インタビュー

森山 光彦 医師

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肝炎,肝がんが撲滅される日まで,患者さんとともに闘い続ける。

インタビュー 森山 光彦(もりやま みつひこ) 消化器・肝臓内科部長
1981年,日本大学医学部卒業。1985年,日本大学大学院医学研究科博士課程修了。2003年,日本大学医学部助教授。2007年,日本大学医学部内科学系消化器肝臓内科学分野 教授。
日本肝臓学会認定医,日本消化器病学会専門医,日本内科学会認定医,日本消化器集団検診学会認定医。

病気と偏見に苦しむ患者さんをなんとか救いたい。
この思いは医師になって以来,変わることはありません。

消化器の中でも肝臓を専門にしようと思ったきっかけは,大学院生だったころに受けもった患者さんのひと言でした。B型慢性肝炎で入院していた20代の男性でしたが,ある日,思いつめた表情で私のところへやって来ました。
「先生,この病気は一生治らないんでしょう? だから僕はもう,一生結婚できないんでしょう?」
「万が一,結婚できたとして,生まれた子どもが肝炎だったら,その子は僕のことをどう思うんでしょうね。だったらやはり,結婚しない方がいいのかも知れない。」

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私は肝炎で苦しむ彼の苦悩を目の当たりにし,この病気で苦しむ人たちを,なんとかして助けたいと思うようになったのです。

当時は肝炎の患者さんに対する偏見が今よりも強く,病気以外で患者さんの受けるストレスも大きかった。入院患者で「あの肝炎の患者とは病室は別にしてくれ」と言う人もいました。また,交際していた相手の両親が一緒に診察室に入って来て,「生まれてくる子どもに責任がとれるのか」と言い放ったこともありました。なんとひどい言葉を発するのかと,悲しくもなり,怒りもしました。

肝炎に限らないことですが,病気と闘うには,心の強さ,心の健康が欠かせません。だから,病気の他に偏見や差別とも戦わなければならない患者さんのために,私も一緒になって奮闘しているのです。

肝臓は不調を語らない沈黙の臓器。
検査数値の異常は肝臓のSOSです!

慢性肝炎は,長期にわたって持続する炎症によって肝臓の細胞が壊れる病気です。次第に肝臓の線維が増えて硬く小さくなり,放っておくと肝硬変や肝がんになる場合があります。原因のほとんどが,肝炎ウイルスの感染によるものです。

肝炎ウイルスは,感染者の血液や体液を介して感染します。B型肝炎については母子感染以外の大部分が性行為による感染と考えられます。C型肝炎は,これまでは輸血や血液製剤,入れ墨,覚せい剤乱用などでの感染が多く,B型とC型では感染予防など分けて考える必要があります。

肝炎は自覚症状がないまま病気が進むことが多く,健康診断で見つかったり,他の病気を患って肝炎を指摘されることがほとんどです。そのため,症状が現れたときには重症化していることも多い。肝硬変,肝がんの約90%が,B型肝炎とC型肝炎から引き起こされることが分かっています。症状がなくても健康診断などの血液検査で数値に異常が見つかった場合,必ず病院で再検査を受けていただきたいと思います。

今は,B型肝炎ワクチンの導入により母子感染は防げますし,B型,C型肝炎の抗ウイルス療法も目覚ましく進歩しています。C型はウイルスを排除し治癒させることもできるし,また,B型も完全にウイルスを排除することはできませんが,増殖を抑える効果があり,肝不全の死亡率は下がってきました。

肝臓病は栄養状態の管理が大切です。
第二の肝臓と呼ばれる筋肉を鍛えることも必要。

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肝機能の検査項目にAST,ALTという,肝炎の程度を現す数値があります。この数値が低いほど肝硬変やがんになるスピードも遅くなるので,少しでも下げるための治療を第一にやっています。患者さんの病態によって,食餌療法や飲み薬,静脈注射,インターフェロンなど様々な治療法を組み合わせます。
肝脂肪がついている人はとにかくダイエットをしてください。食後は休むというのは昔の概念で,今は「すぐに動こう!」です。休んでいると肝臓に栄養がまわり,脂肪がたまってしまうことがあります。人間が楽になるということは,ウイルスも楽になるということです。

筋肉は第二の肝臓とも言われています。肝臓が弱ったときに,代謝や毒素の分解を手伝ってくれるのです。ゴロゴロ横になっていると,筋肉はどんどん委縮してしまいます。ウォーキングや軽いジョギングでいいので,筋肉を維持するためにも運動が必要です。

また,C型肝炎の患者さんの多くは,鉄分が肝臓に過剰にたまっています。そのために食事内容の指導や,それでも減らない方には瀉血(採血をして鉄分を減らす治療)を行なっています。

実際にインターフェロン治療でウイルスがいなくなると,患者さんは「こんなに体が楽になるとは思わなかった!」とおっしゃいます。ウイルスが体内に10年,20年といると,体は慣れてしまいますが,実は相当なダメージを受けているのです。

ウイルス性肝炎の治療は,患者さんや家族の理解があってこそ。

板橋病院ではインターフェロン治療を1987年から約1500例以上行なってきましたが,ウイルス性肝炎の治療は経験を積んだ医師でしかできないものもあり,非常に専門性の高い医療と言えます。治療の進歩に伴って診療も難しくなり,経過観察も難しいので,紹介元の先生に患者さんを戻せないのも実情です。C型肝炎は肝がんを合併することもあるため,長期間の診療が必要となり,板橋病院の外来で20年間診ている患者さんも何人かいらっしゃいます。

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B型肝炎は今後の指針が学会でもはっきり出ておらず,投薬はいつやめられるのか,やめた場合がんが出てしまうのかなどまだ分かっていません。少しでも早く患者さんに反映できる新しい医療を確立したいと,私たちは基礎研究にも取り組んでいます。

肝臓は個人に合った医療も進んでいますし,合併症についても充分お話してから治療することを徹底しています。例えば,B型慢性肝炎の女性の場合,B型の抗ウイルス剤は,いったん飲み始めると途中でやめることができないので,飲み続けなければなりません。これから子どもをつくろうとしている夫婦だと,副作用で奇形児が生まれる可能性がある。最も効果のある薬を使いたいが,妊娠を考えて違う薬にするかどうかなど,起こりうる事態を患者さんとご家族に理解してもらい,いろいろな治療法の中から,その人にいちばん良いものを選択していきます。

また,C型慢性肝炎の場合,インターフェロン治療を行なうとうつ状態になることがあります。「ウイルスは駆除できたけれど,今度はうつ病で介護が必要になった」となれば,ご家族に迷惑をおかけしてしまうことにもなります。患者さんのパーソナリティやご家族の問題もありますから,時間がかかってもきちんと説明したうえで,治療方針を決める必要があります。

治療経過を知るのに,患者さんの変化を教えてくれる家族も重要な存在です。実際に,他の施設でインターフェロン治療を受けた患者さんがうつ病になり,板橋病院に救急搬送されてきた例もあります。ご家族もよく理解されていなかったのでしょう。ご家族も含めて話し合うのが,ウイルス性肝炎治療の独特な一面でもあります。

B型肝炎ワクチンをユニバーサルワクチンに!

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先日,ある雑誌の広告に「あなたの人生は,何曜日に病院に行くかで決まる!」という見出しがありました。その曜日の担当医によって,患者さんの運命が決まってしまうというのです。そんなことはあってはいけないし,板橋病院では絶対にやらせない。治療方針は必ずカンファレンスで医師全員が確認しますし,消化管も肝・胆・膵臓も全ての分野において実力を持った医師を育てています。

現在,私たちはB型肝炎ワクチンを,ユニバーサルワクチンに加えようと活動をしています。小児が公費で受けられるワクチンの中に,B型肝炎が入っていない先進国は日本とスウェーデンだけです。B型肝炎ウイルスのしぶとさは尋常ではなく,眠っていたウイルスが急に目を覚ますこともあります。また,B型肝炎ウイルスの感染歴がある人が,リウマチや悪性リンパ腫の治療で抗がん剤や免疫抑制剤などを投与されると,ウイルスが再活性化してしまい,劇症肝炎を起こすこともあります。

B型肝炎はウイルスの感染予防がもっとも有効な対策ですから,ぜひユニバーサルワクチンとして実施してもらいたい。それに向けて,臨床をおこなっている医師と基礎研究をおこなっている医師が共同で,きちんとしたデータを提示し,国を動かさなければいけません。

私の夢は,肝がんの撲滅です。そのために,これからも患者さんと一緒に,病気と闘っていきたいと思っています。

(2012年8月8日 取材)

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