公衆衛生大学院とは

 公衆衛生大学院は日本ではあまり聞き慣れないであろう。その理由は、日本にひとつもないからである。最近になり専攻科として公衆衛生関連の大学院課程が日本にも設立されるようになってきたが、独立した大学院はまだない。米国での歴史は古く、ハーバード大学医学部とマサチューセッツ工科大学(MIT)が1909に共同プログラムとして公衆衛生学の専門課程を設けたのに始まり(大学院設置は1922年)、1916年にはジョンズ・ホプキンス大学が世界で初めて独立した専門大学院 The Johns Hopkins School of Hygiene and Public Healthを設置した。元よりジョンズ・ホプキンス大学は世界で初めて大学院教育でPh.D.(Doctor of Philosophy)を授与し、大学院大学として発展した歴史がある。以来、公衆衛生大学院は全米に広がり、正式の基準認定(accreditation)を受けている大学だけでも75校(そのうち独立大学院は30校)に達する。英国では公衆衛生専門医の認定制度があるためか、その数はあまり多くなく、有名なところではロンドン大学衛生熱帯医学大学院 London School of Hygiene and Tropical Medicineで公衆衛生修士の教育を行っている。この学校はもともと植民地政策の一環として熱帯医学の教育研究を行うために設立されたのだが、植民地の減少とともに国内の公衆衛生学の教育研究を主体とするようになり、英国におけるメッカとなっている。なお、戦前の早い時期に、ハーバードやジョンズ・ホプキンスとともに、ロックフェラー財団の資金援助で世界各地に公衆衛生の専門校が設立されているが、日本において同様にして開設されたのが国立公衆衛生院である。残念ながら国立公衆衛生院は厚生省管轄であったので未だ大学院としては認められていない。(縦割り行政!)最近になり日本の文部科学省の答申でもビジネス・スクールやロー・スクールとともに設置を推進すべき専門大学院として公衆衛生大学院が掲げられるようになってきた。
全米の数ある公衆衛生大学院の中で、ジョンズ・ホプキンスはランキング第1位を保っている(ちなみにハーバードは第2位である)。ジョンズ・ホプキンスは日本ではあまり知名度が高くないが、全米の公衆衛生学教育研究者の25%がジョンズ・ホプキンスの出身で、医学部も定評があり(こちらはハーバードがランキング第1位で、ジョンズ・ホプキンスは第2位)、付属病院は全米の病院ランキング第1位である。公衆衛生学修士課程もややハードで、ハーバードでは全課程が9ヶ月であるのに対してジョンズ・ホプキンスは11ヶ月である。あるジョンズ・ホプキンスの学生に言わせると、「名のハーバード、実のジョンズ・ホプキンス」だそうである。ただし、学費はジョンズ・ホプキンスのほうが高い。
公衆衛生大学院にはいくつかの学科(あるいは講座、department)があるが、これは学生の専攻ではなく主に教員の所属を示すために分けられているもので、履修科目はいくつもの学科にわたって決められている。大学により学科の種類や数は異なるが、ジョンズ・ホプキンスの場合は、生化学、生物統計学、疫学、環境保健科学、精神保健、健康政策運営、分子微生物学・免疫学、国際保健があり、その他に研究テーマごとに複数学科にまたがる研究センターがいくつもある。研究センターは特別な施設があるのではなく、中心となる学科の研究室に看板が掲げられているだけで、「研究プロジェクト・チーム」のようなものである。


Jhons Hopkins School of Hygiene and Public Health の本館 Hygiene Building

© Satoru HARANO, MD,PhD,MPH
Update: 1/Oct./01