輸血副作用の発生と原因の究明
輸血副作用の分類
輸血副作用は血液製剤に存在する細胞および血漿成分が原因となり生じる。副作用の分類方法はいろいろあるが,輸血後,ただちに起きる急性型(immediatetype)と遅れて見られる遅発性型(delayed type)との時間的差異で分けると理解しやすい。各々は,さらに,原因が免疫学的機序か非免疫学的機序かに分類される。以下に重要な副作用の概略を上げた。
- A.急性輸血副作用
- 1.溶血性輸血副作用(HTR)
- 2.非溶血性発熱反応
- 3.細菌感染症
- 4.アナフィラキシー反応
- 5.皮下の過敏性反応
- 6.循環過負荷(TACO)
- 7.輸血関連急性肺障害(TRALI)
- B.遅発性輸血副作用
- 1.遅発性溶血性反応
- 2.輸血後GVHD
- A.急性輸血副作用
- 1.溶血性輸血副作用(Hemolytic Transfusion Reactions : HTR)
- 発熱と悪寒は溶血性副作用の初期症状である可能性がある。輸血開始後に自覚症状や理学的所見の変化が認められた場合は原因として輸血製剤を第一に考える必要がある。
- 1)処置方法
- (1)直ちに輸血を中止し,輸血ルートはそのままに生理食塩水を流し血管を確保する。
- (2)患者のベッドサイドカードやカルテ記載事項の確認。
- (3)患者血液を注意深く採取し使用した輸血製剤と伝票を輸血室に直ちに送る。
- (4)患者の輸血前血液と輸血後血液の血清の色調を比較する。ピンクや赤味がかった場合は輸血に伴う遊離ヘモグロビンの存在が考えられる。5ml程度の血管内溶血で肉眼的なへモグロビン血症が認められる。DATを輸血後サンプルで施行する。
- DAT陰性の場合には非免疫学的機序の可能性を検索する。へモグロビン血症がなく,DATが陰性の場合は免疫学的溶血反応の可能性は低い。
- 2)症状と病態
抗原抗体反応により引き起こされ,補体系,凝固系,内分泌系を活性化する。ショック,DIC,急性腎不全を起こす可能性がある。重篤な溶血性反応のほとんどは,ABO型の不適合輸血から生じる。他の血液型の不適合は妊娠や以前の輸血による同種抗体の発生が原因であるが,多くはABO不適合のように重篤になることは少ない。
- (1)診断
最も一般的な初期の症状は発熱(多くは悪寒を伴う)である。10〜15mlの不適合輸血で症状が発生する場合もある。初期所見は尿が赤くなるが,背部痛を伴う時もある。麻酔患者では唯一の症状が手術部位のび慢性の出血,低血圧,へモグロビン尿である場合がある。
- (2)病態生理
- @神経内分泌系反応
抗原抗体複合体はXII因子を活性化する。これにより,キニン系が活性化されブラヂキニンが産生される。ブラヂキニンは毛細管の透過性を亢進し細動脈を拡張する。これによる血圧低下や免疫複合体の直接作用により,交感神経が刺激されノルエピネフリンや他のカテコールアミンが放出される。これらのカテコールアミンは臓器の血管収縮を起こし,特に腎,内臓系,肺,皮下毛細管に作用する。冠動脈や脳血管にはα−アドレナジックレセプターはほとんどないため症状としては出現しない。さらに,抗原抗体複合体は補体系を活性化し,肥満細胞を刺激しヒスタミンやセロトニンの放出が起きる。これらの物質は抗原抗体複合体やDICにより刺激された血小板からも放出される。
- A補体系
赤血球膜表面での免疫複合体の形成は補体を活性化させる。補体活性化のカスケードが完了すると血管内溶血が起きる。補体活性が最終まで進まないとC3bが着いた赤血球はC3b receptorを有する貪食細胞により捕捉される。ABO型不適合では補体はC9まで進行するため血管内溶血が起きる。以前は遊離ヘモグロビンが腎虚血の主原因と考えられていたが現在は腎血管の収縮,急性尿細管壊死に関与し,腎不全は赤血球stromaによると考えられている。
- B凝固系
内因系凝固カスケードがHageman因子の活性化により起きる。DlCが生じることにより低血圧,腎血管収縮,血管内トロンビン生成による腎虚血が生じる。この腎障害は一過性の場合も,急性尿細管壊死に移行する場合もある。
- 3)治療
HTRの治療の根本は血圧低下の防止と腎血流量の改善である。ショックが十分に改善されれば腎不全は防止が可能である。尿量を1時間あたり100ml以上に保つようにする。利尿剤やマニトールが腎血流量を増加させる目的で投与される。ドパミンは腎血流量の増加と心拍出量を増加させる有効な薬剤である。DICの多くはショックと血圧低下が引き金になる。へパリン使用は術後に出血を起こす危険性があり一定の見解は得られていない。
- 4)予防
HTRを防ぐことは不可能である。例え交差適合試験が合格したとしても起きる可能性がある。最も多い原因は患者の取り違いである。人為的間違いは防ぎようがないが,輸血にたずさわる人々の注意により間違いを最小にすることは可能である。輸血開始直後は特に注意を払う必要がある。
- 2.非溶血性発熱反応(Febrile Nonhemolytic transfusion reactions : FNH)
FNHは輸血によって体温がl℃以上の上昇を認めた場合をさす。体温上昇は中等度から高度までさまざまであり,発生する時間も直後から輸血終了後数時間とさまざまである。発熱の多くは解熱剤に反応する。FNHは頻回輸血や妊娠既往者に多く認められる。FNH自体は生命的に危険になることはないが,発熱反応が他の重篤な輸血副作用の初期症状のこともあり注意が必要である。初めてFNH反応を起こした場合に次回の輸血で必ずしも発熱を起こすとは限らない。
- 3.細菌感染症
極めてまれに,採血時あるいは保菌ドナーから血液製剤に細菌が混入する可能性がある。血小板製剤の保存による細菌汚染の事例では,Staphylococcus aureus や Streptococcus pneumoniae などが報告されている。また,赤血球製剤の細菌汚染の事例では,Serratia liquefaciens,Yersinia enterocolitica などの低温発育性細菌によることが多い。Yersinia 感染は無症状の胃腸疾患を有した健康供血者から採血した時に生じる。細菌汚染が疑われる場合,血小板製剤では凝固物や変色がないかを確認する。赤血球製剤では溶血などを起こしていないか確認する。
- 4.アナフィラキシー反応
本反応の特徴は数mlの輸血により生じること,発熱反応を伴わないことが特徴である。発症は咳,気管収縮,呼吸障害,循環不全,吐き気,腹部痙攣,下痢,ショック,意識障害などが上げられる。IgA欠損症は米国では700人に一人の頻度であるが日本では稀である,抗IgA抗体によるアナフィラキシー反応は少ない。したがって,IgAを含まない製剤の使用は抗IgA抗体が存在しアナフィラキシー反応の既往のある人に使用するのが妥当であると考えられている。
- <治療と予防>
治療は輸注を中止し血管確保,血圧管理,エピネフリン皮下注,ステロイド,抗ヒスタミン薬などの投与が行われる。以後の輸血は患者の状態によるが赤血球輸血は洗浄回数を多くしたものを使用する。自己血を冷凍保存し,それを使用することも可能である。他のアナフィラキシー反応の原因として可溶性の血漿抗原や提供者が服用していたペニシリン等に対する抗体が原因となることがある。
- 5.皮下の過敏性反応
蕁麻疹様反応はよく認められ,頻度的にはFNHの次に多く認める。典型的な反応は局所紅斑,蕁麻疹,掻痒感で発熱や他の副作用はない。局所的な蕁麻疹の場合は輸血を中止する必要はない。蕁麻疹のために他の血液製剤を使用すると,ウイルス感染の危険率を上げることになり,むしろ患者にとっては不利益の場合がある。抗ヒスタミン剤を使用し症状が軽快した後に輸血をゆっくりと再開する。頻回に蕁麻疹がでる患者には抗ヒスタミン剤を前もって投与しておく。この副作用の原因は不明であるがドナー血漿中の可溶性物質に対するアレルギー反応と考えられる。この反応は洗浄製剤を使用することにより予防できる。全身性皮疹等の場合はその血液の使用は中止にする必要がある。
- 6.循環過負荷(Transfusion Associated Circulatory Overload : TACO)
血液量の急激な増加は心循環器系が衰えている人には大きな負担になる。輸血後に呼吸困難,強い頭痛,末梢の浮腫,鬱血性心不全の兆候などが認められた場合は血液量過大を疑う必要がある。循環過負荷の症状は咳,チアノーシス,起座呼吸,呼吸困難などがある。輸血中止により患者の症状は改善される。起座にし酸素吸入,利尿剤を使用する。症状が改善されない場合は瀉血を考慮する。
- 7.輸血関連急性肺障害(Transfusion Related Acute Lung Injury : TRALI)
輸血による急性肺障害が報告されている。胸部レントゲンは肺水腫像を呈する。わずかの輸血量にもかかわらず,心不全以外の原因による急性呼吸不全症状がある。TRALIの機序は多様であるが,ドナー血液中に存在する白血球抗体が患者白血球と反応し白血球凝集を起こす,白血球凝集は肺微少循環に捕捉され肺血管の透過性を亢進する。他の原因として補体の活性化によるアナフィラトキシンのC3a,C5aの産生がある。これらは組織の好塩基球や血小板からヒスタミンやセロトニンを放出させ,そして直接顆粒球を凝集させて白血球塞栓を作り肺の微少循環を障害する。治療としては輸血の中止,ステロイド投与と呼吸管理である。
- B.遅発性輸血副作用
- 1.遅発性溶血性反応
- 遅発性溶血性反応には二種類のタイプがある。一次免疫反応と二次免疫反応がある。
- 1)一次免疫反応
初回同種免疫の結果である。D抗原以外の赤血球抗原にレシピエントが感作される頻度は一単位あたり1〜1.6%と計算される。輸血後早くても7〜10日後に認め,場合により数週間から数カ月後に認める場合もある。一次免疫反応ではほとんど重篤な溶血を起こさない。診断はへモグロビンの予期せぬ低下とDAT陽性や新しい同種抗体の出現である。
- 2)二次免疫反応
以前に免疫感作を受けていて,その赤血球抗原が再輸血された場合である。初期免疫後,時間の経過と共に産生された同種抗体は血清中から検出できないほど減少する。輸血前検査では不規則抗体や交差不適合の成績はない。しかし,輸血3〜7日後に二次性免疫反応がおこり高力価のIgG抗体が産生される。最も一般的な症状は発熱,予期せぬへモグロビンの低下,中程度の黄疸である。へモグロビン尿を認めるが,腎不全はまれである。治療の必要は少ないが腎機能には十分な注意が必要とされる。輸血を受けた人や3ヵ月以内の妊婦の場合は3日以内に採血した交差試験用の血液を使用するようにする。これは,急激に生じる抗体の見逃し防止を目的としている。もし,DATがこの時に行われ,また,自己コントロールが検査されていると抗体は認めなくても,抗体が付着した赤血球を見つけることが出来る。
- 2.輸血後GVHD(Post Transfusion - Graft Versus Host Disease : PT‐GVHD)
- 免疫担当細胞が含まれる全血,赤血球,血小板製剤などの輸血後,2〜3週間して発熱,皮疹,肝炎,下痢,骨髄抑制や感染症などを主要な臨床症状とし大部分が死亡に至る重篤な輸血副作用である。輸血後GVHDはその機序を考える上で二つに分けて理解する必要がある。一つは免疫不全状態にある場合,他は特に免疫不全状態ではない患者が輸血後にGVHDを発症する場合である。
- 1)免疫不全状態患者
- 骨髄移植患者,化学療法を施行している癌患者,新生児の交換輸血時などレシピエントが免疫不全状態である場合は,ドナー・リンパ球が拒絶されずに患者体内に生着する可能性がある。生着したドナー細胞は患者の組織を非自己として攻撃し前述の臨床症状を呈する。
- 2)免疫正常患者
- 特に免疫不全ではない患者にもPT-GVHDが報告されている。特に日本で心臓手術に際して多くの症例が見られた。発生メカニズムはすべて解明されたわけではないが,理解しやすい考え方としてone way missmatchがあげられる。これは輸血提供者のHLAがハプロアイデンティカル(例えばX/X(A2,B12,DR2/A2,B12,DR2)のように同じハプロタイプを有する)受血者は一つのハプロタイプが同じで他方が違う場合X/Y(A2,B12,DR2/A3,B24,DR4),輸血され患者体内に入ったリンパ球は拒絶されずに生存出来る。さらに,ドナー・リンパ球は患者組織を非自己と認識し攻撃する可能性が考えられている。
- 3)予防法
- PT‐GVHDは発症すると治癒させることは極めて困難であるために予防が主に行われる。血液製剤に15〜50Gyの放射線照射を行い製剤内に含まれる免疫担当細胞の分裂能を失活させてしまう。リンパ球混合培養試験でみたリンパ球活性は5Gyの放射線照射でほぼ完全に消失し,50Gyの照射でリンパ球のマイトジェンに対する反応性は96〜99%が失活する。他の方法として白血球除去フイルターの使用があるが,この有効性に関しては結論が出ていない。当院では血液製剤に20Gy照射を行いPT-GVHDの防止を行っている。