インタビュー

前田 英明 医師

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私たちは数少ない血管外科のスペシャリストとして,患者さんのために最善を追求する。

インタビュー 前田 英明(まえだ ひであき) 血管外科 部長
1983年,日本大学医学部卒業。1987年,日本大学大学院医学研究科博士課程修了。日本大学医学部講師。2001年,ドイツ連邦共和国Hegau-Bodensee-Klinikumへ留学。2008年,日本大学医学部心臓血管呼吸器総合外科 准教授就任。現在に至る。

破裂しそうな動脈瘤で死の淵にいる方が,安心して生活が送れるようになる。虚血のため歩けなかった方が歩けるようになる。

私は学生時代に,動脈瘤,重症虚血肢で苦しむ患者さんに接し,その機能を再建できる医師になろうという思いで血管外科を選びました。

昨日まで痛くて歩けなかった方が歩けるようになる。これは劇的です。逆に病状が進行してから受診され,壊疽に陥った方を助けられなかったという経験もありました。

現在,病気に苦しむ患者さん一人ひとりに合った最善の治療とは何かを考えながら,患者さんと向かい合う毎日です。

自覚症状がなくても怖い血行障害

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動脈硬化を原因とする血行障害は,次のように分類されます。

1期は,ほとんど自覚症状がない状態。

2期は,歩くと足が痛くなる状態。これは間歇性跛行(かんけつせいはこう)といって,人により痛みが違います。500メートル,1キロメートルと,平地ならいくら歩いても平気だけど,階段,坂道がきつい方や,逆にすぐそこのトイレに行くことすらきつい方など,いろいろな症状があります。

3期は,じっとしていても足が痛む,長時間正座をした状態と同じです。

4期は下肢,特に足首に疼痛をともなう潰瘍,壊疽が出現します。3期,4期は緊急に治療を要します。足が壊疽になってからでは,切断率はかなり高くなってしまいます。

間歇性跛行期の患者さんの5年生存率は約7割,亡くなる方のほとんどが脳梗塞や心筋梗塞です。下肢血管が広範囲に閉塞・狭窄してしまう重症虚血肢の三期・四期ですと5年生存率は4割代まで下がってしまい,これは進行乳がんや,進行大腸がんよりも予後が悪くなる。その点を念頭において,患部だけを治すのではなく,コレステロールや糖尿病などにも配慮していかなければなりません。

さらに,最近ドイツでの大規模臨床試験でわかったことですが,自覚症状のない1期での方でも,5年生存率が,2期の方と変わらないという結果がでたのです。1期でも5年後には3割の方が亡くなるということです。これは驚くべきことで,1期の患者さんにもその先を念頭に置いて治療していかなければならないと思っています。運動をすること,特に歩くことをお勧めしています。喫煙は絶対だめですね。薬もそういう患者さんに強化して出していかなければなりません。

診断はまず,血管の病気か,整形外科の病気かを診ることから

日大板橋病院の場合,初診で足の痛みを訴える患者さんに対しては,受付で血管外科を指定されます。一般的に,歩くと足が痛いといってこられる患者さんの7割は血管の病気ではなく,多くは整形外科の領域で,脊椎の病気や脊椎管狭窄症などです。私たちは最初に患者さんの話を聞き診察でほぼ判別できます。

血行障害は,身体の上流である骨盤の中で大動脈が詰まっても,症状がでるのは下流部,筋肉の多いのはふくらはぎや足底です。症状は,ふくらはぎが痛いとか,足の裏のしびれなどです。

それに対して整形外科の病気は,お尻から太ももの外側が坐骨神経痛のようにしびれて痛い。最近ではだいぶ血行障害が認知されてきて,患者さん自身が新聞の切り抜きを持って,自分の症状にそっくりだといって来られます。でも7割くらいは違いますね。

最近は開業医の先生方でも,ABIという上肢と下肢の血圧比を測る装置を持つところが増えています。これによって診断がかなり確かになってきています。自覚症状がある場合には,近くのお医者さんに相談してもよいでしょう。

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さて,血管の病気と診断された場合ですが,最も多いのは足の動脈が詰まって血行障害が起こり,カテーテル治療やバイパス手術をするケースで,年間百人くらいの患者さんが受診しています。同じくらいの頻度で動脈瘤,中でも多いのは腹部大動脈瘤をカテーテル等で治療するケースで,年に70人弱くらいの患者さんが手術を受けられています。

最近は胸部の動脈瘤(胸部下行大動脈瘤)も,カテーテルが第一の選択肢になりつつあります。これは腹部のカテーテル治療ができる専門医しかできない施術なので,我々が行っています。

次に首の頸動脈が狭い患者さんが血栓を起こしたり,内臓に動脈瘤ができた患者さんで,この場合もほとんどカテーテルで治療します。

あとは静脈系です。現在,当病院で多く扱っているのが,深部静脈血栓症。これはエコノミークラス症候群として有名ですが,ファーストクラスでも起こることから,今はロングフライト症候群といいます。同じ姿勢をとり続ける画家,妊婦さん,脳梗塞などで半身麻痺に陥っている方,整形外科の手術を受けられた方に多い病気です。これらの疾患診断のための超音波検査は,年間に約500件も行っています。

救急で搬送されるのは急性動脈閉塞と動脈瘤の2種類があります。このうち,動脈瘤はとにかく緊急手術です。動脈瘤が破裂して救急車で運ばれてくることが,月に1回くらいありますが,10人のうち1人は病院に到着する前に亡くなられています。残りの9割の方は緊急手術を行いますが、残念ながら、救命率は78%と低くなります。破裂する前に手術すると98%の救命率です。

ちなみに,腹部動脈瘤の手術の際の死亡率を世界と比較すると,世界は4~5%,日大板橋病院では1.5%くらい。日本全体での平均もそのくらいで,日本は世界と比べると救命率がいいですね。

緊急の場合に備えて,心臓血管外科専門医師4名とスタッフ4名が24時間体制でローテーションを組んで,当直から連絡があれば駆けつける体制になっています。

負担の少ない,やさしい治療をモットーに

血管外科の治療の2/3くらいは,カテーテル治療です。動脈瘤の手術でも半分以上がカテーテル治療を行っています。患者さんを前にして,我々はいつも外科手術とカテーテルの2つの方法を検討しますが,必ずしもカテーテル治療が低侵襲とは限らないのです。たとえば,足の血管の長い部分に閉塞がみられる場合,放射線を2~3時間当てられ,局部麻酔でカテーテル治療を受ける患者さんは,耐えきれなくなります。やっと終わっても,出血して一週間くらいでまた閉塞してしまったということもあります。それならば麻酔科の先生による全身麻酔管理のもと,バイパス手術を2時間くらいで終われば,患者さんも痛みがなく,ずいぶんと楽です。

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カテーテル治療イコール低侵襲とはき違えることのないように,我々は手術とカテーテル治療を使い分けを行っています。患者さんにやさしい低侵襲治療とは,その上手な使い分けだと思います。それには,医師が適切な選択ができることが大切であり,手術とカテーテル治療の両方ができることが前提になります。カテーテル治療しかできない医師,バイパス手術しかできない医師は,それぞれ得意の方法に走りがちになります。

日大板橋病院の血管外科の医師は,2つの方法ができる医師で構成されていますから,患者さん一人ひとりの症状,行動範囲,ご希望をうかがい,本当の低侵襲の治療を選択するようにしています。

現在,積極的に取り組んでいるのは,腹部骨盤領域,大腿膝下領域や膝下領域に多発病変を低侵襲で治療する方法です。

2007年に,日大板橋病院で腹部大動脈瘤のカテーテル治療を行うため,最新の透視装置が導入されました。その装置を用いることで,カテーテル治療とバイパス手術が同時に行えるようになりました。すなわち,まずカテーテルで上流の血行をよくしておいて,そのまま下流のバイパス手術をやるという治療方法で,ハイブリット手術と学会でもいわれています。患者さんは全身麻酔で寝ているわけですから,それほど負担はありません。何よりも1回の手術で済むことにより,患者さんの負担が少なく,入院期間も短くなります。また,術中は麻酔科の先生が全身管理を担当してくださるため,我々は治療に専念できます。

このカテーテルとバイパス手術を組み合わせて,できるだけ患者さんにやさしい治療を今後も続けていきたいと思っています。

初診から手術,術後の長期管理までを血管外科が一貫して行う

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外科の長い歴史の中でも,血管の病気を専門にしている医師は少なく,全国を見ても血管外科を独立して設置している病院は多くありません。ほとんどは心臓外科や循環器内科が,とりあえず診ているという現状です。そんな中で,日大板橋病院の血管外科はこれを専門にやってきました。

私たちは,初診から検査・診断を行い,カテーテル治療か手術かの治療方法の選択,手術,術後の薬の管理,さらに外来での長期管理ということのすべてを担当します。血管造影の検査や超音波検査なども血管外科医がすべてやります。これは,血管外科学会40数年の伝統ですね。

食生活の変化やストレスの増加で,血管の病気で苦しむ患者さんは増えている現状で,血管外科医の育成も急務です。カテーテル治療は,比較的若い先生でもマスターできるのですが,手術手技の習得は時間がかかります。私たちが若いころは手術しかなく,日々先輩の手術を診て覚えました。外科医は教えるものではなく,先輩の技術を盗むものと言われていましたが,現在では,本人の努力はもちろんのこと,先輩である我々が機会あるごとに,事細かに教えていくことも大切だと思っています。そうすることで,若い先生の意識,技術も確実に上がってきます。第一段階は静脈瘤の手術から入って,透析の患者さんの内シャフト,その次にはバイパス手術へと段階を踏んでいき,その過程で後輩は先輩を見て着実に技術を習得できるような道ができています。

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血管外科は院内での「医療安全管理」的な役割も持っています。多くの科から超音波検査の依頼がきたり,整形外科や婦人科から,安全に手術を行うため術前患者さんの「血栓症がないか,血行障害がないかを診てほしい」というような依頼も非常に多いですね。脳梗塞で入院した患者さんの何%かは,足の血行障害があるのですが,狭心症,心筋梗塞の患者さんも,血行障害を合併する頻度が高いですね。

医師が8人と多いこともメリットです。他の病院では血管外科のあるところが少なく,あっても数人というところが多いですからね。スタッフが多いこと,病院の設備が充実(MDCT,MRA,超音波診断装置,血管造影装置)していることで,さまざまな検査を先取りして行い,治療だけでなく血栓症を事前に予防する医療安全にも貢献しています。患者さん一人ひとりの症状に合わせた幅広い対応が可能だということです。

痛みがある場合,まずは受診を

血管の病気には非常に誤解がありまして,血行が滞るとすぐに足が壊疽に陥ると思われています。

最近の論文によると,歩くと痛みが出る第2期の足の血行障害でも,薬物療法や運動療法をしっかりやり,合併する糖尿病,コレステロールをコントロールし,たばこも止める。そういった併存疾患を治療することによって,足が壊疽に陥る確率は数%以下になるという報告があります。また,毛細血管が細く詰まっていても,人間の身体はちゃんと脇道が発達するようにできています。なかには明らかに動脈が詰まっていても平気で日常生活をされている方もいます。そういう方に対しては,日常生活に不自由がなければ,薬や運動療法,禁煙,糖尿病やコレステロールの管理を行っています。血行障害があるから壊疽になるという根拠のない判断だけで,すぐにカテーテル治療やバイパス手術を選択する,ということがあってはなりません。

患者さん一人ひとりの症状,行動範囲,ご希望などを問診し,最後に「日常生活に不自由はありますか」とお聞きします。それでご不自由なければ,まずは運動療法と食事療法,薬物療法で2~3か月様子をみることになります。これは全国の血管外科医に共通しているんですよ。

受診にあたって大切なのは,痛みがどこを原因とするかをはっきりさせることです。整形外科疾患なのか血行障害なのか。血行障害だった場合は,どこの血管がどの程度詰まっているのか。骨盤領域なのか大腿領域なのか,膝下領域なのか,脇道の発達はどうなのかによって治療の方法が変わってきます。壊疽に陥ってからでは治療は難しくなるわけです。だから,まずは診断を受けてください。それから薬で様子を診るか,カテーテル,バイパスで治療が必要なのかを担当医とよく相談することです。

それから,必ず定期的に受診するようにしてください。これも大切なことです。

(2012年12月6日 取材)

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