北大学医学部卒業 東北大学病院勤務を経て,2004年8月より日本大学医学部附属板橋病院にて現職
皮膚科専門医 医学博士
日本大学医学部皮膚科学分野 教授

目に見える病だから,辛さも喜びも大きい。

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ダーモスコピー検査。
皮膚表面を拡大して,診断に役立てます。患者さんと一緒に見ることが出来ます。

きれいな皮膚を取り戻すにつれ,患者さんに笑顔が戻ってきます。患者さんと喜びをともにできるこの時間は,私にとってもなにより嬉しい時です。

あいさつをしたり,物を受け渡したりと,皮膚はコミュニケーションに欠かせない役割を果たしています。そのため,皮膚病にかかった患者さんの精神的ストレスはとても大きい。心ないことを言われなくても,ふさぎ込み,ネガティブなボディ・イメージをもってしまう人も多いのです。

でも,目に見える皮膚病は,治療の効果もまた一目瞭然です。近年は,免疫学の進歩がめざましく,新しい治療法も確立され,皮膚科の診療は大きな変貌を遂げています。適切な治療をすれば,患者さんの心の負担もどんどん軽くなる。私は診察時に「最近,外出をされていますか? 温泉に行ったり,生活を楽しんでいますか?」など,普段の様子や悩みも聞くようにしていますが,精神面でのサポートも大切なことです。

慢性蕁麻疹の新たな検査方法を研究

よく患者さんから「病気の原因は何ですか?」と聞かれます。患者さんからすれば,原因を知りたいのは当然ですよね。しかし,正直に言うと,本当の原因はなかなか分からない。これは皮膚科に限ったことではないのですが,本当の原因が分かる病気は,ウイルス性疾患や遺伝性疾患だけではないでしょうか。例えば内科の先生が「高血圧なのは,腎臓の機能に異常があるからです」と説明すれば,患者さんは納得すると思います。では,腎臓の異常はどうして起きるのか? 大元になる原因を突き詰めて行けば行くほど,「これです」と明確には答えられないのです。一般の人でも聞いたことがある言葉が出てくると,何となく納得します。ここで医師が説明しているのは,途中の病態。この例で言うと,なぜ高血圧になるのかという説明で,大元の病因についての説明はしていません。しかし病態を明らかにすることで,治療方針が決まってきます。高血圧には血管を広げる治療を,糖尿病には血糖値を下げる治療をしていくわけです。ということは,もっと克明に病態を解明すれば,そこからたどって新しい治療法を開発できるのです。

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病理組織診断
肉眼だけでは判断できない時に,皮膚組織を顕微鏡で見て診断します。

患者さんの多い慢性蕁麻疹(じんましん)も,大変つらい病気です。原因はアレルギーだと思われていますが,実際は20人に1人がアレルギーと関係しているだけで,約8割以上の方は原因や,明確な病態も分かっていません。そこになんとか風穴を開けたいと,私たちは研究を続けてきました。いま,原因の分かっていない慢性蕁麻疹の病態を明らかにする,検査方法の開発が進んでいます。「あなたは,こういう病気ですよ」と病態を説明でき,より高い効果を期待できる治療方法の推測もついている段階です。今まで分からなかった慢性蕁麻疹の病態が,研究によって明らかにされたとき,この病気で悩む人たちにきっと貢献できるはずです。

乾癬,アトピー性皮膚炎の新しい治療で,患者さんのQOLも向上。

当科の専門外来の中に,乾癬(かんせん)外来があります。乾いている癬(=皮膚病)という意味で,患者数が最も多い尋常性乾癬は,40代~60代に多く見られます。皮膚が赤く盛り上がり,大きなフケのような状態になってはがれ落ちる病気で,症状が軽い場合は肘や膝,頭などに出ますが,ひどくなると体の広範囲に現れてくる。手や顔に出た患者さんの悩みは深刻で,職業を変えざるを得ない人もいるほどです。

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紫外線治療(エキシマ・ライト)
皮膚科特有の装置で,ある特定の波長の紫外線で皮膚病を治療します。

しかし,いまでは内服薬や注射薬,塗り薬,紫外線療法など,乾癬発症に関係する免疫炎症を抑える抗体療法で,症状を軽くすることが可能になってきました。免疫異常によって,表皮角化細胞が増殖している病態が解明され,それにともなって治療法も変わり,患者さんのQOLも飛躍的に向上しています。例えば生物学的製剤が生まれたことにより,これまで軟膏を毎日20~30分かけて塗っていたのが,注射1本で外用の苦労を省くことが可能です。治療にかかる時間が減るだけでなく,軟膏の臭いや洋服の汚れを気にしなくてもよくなった。治療効果も高く「半袖を着られるようになった」「みんなとプールに行けるようになった」という声や,患者さんによっては発疹がなくなり,4~5年も症状が出ていない方もいます。加えて爪や頭皮など,これまで治療が難しかった部位にも効果を示しています。

この病気は,「かんせん」という名前から感染すると勘違いされたり,見た目から偏見をもたれがちです。ところが日本より患者数が多いアメリカでは,研究のための寄付金が集まり,患者会(NPF)の活動も活発で,乾癬にかかった女優さんが「うつらない病気です!」とアピールするなど,一般の人たちにも多く知られている病気なのです。日本でも乾癬患者会は増えつつありますが,まだ病気に対するは一般の認知度は低く,本人が疾患を隠したり,治療をあきらめてしまうケースもあります。今後は,病気への理解もっと深めていくことが,乾癬診療の課題のひとつだと思います。

アトピー性皮膚炎の研究もずいぶんと進み,この病気の認識も変わってきました。アレルギーの原因となる食事やハウスダストなどが体内に取り込まれて発症する病気ではなく,皮膚のバリア病であることが5~6年前から分かっています。皮膚の最表面にはバリアの役割をする角層があり,これが壊れて外界からいろいろな刺激物が皮膚の中へと侵入し,その結果としてアレルギー状態になってしまうのです。いったんアトピーになってしまうと,痒くてかきむしったりしてバリア機能がさらに低下してしまいますから,薬で症状を一時的に抑えられても元に戻すには時間がかかります。ですから,アレルギーを起こす前の皮膚管理,つまりスキンケアが肝心です。小児期から,バリアを制御する管理をしっかりすることで,患者数もだんだん減ってきています。

医学部でのサッカー指導も,医者としての悦び。

私は医学部教授のかたわらでサッカー部の部長もしており,選手といっしょに汗をかいています。自分の学生時代には思うような成績が残せなかったので,コーチでリベンジです。板橋病院へ来る前の東北大学病院でもサッカー部のコーチや,ベガルタ仙台のチームドクターもしていました。自慢は,2002年ワールドカップ・日本対トルコ戦で,日本ベンチの横で待機し,救護班としてピッチに立ったこと。サッカーが大好きなので,そのときは医者になって本当に良かったと,感動しましたね(笑)

文武両道という言葉がありますが,医大生が限られた時間で部活動するのは大変なことです。サッカーはテクニック,フィジカル,メンタル,チームワークが必要とされます。これは,医師にとっても大切な要素です。私はよく,学生たちと飲みながらサッカー談義をするのですが,彼らは実に魅力的な人間に育っています。日本大学医学部サッカーチームは試合成績も良く,この8年間で東医体(東日本の医学部生が参加するスポーツの大会)2回優勝,銀メダル,銅メダルも獲得しています。私が教授に選ばれたのも「2度も優勝に導いたのだから,学生の面倒見もいいにちがいない!」という決め手があったのでは,という話があります。

皮膚病変から内臓のがんも発見。
皮膚科全般に精通してこそ,的確な診断ができる。

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問診。
診察だけでなく患者さんとの医療面接は,診断と治療に重要です。

「好きなサッカーに関われるから,今も皮膚科の医者をやっているんですよ」と,よく冗談を言っていますが,本当は皮膚科の世界に惹かれているんですね。皮膚科には,診断も治療効果も,目でみられる面白さがあります。肉眼だけでなく,時間経過とともに変化する病変を経時的に採取して顕微鏡学的にも確認でき,治っていくストーリーを目で追うことができる。実にダイナミックな世界なのです。しかし皮膚科の病気は,教科書に1000以上の病名が記載されるほど多種多様です。その中のいずれかの病気にかかって,患者さんが受診されますから,医者の眼力に左右される分野でもある。自分の知識と経験に基づいた的確な診断と治療が,皮膚科の醍醐味でもあるのです。

皮膚は内臓を映し出す鏡でもあります。爪が変形したり舌に赤い点があると貧血だったり,手が赤くなると肝臓に異変があるなど,内臓の病気を見つけ出すこともできるのです。胃がんや肺がんなどの悪性腫瘍がある患者さんも,いくつかの皮膚病変として現れる場合があります。加齢とともに増える茶色い斑点,脂漏性角化症(しろうせいかくかしょう)は良性の腫瘍で心配ないのですが,これがかゆみを伴って短期間の内に多発するレーザー・トレラ徴候や,脇の下や股など,皮膚同士が擦れやすい部位が黒くなる黒色表皮腫,顔に特徴的な赤い皮疹ができる皮膚筋炎など,このような皮膚病変から全身疾患の存在を推測し,がんの早期治療につなげることもまれではありません。

ある女優さんは,50以上の病院を回っても病名が分からず,最後にたどりついた病院でやっと「掌蹠膿疱症性骨関節炎(しょうせきのうほうしょうせいかんせつえん)」と診断されたといいます。また女性の乳房や外陰部にできるパジェット病という皮膚がんがあるのですが,初めに診察した婦人科の先生が見逃した結果,がんが転移してしまい皮膚科に紹介されてくるケースもあるのです。医師が細心の注意をはらい皮疹を診る目を養う必要があると思います。

なにより大事なのは,病変を見逃さず,正確な診断を早くにして,効果的な治療を行ない,病気をよくしてあげること。だから私は「専門は何ですか?」と聞かれたとき,乾癬でも,蕁麻疹でも,皮膚がんでもなく「皮膚科全般です」と答えることにしています。皮膚疾患の広く深い正しい知識をもって,患者さんに接するのが皮膚科医の王道だと思うからです。

(2012年3月1日 取材)

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