インタビュー

平山 篤志 医師

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夢は,心筋梗塞をなくすこと。モットーは,常に真摯に患者さんと向き合うこと。

インタビュー 平山 篤志(ひらやま あつし)
板橋病院 病院長・循環器内科部長
1981年,大阪大学大学院医学研究科博士課程修了。大阪大学非常勤医師,米国ペンシルバニア大学研究員,大阪警察病院心臓センター長,大阪大学医学部臨床教授などを経て,2007年より日大板橋病院にて現職。
日本内科学会認定医 日本循環器学会専門医 集中治療専門医。日本循環器学会 日本心臓病学会 日本冠疾患学会
循環器内科学分野 主任教授

患者さんと医師の信頼関係が構築される循環器内科。

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私たちにとって,患者さんとの出会いは突然です。その出会いをきっかけに,患者さんと長年にわたって築かれる人と人との関係。これが,循環器内科の醍醐味でもあると思います。24時間昼夜を問わず,心臓発作を起こした方が救急で運ばれて来る。生死をさまよっている患者さんを,なんとか助けたい。元気になってもらいたいと,全力で治療にあたります。死の淵から生還した患者さんにとって,「そのとき治療を行なった医師が,本当の意味で自分の主治医」となる,そういう関係がここで生まれるのです。この関係は,生涯続いていくことになります。病気を診るだけでなく,診療の中で人間としての付き合いも深まっていくのです。

私は板橋病院に赴任する前,大阪警察病院に22年間勤務していました。はじめの頃に担当した50代の患者さんは,私が警察病院を去る頃には70歳を過ぎていました。その間にお子さんが結婚したり,お孫さんができたりしています。一方,私も結婚して子供ができ,いろいろな変化がありました。患者さんの嬉しい出来事や困ったことに耳を傾け,私もいっしょに喜び励まし,思わず自分の近況を報告することもありました。別の70歳だった患者さんは90歳になり,「70歳の頃は気持ちも元気やったけれど,90歳にもなると生きとるのもしんどいですわ」と本音もポロリ。付き合いが長くなるにつれ,心を開いて何でも喋ってくれる関係を築くことができました。

心筋梗塞は私が医師になった頃は,4人に1人が亡くなる致命的な病気でした。私は,それを克服するのが夢だった。そして今,発症直後さえ乗り切れば健康な人たちと同じくらい生きることができる病気に変わってきました。急性期をくぐり抜けた後も患者さんはいろいろな病気をするし,私も様々な経験します。診療を行いながら,私は患者さんとたくさん話す。人としての付き合いがずっと続いていきます。そのプロセスの中で,医師としてだけでなく人としても,患者さんが私を育ててくれているのがよく分かるのです。

なぜ,狭心症や心筋梗塞になってしまうのか。

心筋梗塞や狭心症は,だれにでも起こりうる病気です。自覚症状がなくても,危険因子が一つでもあればかかる可能性があります。

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心臓には,筋肉でできた4つの部屋があります。この筋肉が伸びたり縮んだりして,血液を全身に送り出しています。心臓が休みなく働き続けるためには,この筋肉にも酸素と栄養を送る必要があります。これを運ぶのが,心臓のまわりを冠のように取り囲んでいる3本の血管,冠動脈です。

ところが,水道管に水垢やサビがたまって詰まるように,血管にもだんだん脂分のような塊が詰まってくる。これが動脈硬化です。動脈硬化が進行すると,血管壁にコレステロールなどの脂質が蓄積され,そのため血管壁が異常に厚くなりプラークへと進展していきます。このプラークによって血管は狭くなり,血液の流れが滞ってしまいます。そうすると,その部分から先の心臓の筋肉に必要な血液が行かなくなってしまう。これを虚血と言います。虚血になると,酸素が足りなくなった心臓は悲鳴をあげます。それが狭心症です。階段を昇り降りして胸がぎゅっと絞めつけられるような痛みや圧迫感が続くのが,狭心症の代表的な症状です。

血管壁に出来たプラークはニキビがつぶれるのと同じように,何らかの拍子でポンと破裂することがあります。すると,血管中に血液の塊である血栓ができてしまい,冠動脈を閉塞してしまいます。指をぎゅっと縛って血液を流れなくすると,指は腐ってしまいますよね。それと同じように心臓の筋肉も,冠動脈の血管が完全に詰まって血液がいかなくなると,壊死してしまう。これが心筋梗塞という病気です。数十分も続く胸の激しい痛みが,ある日突然襲ってくるのです。「胸が焼かれるような強烈な痛さだった」と話す患者さんもいます。

急性期治療の進歩により,心筋梗塞は助かる病気へと変化。

心筋梗塞の治療は,時間との勝負です。心臓の筋肉には,再生能力がほとんどありません。一度死んだ筋肉は生き返らないので,壊死する心筋が多いほど働きが弱くなる。だから,一刻も早い対応が必要になります。私たち循環器内科の医師が,24時間オンコールで働くのもそのためです。治療はまず血栓で詰まった冠動脈を広げる再灌流(さいかんりゅう)療法を行い,筋肉の壊死を最小限にとどめます。これには,血管内に細い管(カテーテル)を入れて詰まった部位を風船でふくらませる風船療や,金属製のメッシュ状の筒で血管を広げるステント治療,カテーテルを使って血栓を溶かす薬を流し込む血栓溶解療法などがあります。この再灌流療法によって,心筋梗塞の急性期治療が難しくなくなり,予後も良くなってきました。現在,当科に入院した患者さんの死亡率も低下し,数%台になっています。

急性期を脱し元気になって退院したからといって,治療は終わりではありません。血管はからだ中にあり,全身に影響してくるのが循環器の病気です。だから,冠動脈の血管にプラークが見つかれば,脳や足の血管にも同じような変化が起こっていると考えられます。心筋梗塞になった人は,次に脳梗塞を起こすかもしれないし,心筋梗塞再発の可能性もあるのです。では,どうすれば再発を防ぐことができるか。次なるターゲットはプラークの安定化です。

予防の決め手は生活習慣病管理。

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心筋梗塞や狭心症を起こさない,再発させないために,何をすればいいのか?

これは,生活習慣病全般の治療に他なりません。動脈硬化を進行させる危険因子は,糖尿病,高血圧症,高コレステロール血症,喫煙などで,これらを管理をすることも,私達の仕事になってきます。発作を起こした方の治療をするだけでは,患者さんは増える一方です。患者さんの生活全般をみて,管理していく必要があります。心筋梗塞や狭心症は,予防効果や治療効果が高い。きちんと管理していけば,患者さんの予後も良くなって,再発の可能性も減ってくるのです。

しかしながら,生活習慣病をもっていない一見健康な人にも,心筋梗塞や狭心症は起きてしまう。どんな病気でもそうですが「自分に限って…」という意識は,みんな持っています。でも,最近いろいろな場所でAED(心臓救命装置)を目にしますよね? それだけ心臓病はだれにでも起こる可能性があると,認識してほしいですね。

女性は50歳からが危険信号。月経がある間,動脈硬化は起きません。

心筋梗塞を起こしやすい年齢が,男性が65歳からだとすると女性は75歳から。「そういえば,若くして心筋梗塞になった女の人はいないな」と,気づく人もいるでしょう。女性は月経がある間,動脈硬化は起きません。卵巣からエストロゲンという女性ホルモンが産生されていて,動脈硬化を抑える作用を発揮しているのです。20~40代まではコレステロール値も低く,血圧もそう高くなりません。女性ホルモンの作用により,女性は心臓病から守られているのです。ところが閉経になったとたん,動脈硬化は進行していきます。男性より10~20年遅れて動脈硬化はスタートしますが,その分進行が早い。実際に心筋梗塞を起こした女性を診ると,冠動脈の多くの箇所に動脈硬化が起きている場合が多いのです。それまで脂っこいものを好んで食べていたり,喫煙していたりと,生活習慣によってはリスクがずっと高まっています。40代までは健康体を自慢していた方も,閉経を迎える50代から体の危険信号を意識していただきたいと思います。

血管内視鏡と血管内超音波を組合わせて,よりくわしく調べる。

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かつて,動脈硬化とは血管が狭くなる病気で,その血管が狭くなった所にできる血栓が,心筋梗塞の原因だと考えられていました。しかし近年の研究により動脈硬化は血管の中ではなく周囲にプラークがたまる病気だと分かってきました。プラークが大きくなると,プラークを覆う皮膜が次第に薄くなり,最終的に破綻してできた血栓が原因で心筋梗塞が起きるのです。

したがって,冠動脈造影で血管の狭い部位で心筋梗塞が起こるのではないことが分かりました。これは,血管の閉塞した部分を血管内視鏡で見ると,血管の内腔が,破綻した黄色いプラークと血栓で埋められていることからも分かります。このような黄色いプラークは血管の狭くなっていないところに数多く見られ,場合によっては血栓がついているプラークも見られるのです。

では,心筋梗塞の病変を,どうやって見つけるか?

血管内視鏡や血管内超音波を組合せて,最先端の診断と治療を行なっているのです。超音波は,血管の狭窄度や狭窄の形,大きさを見ることができる。内視鏡は,プラークを覆っている線維性被膜が厚いと内腔表面が白く,薄いと黄色く見えるなど,色調で線維性被膜の厚みなど質が分かる。この,超音波と内視鏡のコンビネーションで,プラークの量と質を評価する。これが,私たちが得意としている診断方法です。

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以前,あるテレビ番組の「本当に血管は若返る!」というテーマの中で,当科の研究や症例を紹介したことがあります。心筋梗塞を起こした患者さんの治療に,悪玉コレステロール値を下げるスタチンという薬を使ったところ,約1年半後の再検査で血管内のプラークがなくなった,というものです。血管内視鏡を使って検査をすると,動脈硬化の進行が色によってハッキリと分かります。正常な血管壁は白ですが,プラークがたまってくると黄色くなってくる。その患者さんは,心筋梗塞を起こした場所以外にもたくさんの黄色プラークが見つかりました。しかしスタチンを投与すると,それらが白色に戻る。それで心筋梗塞が起こりにくくなっていると分かるのです。

心筋梗塞以外にも,糖尿病や高血圧,脂質異常症など,危険因子となる疾患が多ければ多いほど,黄色プラークが増えることも確認されています。

このように,現在では内視鏡や超音波を用いることで,血管内の状態を精密に,視覚的に観察できるようになりました。自分の目でプラークの減少を確認すると,患者さんの治療に対するモチベーションも上がってきます。私たちも治療がうまくいっているかどうか判断でき,未然に狭心症や心筋梗塞を防ぐことができるのです。

100%はありえない医療の中,どんなときでも患者さんと真摯に向き合う。

循環器内科は昔,手術中や術後の心事故(心臓死)が多いところでした。例えば狭心症の患者さんに,当時としてはいちばん良い治療,カテーテルで血管を広げる手術をしたとします。そのころ行なわれていたのは,細長い風船により血管を拡張する風船療法でした。まだステント治療は行なわれておらず,風船療法だけでは拡張後に血管の内側の壁がはがれたり,血管が詰まってしまうことがありました。そうすると,緊急にまた手術しなければなりません。それは本来必要な治療とは違うもので,最悪の結果になることもあったのです。

医学が進歩した今でさえ,循環器の分野にはまだ分からないことが多く,その中で診療は行なわれています。ということは,医療に100%の効果や確実性はないということです。治療にあたって,私は分かっていること全てを正確に患者さんのご家族にお話します。また,分からないことも正直に分かりませんと話します。言い訳や憶測で説明しても,患者さん側と溝をつくるだけです。どんな場合でも患者さんと「真摯」に向き合うことが,医師として何より大切なことです。

私たちは,少しでも100%に近づけられるように,日々の診療や研究,教育を行っています。研究的には,冠動脈の動脈硬化の進行とその破たんによる,急性冠症候群の発症のメカニズムを明らかにして,予防につなげたいと思っています。予防ということを考えたとき,心臓病を診るだけでなく生活習慣病の管理など,患者さんをトータルにケアしてくことも必要です。救急から慢性期まで一貫した循環器医療ができ,さらに生活習慣病を全般的に診ることができる。私は,そんな循環器内科をつくり上げたいと考えています。

(2012年1月18日 取材)

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