インタビュー

澤 充 医師

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手術のテクニック云々ではなく,手術・症状などの病態を見極めるべし。

インタビュー 澤 充医師(さわ みつる)
1973年,東京大学医学部卒業。専門は前眼部疾患,角膜移植。
日本眼科学会専門医

角膜移植は,術後の経過を定期的に観察することが肝要。

目の角膜とは「くろめ」の表面にある透明な膜で,病気やケガなどで濁ったり,光を正しく屈折できない状態や角膜に穴があいてしまった場合は角膜移植手術が必要になります。

私はこれまでに,約1300例の手術をおこなってきました。現在も年間20〜40例の手術に携わります。

お亡くなりになった方からご提供いただいた透明な角膜と取り替えるわけですから,献眼者に対する敬意とご遺族に対する弔意の気持ちは常に忘れないように心がけています。

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角膜移植を必要とする方の症状はさまざまです。角膜は本来血管がない組織なのですが,病気が起きるとそこに血管が入り込んだりするので,一人として同じ状況はありません。ですから患者一人ひとりの状態をよく見極めて,最適の手術方法を決めていきます。

手術自体は短時間で終わり,1年後ぐらいに抜糸して,コンタクトレンズで乱視を矯正して視力を出していきます。ただ,副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)で免疫抑制をするので,その間に拒絶反応や,場合によっては感染症が起きる危険もあります。したがって,術後の経過を定期的に観察することが大事になっていきます。

最近気になるのは,手術のテクニックに優れた医師がなにかと持ち上げられる風潮です。手術の巧さだけを誇るなら,医師は腕自慢の職人でしかありません。症状の裏側にある病気の本質をきちんと見極められる知識と判断力が重要です。私は医学部教授も務めていますが,医学生によくこう言います。「移動手段として,高級外車と軽自動車とがあったらどちらに乗りますか?」と。目的は同じでも,安心感や安全性の違いを考えればおのずと答えは決まってくるでしょう。医師の評価もこれと同じだと思います。

自ら開発した炎症測定装置が,今も診療の一線で活用される。

長年,眼科医を務めてきた中で私が誇れる功績といえば,「レーザーフレアセルフォトメーター」を考案したことでしょうか。ごく弱いレーザー光線をあてて,目の前房内で散乱する光で前房の炎症の程度を測定する装置です。開発したのは1980年代ですが,患者さんに苦痛を与えることなく,微少な炎症まで精密に測定できるとあって,現在は世界中で使われています。

開発のきっかけは,当時所属していた研究室の教授から「非ステロイド系の抗炎症薬を眼科応用するためのデータをとる研究をするように」と言われたことでした。薬剤の有効性を測るため,眼科で最もポピュラーな細隙灯顕微鏡を使って検査したのですが,詳細なデータが得られません。何とかしなくてはと,まずフロオレセンスという色素をマーカーに使って炎症度を測りました。しかし,これも誤差が大きかった。マーカーを使うため,精密度に限界があったのです。それでもう一度,細隙灯顕微鏡で測るという基本に戻りました。ただ,今度はレーザービームを使い,光の散乱を計測してコンピュータで分析するという方法を採ったのです。

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レーザー光線を目にあてたとき,何もなければ散乱光はないのですが, 炎症が多少ともあると,炎症性の細胞や蛋白質などによって前房が濁り散乱を生じます。それを検出してコンピュータでデータ化するわけです。映画館で映写機を回すと,光の通るところが白っぽくなり,塵が舞っているのが見えるでしょう。ちょうどあれと同じ原理ですね。これがうまくいって「レーザーフレアセルフォトメーター」が誕生しました。開発から30年近くたった今も,この「レーザーフレアセルフォトメーター」が眼科診療の第一線で活躍していることは,考案者として非常に光栄なことです。

「医学教科書のページに残る仕事をしろ」それが,父の口癖だった。

私の父親も眼科医で,大蔵省の病院で色覚の研究をしていました。「医者になったならば,医学の教科書のページに残る仕事をやりなさい」。これが,私に対する口癖でした。ひとつでいいから世の中に役立つ功績を残せということですね。自分の夢を私に託したかったのでしょう。「レーザーフレアセルフォトメーター」の考案で,少しは親父の願いに応えることができた気がします。

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その父が師と仰いだ石原忍先生は,今も広く世界的に使われている「石原式色覚異常検査表」の生みの親。父は,石原表の改良ならびに色覚研究を目的に設立された財団法人「一新会」の理事を長く務めていました。現在は私が理事長を継ぎ,検査表のクオリティチェックや,色覚研究をしているグループへの助成などを行っています。

石原表の初版が出たのは1916年のことで,登場して一世紀近くになりますが,今も診療現場で活用されています。素晴らしいことです。オリジナルでベーシックなものは,日進月歩の世の中にあっても淘汰されることなく改良され,何十年も使い続けられていくんですね。振り返ると,私も石原先生の志をどこかで受け継いでいた気がします。

私のモットーは。知ったかぶりをしないこと。自分が持っている知識から考えて解決策がないときは,患者に正直に伝えます。また,患者の体の中にある自然治癒力を損なわないよう,薬剤をむやみに出したりもしません。細胞が治そうとする力を抗生物質が阻害することがあるからです。

現在,週三日は外来診療も行っていますが,忙しくても最初にスケジュールありきではなく,必要な時間をかけて一人ひとりの患者を診療していきたいと思っています。

(2010年3月13日 取材)

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