インタビュー

阿部 修 医師

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画像診断装置の進歩はめざましい。そこに映った病変を,私は見逃しません

インタビュー 阿部 修(あべ おさむ)
放射線科部長
1990年,東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院,関東労災病院勤務を経て2010年より板橋病院にて現職。
日本医学放射線学会放射線科専門医 主任教授。

あなたの担当医とは,また違った視点で病変を見つけ出す

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患者さんがレントゲンやCTを撮るために放射線科にいらっしゃったとき,技師と話す事があっても私たち放射線科医と話す機会は多くはありません。診療科としても皆さんに馴染みの薄い「放射線科」ですが,実は病院内でとても大切な働きをしています。すべての診療科と連携をとりながら,病気の診断・治療を行っているのです。

放射線科は“画像診断部門“と“放射線治療部門”の二つに分かれています。画像診断部門は,X線写真から最先端画像までの診断からどのような疾患かを判断し,また次にどのような画像診断に進んでいくのか,あるいは違うステップに進んでいくのかをサジェストしていく分野です。放射線治療部門は,主に悪性腫瘍に対し放射線を照射して治療を行う分野です。私は画像診断を専門としていますので,まずはこの分野についてお話したいと思います。

現在の医療はX線・CT・MRIなど,画像診断なくしては成り立ちません。例えばあなたが体のどこかに痛みや不調を感じて受診し,担当医の指示でCT検査を受けたとします。そして担当医から検査結果が説明されますよね。「その検査画像を読んでいるのは,担当医では?」と思われる方も多いと思いますが,担当医から依頼された場合最初に画像検査であらわされた所見を読み診断(読影)しているのは私たち「画像診断医」です。

担当医は患者さんからお話を聞き状態をよく知った上で,画像を見ています。私たち放射線科の医師は診療情報も重視する一方,担当医とは違ったニュートラルな見方で画像を読影することができます。例えば悪性の腫瘍だった場合,周辺の画像も同時にチェックをし,離れたところの病変を見逃しません。あるいは進行したがんだったら骨への転移の可能性があるので,骨も細かに画像でチェックするなど,まんべんなく見て,映っている病変を見落とさない,これが私たちの大切な役割なのです。医師も人間ですから時に病気を見逃すことがあるかもしれません。でもそれは患者さんにとって一大事で,あってはならないことです。ですから見落としや誤った判断がないよう,担当医と放射線科の医師のダブルチェックが行われていると思ってください。おもてには出ないところで,患者さんを支えているのが私たちの仕事なのです。

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とは言え私も人の子,うっかり見落としてしまうこともあり,偉そうなことばかり言えません。細かな病変を描出できる最新鋭の装置があっても,病変をピックアップするのは人間の作業で,私の目で丹念に見ていくしかありません。一人の患者さんで何百枚もの画像が出てくると,正直に言って見落とす可能性も皆無ではありません。読影には医師一人一人クセのようなものがあって,例えば別の医師の読影を私が後から見て「ここを見逃していたよ」ということもあるし,その逆もある。そこで「ここが自分の盲点で,あまり見ていなかったんだな」と感じたら,次からミスがないよう失敗を生かす事ができます。私の診断ひとつで患者さんの人生が変わってしまうこともあるのですから,「映っている病気は見落とさない」これが私の心がけです。

がんが良性か悪性かを診断。体を切らずに血管内治療も可能に。

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画像診断の標的となるのはがんが多いのですが,それが良性なのか悪性なのか区別するのも私たちの役割です。診断方法に,みなさんがご存じのCTやMRIのほか“血管造影”があります。血管内に点滴するように造影剤を注入し,その流れをX線で撮影することによって,血管形状や腫瘍血流などを評価する方法です。

例えば肝細胞がんの場合。腹部の超音波検査をした時,肝臓の中に白っぽい腫瘤が見えるんですね。それが良性腫瘍なら血管腫といって血管の塊みたいなものなのですが,悪性の肝細胞がんであることも考えられます。それを区別するため,CTやMRIでは静脈から造影剤を注入して撮影すると,造影剤が入った部分の血管や腫瘍の形がはっきり映し出されます。造影剤を注入する前や注入した早期,中間,最後ではどうだったか,時間を追って造影剤がどういうふうに肝臓に分布したかをみると,血管の異常や腫瘍の部位,良性か悪性かが診断できるのです。そこからまた,切らずにすむ腫瘍を選別したり,悪性だったならどこまで腫瘍が進展しているのかなどを診断します。手術する医師にとっても手術計画が決めやすくなる,手助けとなります。

また,画像診断部門にはIVR(インターベンショナルラジオロジー)という,専門領域があります。悪性腫瘍や閉塞性動脈硬化症などが主な対象で,血管撮影装置の画像で体の中をリアルタイムに観察しながら,カテーテルを使って行う診断・治療です。腕や股関節の血管からカテーテルとよばれる細い管を挿入し,そのカテーテルを目的の血管まで送り込み,造影剤を注入して血管の状態をダイナミックに撮影していきます。撮影診断だけでなく,血管内に挿入したカテーテルを操作して動脈硬化で狭くなった血管を広げたり,がん組織に栄養を与える血管の血液を遮断したり,局所的に抗がん剤などの薬剤を注入するなど,様々な治療も行えます。今まで手術で治療を行っていた病気の中には,この治療法の進歩によって“切らない治療”が現実となってきたものもあります。お腹を開けてする手術に比べ傷口も小さく,多くは全身麻酔を使わず行えるので体の負担が少なく,患者さんにとって“やさしい治療”とも言えます。その一方で,治療を行う医師には,カテーテル操作で高い技術力が必要とされますが,IVRは私の最も得意とする医療です。細心の注意を払って確実に成功させる自信をもって治療に臨んでいます。

やがて国民6人に一人が放射線治療を受ける時代に。

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次に放射線治療についてお話をします。放射線治療はがんを切らずに治す治療法です。肺がん,食道がん,咽頭・喉頭がんなど,とても多くの臓器の悪性腫瘍が今,放射線治療の対象になっています。10年後には“日本の全人口6人に一人が放射線治療を受けるだろう”と言われていて,これは他人事でない数字です。

むかしは胃がんを代表に「切って治す」のがスタンダードな治療法でした。放射線治療に関しては手術が適用できず転移や痛みがある,脊椎・脊髄への転移でマヒが出ている時などリリーフ的な場面で行われることが多かったのですが,今は根治を目指した放射線治療が多くなっています。たとえば食道がんは放射線治療と抗がん剤の点滴を併用することによって,進行度によっては手術と同等の治療成績を達成しています。

最近は,正常な組織にはできる限り放射線をあてないで,悪性腫瘍の部分だけに放射線を集中させるよう,技術が進化しています。腫瘍だけ無くし,良い部分の機能は落とさない,最新鋭装置を使っての治療が行われているのです。例えば前立腺がんは,以前日本では全摘出されることが多かったのですが,今は小さな線源(放射性物質)を病巣に挿入して行う「小線源療法」が行われています。小線源療法にしても,外部照射の放射線治療にしても,必要なところにしっかり照射できる技術力が不可欠です。放射線治療計画をたてる前にCTやMRIを撮り,さらに治療計画をたてる時にも撮って,どこにピンポイントで照射させるかというイメージガイド下の治療も重要になってきます。

放射線治療は,腫瘍を小さくしてから手術するために術前に照射することもありますし,手術後に万全を期するために追加される事もあります。術後という意味では,乳がんに良い適用になると思います。かつて日本で乳がんは,乳房とその下の筋肉を根こそぎ切り取る手術が主流でした。今は手術と放射線治療を併用することで,全摘手術と変わらない生存率を得ています。

一口にがんと言っても,私たち放射線科医が向き合い取り扱う部位や疾患は多彩です。内科,外科,消化器科…,各科の医師とのカンファレンスのなか「こんな病気が考えられるが,どんな検査をすればいいか?」「検査の結果こんな異常が見られるが,考えられる病気は何か?」「治療経過を見て,ほかの病気も考えられるか?」など医師からの問いに,画像診断の側面から助言することも私の大切な仕事です。患者さんの治療方針に直結してくるだけに,広い知識が私に求められてきます。自分の経験や知識に自信をもつことは覚悟がいりますが,やりがいを感じる仕事です。今後も各科の医師とたくさんのカンファレンスを行い,既知の最新医学情報に習熟し,未知の有用な診断法・治療法の開発研究をすすめながら,板橋病院の医療の質を高めていきたいと思っています。

(2011年4月13日 取材当時)

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