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インタビュー

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細心と革新をモットーに
肝胆膵がんの外科治療に取り組み
肝がん手術数全国第一位を誇る

高山 忠利医師(たかやま ただとし)
消化器外科部長 消化器外科教授
1980年日本大学医学部卒業,同大学院外科学修了。国立がんセンター中央病院外科医長,東京大学医学部肝胆膵移植外科助教授を経て,2001年から現職。
日本外科学会専門医・指導医・評議員,日本消化器外科学会専門医・指導医・評議員 日本肝胆膵外科学会高度技能指導医・評議員など
日本肝臓学会織田賞,東京都医師会賞などを受賞
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専門書の山に囲まれて雑然とした外科教授室を想像していたが,高山忠利教授室は見事にそのイメージを裏切ってくれた。よく整理されたという言葉に,美しいという形容詞をつけたくなるほど,教授のこだわりを感じさせる部屋である。

高山教授の著書にあった一文が頭に浮かぶ。

「私たちが患者さんの命を預かって行っている仕事は,一事が抜けてしまうと万事につながります。細かいことをきちんとやらないと,必ず大きなミスが出る。ですから,私は日頃からあらゆることを慎重に,細心に行います。安全に手術を行うには神経質なくらいにこだわるのがちょうどいいのではないでしょうか」

高山教授は,1994年肝尾状葉単独全切除手術(高山術式)を,世界で初めて成功させた。尾状葉とは,肝臓の最も奥深い部位で,そこにがんが発生した患者はそれまで手術不能と判断されていた。医師も患者もあきらめていた肝臓がんの治療に,大きな光をあてた医師である。

2001年より板橋病院でメスをふるうが肝胆膵手術は年々増加し,2008年より肝がん手術数では全国第一位(朝日新聞調べ)を誇っている。(http://www.med.nihon-u.ac.jp/department/surgery3/をご参照ください)

― 肝臓がんと向かい合う人たちの現実と希望についてお話ください。

高山:まず肝臓がんは,発がん原因の約90%がわかっている特殊ながんであるということをご理解ください。

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一般に肝臓がんというと,お酒の飲みすぎが原因と思われますが,日本人の場合アルコールが原因で肝臓がんになる人は,100人中2~3人です。実は,約90%の人がB型,またはC型の肝炎ウイルスをもっていることが原因です。あとの7~8%は原因がわからない人です。現在の調査では,その約90%のうち,75%がC型肝炎ウイルス,15%がB型肝炎ウイルスが原因です。

10年位前までは,肝炎ウイルスに対して効果的な治療法はありませんでした。ある意味,患者さんも医師もその大きなジレンマの中で,苦しんでいたというのが現実でした。

しかし,現在ではC型肝炎ウイルスを持った患者の70%近くは,インターフェロンという注射薬で体からウイルス除去できるようになりました。予防という意味からも,ここ10年位でB型もC型も確立してきています。

部位別にがんの死亡率を見ると,胃がんは横ばい,肺がんや大腸がんなどほとんどのがんが右肩上がりで増えているのに対して,肝臓がんだけがやや減少傾向にあります。これもウイルスが除去できるようになったという予防効果が大きいと思います。

これが,肝臓がんの現状です。このことは,肝炎ウイルスをもっている人への希望にもつながることです。

― 肝臓がんの治療についてお話ください。

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高山:30年位前は,肝臓がんと診断されたら余命半年といわれていました。現在手術による治療では,5年生存率は全国平均で53%ですが,板橋病院消化器外科の場合は61%です。

2000年頃から始まった内科的治療であるラジオ波焼灼療法では5年生存率42%。肝動脈塞栓術で21%です。

手術による現在の5年生存率53%という数値は,他のがんの生存率と較べて低いと思われるかもしれませんが,30年前はわずか20%でしたから大きな改善です。

これだけ生存率が高くなったのは,肝臓がん手術の飛躍的な進歩と,ラジオ波焼灼療法などの新しい治療法の登場があります。5年生存率は今後とも右肩上がりに上がっていくと考えています。

― 板橋病院の5年生存率が全国平均より高い背景は?

高山:一口で言えば,私たち消化器外科チームの肝臓がん手術が丁寧であるということです。

丁寧に止血をしながら手術を進めることによって,私たちは平均370ccに出血量を抑えて手術ができるようになっています。全国平均が1,000ccですから,輸血の必要もありません。駅前献血の採血量以下に出血量を抑えるというのが私のモットーです。

出血が少ないということは,患者さんの負担の軽減につながりますし,輸血することによる肝臓への負担も避けることができます。結果的に,術後の経過も格段によくなります。5年生存率が,全国平均より板橋病院が高い一番の理由だと思っています。

― 手術が丁寧ということは,手術時間が長くなりますが…?

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高山:はい。他の病院より1.5倍は長くなるのではないかと思います。平均で6~8時間,時には12時間もかけて行う長い手術も珍しくありません。

私の手術を見学に見えた外科医からも「先生の手術は時間をかけてとても細かく美しくやっていますね」と言われます。時間が長くても出血量が少ないということは,間違いなく患者さんのプラスになります。

― 手術をするか,他の治療法でいくかはどういうところで判断するのですか?

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高山:肝臓がんの治療における第一の選択肢は,生存率の高い外科手術です。しかし,肝機能が悪い,あるいは手術に耐えられないという場合には,ラジオ波焼灼療法を検討します。外科手術の場合,がんをとるのは3個までです。4~5個をとっても患者さんのためにはなりませんし,再発しやすいからです。4個以上の場合は,肝動脈塞栓療法で治療します。しかし,最初に検討すべきは,あくまでも生存率の高い外科手術です。手術とラジオ波の治療効果は同等だとマスコミで報じられることもありますが,これは間違っています。そのような患者も少数はいますが,多くは手術によってより長期の生存が期待出来るのです。

その判断は,血液検査とCT(コンピュータ断層撮影)を撮ればすぐにわかります。

セカンドオピニオンを受ける場合は,最初に診ていただいた病院の検査データをつけていただければすぐに判断することができます。

― 先生の手術を受けるには,どのくらい待たなければなりませんか?

高山:最初に外来で診察を受けた日から2~3週間後には手術が可能です。退院は手術をしてから1週間前後です。先ほども申し上げましたように,私どもの手術は,出血量が少なく,ほとんど輸血を行なわず,手術合併症も少ないからです。

― セカンドオピニオンをご希望の患者さんへお話ください。

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高山:板橋病院には,他院で切除不能と判断された患者さんが,セカンドオピニオンで訪れることも少なくありません。私たち消化器外科チームは,その中の約30%の患者さんは切除が可能と判断し,手術を行っています。

その背景をわたしのモットーである「細心と革新」という言葉で説明させてください。いま,病気で苦しんでいる患者さんを丁寧に時間をかけて手術をする,これは「細心」です。しかし,細心だけでは将来展望が開けません。「革新」つまり学問としてさらに発展させなければ,外科治療の開発や向上についての新たな方法論や概念が見えてきませんし,外科医としてのモチベーションも上がってきません。「細心」と「革新」は車の両輪です。つまり手術と学問は外科学の両輪なのです。

この信念に基づいて,いま患者さんにとってベストな治療方法を提供しながら,さらにより優れた治療や手術法を目指す私たちの姿勢こそが,訪れる患者さんの希望や治癒の可能性を広げているのだと信じています。

(2010年6月8日 取材)

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