インタビュー

村上 正人 医師

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ストレスが引き起こす心身症を心と体,両面からのアプローチで治す。

インタビュー 村上 正人(むらかみ まさと)
心療内科
日本大学医学部卒業。日本大学医学部第一内科講師などを歴任。2003年より板橋病院にて現職。
日本心身医学会指導医・専門医,日本心療内科学会専門医,日本リウマチ学会専門医,日本内科学会認定医,日本緩和医療学会暫定指導医
呼吸器内科学分野診療教授。

感情が体の症状として表れ,体調が心を左右する

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あなたがいま,原因がはっきりせずなかなか良くならない病気を抱えているとしたら,実は心が関係しているのかもしれません。さまざまな病気の背景に,ストレスが原因として潜んでいることがあるからです。

よく経験することですが,大勢の前で話すとき,緊張して動悸がしたり,手に汗をかくことがありますよね。血圧が上がり脈が乱れることもあるかもしれません。「うまく話せるだろうか」とい不安や緊張が,体に影響を及ぼしているのです。このように心と体は密接に関連しあっており,時には病気を引き起こすこともあります。私たち心療内科は,その身体的な面と心理的な面の両面から患者さんをみていく診療科です。

ただ最初から患者さんの病気にストレスが関わっていると分かるわけではありません。また,すべての病気がストレスが原因で発症するわけでもありません。体の不調があったとき,まずは症状に合わせて各診療科で検査と治療を受けます。しかし,それでも原因が特定できなかったり症状が良くならない方もいます。症状を改善させようと,きちんとした食事をとり,十分な睡眠と適度な運動を心がけても,運動すればかえって疲れる,眠ろうと思っても眠れない等々,さらに症状が悪化することもある。そこで初めて,ストレスなど多の要因が影響しているのではないかと疑うことになるわけです。

心療内科について「精神科まではいかないけれど,その手前を診てくれるところ」そんなイメージをもっている方もいるかもしれません。そうではなく,心療内科とは,文字通り内科です。内科全般と内科系専門分野でトレーニングを積んだ医師が,身体面の医学を基礎として診療を行なっています。内科には循環器科内科,消化器内科,呼吸器内科などの専門科がありますが,心療内科もそのひとつ。人間の健康や病気を,心と体の両面から取り組んでいくのが心療内科なのです。

心身症の原因はストレス以外にもある
性格や体質,遺伝的要素も関係します

心身症が起きるメカニズムを簡単に説明いたします。私たちの体には,内臓の働きをコントロールする“自律神経系”,ホルモンをコントロールする“内分泌系”,外部の異物・細菌などから身体を防御する“免疫系”の3つが上手にバランスを保つことで健康を維持しています。どれかひとつが働きすぎても,弱まっても駄目なのです。しかし強いストレスを受けると,このバランスが崩れてしまい体に様々な障害を引き起こします。

胃・十二指腸潰瘍,気管支喘息,狭心症,月経不順,偏頭痛,アトピー性皮膚炎,じん麻疹…,ストレスが元になりひき起こされる心身症には様々な病態があります。もちろん,これらの患者さんすべてが心身症というわけではありません。この病気の患者さんには心身症としての病態を示す方が多く,「一般的な病気のなかに心身症がある」ということです。

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心身症のひとつに「過敏性腸症候群」という,腹痛や下痢を繰り返すストレス性の腸の病気があります。ひどい方になると一日に10何回もトイレに行きたくなるので,電車やバスに乗っていられないし,外でゆっくりと食事もできない,仕事での大切な商談や会議のときなど大変な思いをします。日本には1200万人もいるといわれており,実に国民の10人に1人が罹っている計算になる。しかし,ほとんどの患者さんは,それがストレスによるものだとは気づいていません。専門医を受診して,初めてわかることが多いのです。

ストレスの原因のひとつに過剰反応という,いわば「頑張りすぎ」があります。良い評価を受けたい,良い成績を得たいなど,より良い人生を送るために頑張っていることってあるでしょう。それが実は,ストレスのもとになっている。一生懸命にやっていて,常に緊張感や,他人への気遣い,漠然とした不安があって,それが集積されると自律神経に緊張が伝わり,腸の過剰なぜん動運動を引き起こし,下痢をするというパターンになっているのです。本人が懸命に頑張った結果,病気になってしまうんです。「ストレスに負けない」とよく言いますが,ストレスに立ち向かって克服しようと努力する過程にも,様々なストレスが生じてくるんですね。

つい頑張りすぎてしまうという性格面のほかに,遺伝的要因も心身症に関係しています。単純には結びつけられませんが心と体の関係には,親から引き継いだ性格や行動様式,あるいは親がしていたのと同じようにふるまってしまう学習的なものもあるのです。

そして,体質的な面。同じストレスを受けているのに,ある人は高血圧,ある人は円形脱毛症,ある人は関節リウマチと,人によって出てくる症状が違うのは不思議ですよね。これは,その人の弱い部分にストレスが集中するという見方があります。胃潰瘍を患ったことがある人は,何かあるとすぐに胃が痛む,風邪から気管支炎を起こしたことがある人は咳が止まらない,ムチウチになったことがある人はすぐ首や肩が張って痛くなる,という傾向もあるのです。

まず,患者さんの話をじっくりと聞くことから始まります

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患者さんの症状やストレスは多様ですから,あらゆる角度からアプローチするため初診には充分時間をかけます。最初に臨床心理士が,生活歴や現在の社会環境,家庭のことなど,患者さんのバックグラウンドを知るため,30分ほどかけてお話を聞きます。それをもとに私たちが診察をするという方式なので,病気の原因がどのようなストレスなのか,初診時である程度のところまで評価することができます。

私は常に,どういうストレスが,どのような体の症状につながっていくか,あるいは逆に体がどんなふうに病むと,心がどのような影響を受けるかという,「心と体の関係性」を頭のなかに入れて診察をしています。親子関係や,会社での立場や人間関係,社会的な不安など,悩み事ってたくさんありますよね。それらと関係があるのかを確かめながら,その患者さんのストレスに対する感受性や対処能力,社会的スキルや問題解決能力などを探っていきます。

治療に関しては,胃潰瘍には抗潰瘍薬,高血圧には降圧剤を処方するなど,一般的な対応はもちろん必要です。そのうえで,ストレスの緩和をどうするか。眠れなければ睡眠薬を使うし,不安が強ければ抗不安薬を使い,抑うつ的な方には抗うつ薬も使います。うつ病という病気でなくても,人間は抑うつ的な気分だけでも血圧が上がったり,円形脱毛症ができたりしますから,抑うつ気分に対する対応も必要です。でも,例えば髪の毛が生えたから治療が終わり,というわけではありません。大もとのストレスを解決しないと円形脱毛症を繰り返す,あるいは今度は胃が痛むなど,ストレスによる症状がモグラ叩きのように,めまぐるしく変わってくることがあるのです。

そこで,心身学的なアプローチとして専門的な心理療法や,カウンセリングを行うことになります。カウンセリングという言葉はよく聞かれると思いますが,ただ患者さんの話を聞くだけでなく,“受容・共感・支持・保証”という理念にもとづいて耳を傾けます。苦痛を聞いて受け入れ,共感を持って苦しみをサポートしていく,そしてちゃんと治療をしますと。これらを踏まえて行うのが正しいカウンセリングの方法であり,私たちの診療スタイルです。

専門的心理療法の一つに「認知行動療法」があります。出来事そのものが悩みをつくるのではなく,その出来事に対する自分の誤解や思い込みなど偏った認知が悩みをつくっている。その認知のゆがみを修正して,より建設的な方向に行動できるよう,ストレスに対する新たな対処法を身につけていく療法です。

そして,ストレス反応を引き起こしやすい自分の行動パターンや考え方,人間関係を明確にし,修正していく「交流分析療法」。例えば嫌いな上司がいても,それがストレスになってしまう人と,ストレスと感じずうまくやっていく人がいます。ストレスに耐えきれず会社を替わっても,さらに嫌な上司がいて,ストレスが増えることにもなりかねません。周りの環境だけ変えても,好転はしないのです。だから,自分の生活や物事への対応など,自分にも責任があると,自らを見つめなおしてみる。それに気づいたうえで自分らしい生き方ができれば,ストレスと感じていたことも前向きに生かすことができるのです。

また「自立訓練療法」といって,リラクゼーションを通して心身のバランスをはかる療法があります。言葉によって教示するひとつの自己暗示のような療法で,自分でリラックスできる技術を身につけます。単なるリラックスではなく,自律神経系の働きをコントロールすることができるんですよ。血流が悪ければ流れを回復させ,強い筋肉の緊張があるならば筋肉をほぐす,働きが悪い胃腸を回復させるなど,体の機能を回復させるのが目的です。トレーニングしてうまくできるようになると,過敏性腸症候群の方は下痢の回数がぐっと減ったり,月経不順が正常に戻ったり,体の反応で効果がみえてきます。こういった専門的な指導もカウンセリングのなかに盛り込んで,患者さんの心と体の負担を軽くする手助けを行なっています。

苦しくても前向きに考えられる
患者さんのエネルギーとなる医療を

心身症が増加し,心の健康が注目されている現在でも,受診をためらっている患者さんは多くいます。とくに男性にその傾向があり,「会社を休めない」「仕事に支障がある」などの理由があって,重い症状が出始めてようやく,心療内科を訪れる方もいます。病院へ行きにくいという気持ちからか,ぎりぎりまでガマンしてしまうんですね。あるいは医療機関を転々として,最後に受診する方もいらっしゃる。ほかの病院で「ストレスによる症状でしょう」という診断で終わってしまい,うまく対処されていない例もあります。そうして,自分の病気に対しある種のあきらめを感じたり,本当に苦境に立たされている方が,たくさんいます。

「天は自ら助くる者を助く」
これは私の好きな言葉のひとつです。この言葉は,足りないところは自分で補わなくてはならない,そのためには自分を信じる,あきらめたら何も始まらない,そこに「我ならざる力」が働く,それが私自身の達成動機に繋がっている気がします。私は常にこの意思をもって患者さんに向き合っています。

患者さんにもそのエネルギーが伝わって「あきらめずに頑張れば,なんとかなるかな」と考えてもらえれば,うれしいですね。

(2011年6月16日 取材)

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