インタビュー

武井 正美 医師

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一生を見届ける覚悟を持って患者さんと向き合う。

インタビュー 武井 正美(たけい まさみ) 血液・膠原病内科 部長
日本大学医学部卒業。日本大学大学院医学研究科臨床系内科学修了。テキサス大学医学部内科学臨床免疫学留学。
専門分野は, 膠原病リウマチ学。対象疾患は,関節リウマチ,全身性エリテマトーデス,強皮症,皮膚筋炎,多発性筋炎,シェーグレン症候群,混合性結合組織病,ベーチェット病,血管炎症候群,抗リン脂質抗体症候群,リウマチ性多発筋痛症など。
アメリカリウマチ学会正会員,アメリカ免疫学会正会員, 日本リウマチ学会,臨床免疫学会評議員,日本シェーグレン症候群学会理事,「日本シェーグレン症候群患者会」事務局長。血液膠原病内科学分野 准教授

ときには,患者さんの一生を見届ける覚悟を持って。

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膠原病とは,どのような病気なのでしょう。一般の方々の認識は「30〜60代の女性に多い病気で,全身の関節が痛くなり,ひどくなると骨が変形する」というところでしょうか。

膠原病を端的に言い表すと,免疫力・抵抗力に何らかの異常をきたし,全身のあらゆる臓器に慢性的な炎症を引き起こす疾患群の総称です。ポール・クレンペラーというアメリカの病理学者によって初めて命名され,当初,原因不明であった病的な免疫反応が起こる部位・臨床症状から,「関節リウマチ」「全身性エリテマトーデス」「強皮症」「皮膚筋炎および多発性筋炎」「結節性動脈周囲炎」「リウマチ熱」の6疾患に分類しました。

欧米では現在「膠原病」という名称が使われることはほとんどありません。「血管病変を伴う」との枕詞を付けたり,「結合組織病」とか「リウマチ性疾患」とも呼ばれます。しかし,日本では慣習的に「膠原病」という言葉が広く定着しています。日本では単に「リウマチ」という場合,ほぼ関節リウマチを指し,推計で約70万人が発症していると言われます。私が診察する患者さんも,関節リウマチの方が多くを占めます。確かに難病ですが,最近の,医学と薬学の進歩とともに有効な治療法が続々と開発され,今は不治の病ではなくなっています。

膠原病患者の血液中には,自分自身の体の構成部分に反応してしまうリンパ球や抗体が見つかり,これらが諸症状を引き起こす原因と考えられます。したがって,このリンパ球の働きを抑たり,自己抗体の造作を抑えるステロイド薬や免疫抑制薬,免疫を整え強い炎症を抑えることが可能となった生物学的製剤といわれる全く新しい薬などが投与されます。

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ここまで膠原病およびリウマチの概要について簡単にご説明しました。実は,重度のリウマチ患者さんでは,こういった基礎知識を習得されている方がほとんどです。だからといって,私が説明を省略することはありません。かかりつけのお医者さんの説明内容と重複したとしても,丁寧にお話しします。特に時間をさくのは,薬の副作用です。なぜかといえば,副作用が出れば人生の岐路ともなるからです。

関節破壊は発症してから2年以内に進むことがわかっているので,「早期の薬物治療」が有効なのは間違いありません。そこで,免疫抑制作用が認められている抗がん剤としても使われている「メソトキサート(リウマトレクスR)」などがよく使われます。ただし,ごく稀ですが,重篤な副作用は当然あります。一部の免疫抑制薬の中には未出産の女性なら,子どもが産めなくなるという重篤なケースも想定しなければなりません。だかこそ,我々はまず「あなたの一生を見届ける覚悟がある」ことを伝える義務があるのです。

「シェーグレン症候群」の患者さんの辛さを理解しなければいけない。

リウマチを専門にした理由ですが,実は,母親が自己免疫疾患を患いまして,大学院時代の恩師である故・天木先生にその治療法について相談させていただいたのがきっかけです。その時に,自己免疫疾患は「膠原病リウマチ内科」が,専門的に研究していることを教えていただいたのです。そして,母にも「シェーグレン症候群」の症状が見られました。

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「シェーグレン症候群」は,まだまだ耳慣れない病名だと思います。ほとんどの人はピンとこないでしょう。この病気はリウマチと同様に,本来体を守ってくれるはずの免疫が自分の体の一部を“敵”と認識して攻撃してしまうもので,涙腺と唾液腺に異常をきたします。涙腺異常では,ドライアイが代表例。涙がでない,目が疲れる,目に痛みが走るといった症状がでます。唾液線異常になると,口が渇く,食べ物が飲み込めない,舌にひび割れができるなどなど。日常生活をおくるうえで支障があることばかりです。また関節リウマチや線維筋痛症などを併発することが多く,リウマチ患者の20%から30%の方が発症していると言われます。やはり40~60代の中高年女性に多く,板橋病院にもこの病気にかかった方がたくさん来院されています。

そんななか,「日本シェーグレン症候群患者会」事務局を運営しています。本会は,長年この病気と向き合ってこられた金沢医科大学の菅井進先生が立ち上げられたものです。現在500人あまりの会員がいて,年3回のペースで総会や地方での集会を開催しています。専門医が基礎講演をしたり,外来で十分な時間が取れないため,その場を使ってボランティアで医療相談をして活動しています。

シェーグレン症候群も,治療法が確立されない難病です。だからこそ,もっと多くの患者さんと触れ合う機会をつくりたい。そして,いったい何をすべきか,自分の役割は何か,自問自答するのも臨床医の任務だとこの会を通じて学ばせて頂きました。

他分野の専門医の協力を得ることで,私の患者さんも救われる。

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最初にお話したように,リウマチは免疫の異常により全身のあらゆる臓器に慢性的な炎症を引き起こす疾患のため,他科の専門医の助言がとても重要になります。例えば,皮膚科や肝臓の権威であったり,呼吸器系のスペシャリストであったり,整形外科手術の第一人者であったり…。そうした専門医と連携がとれて初めて,重度の患者さんを救うことができます。そう,板橋病院はハイリスクを背負った人たちの駆け込み寺なのです。

板橋病院では,他分野の医師と定期的にカンファレンスを開いています。リウマチ治療について積極的にかかわっていただき,真摯に患者さんと向き合っている専門の医師と重症困難症例は日常リアルタイムに相談し,新しい知識を吸収させていただいています。こうした環境にいるからこそ,自分のスキルにおごることなく,他分野からの意見を素直に受け入れ,その結果,患者さんに正しい情報をお伝えできるのだと思います。

もうひとつ力を入れているのは,リウマチ医療のネットワーク化。今は板橋区を中心に,城北地区の開業医,一般病院の医師から他大学の附属総合病院の医師まで50名を超える日常リウマチ膠原病を診療しているメンバーが定期的に集まり,検討会を実施。そこで「かかりつけ専門医療機関」と「センター病院専門医」の連携を図っています。この組織をより有機的に整備すれば,リウマチの進行段階に合った最良の治療が実現するでしょう。

このようなグループ活動の牽引役も安全で高度な医療を地域全体に供給するためには大変重要ですが,仕事の根本はやはり診察室で一人ひとり患者さんと向き合うことです。目の前の症例を掘り下げ,真摯に鑑別診断をし,それぞれに適した診療方針を決め,さらには他科の先生に協力を求める…。この姿勢は,今後もずっと変わりません。不安な表情のままで患者さんがお帰りになってはいけないからです。

(2012年10月11日 取材)

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