日本大学医学部 病態病理学系 形態機能病理学分野

Engish

研究紹介

 主に肝疾患をテーマに、未だ解決がついていない病態の基礎研究と応用研究を行っています。その切り口は、免疫組織化学を駆使した形態学的アプローチと、遺伝子異常(DNA)や遺伝子発現異常(mRNAやタンパク質)を解析する分子生物学的アプローチの両者からなり、それらを結びつける研究ー形態の分子的基盤ーにも挑戦しています。これは、肝疾患に限らず、ほとんどの疾患研究に実践できるため、広く感染症、変性疾患、腫瘍など、臨床各科との共同研究を積極的に推し進めています。以下に,それらから主な研究を紹介します。

■形態学的疾患解析から

  • 肝細胞由来の悪性腫瘍は肝細胞癌、良性腫瘍は肝細胞腺腫(HCA)で、前者は肝臓腫瘍の90%以上を占めますが、後者は非常に稀で、日本ではその頻度も明らかにされていません。しかし、HCAの新しい分類法が2010年のWHO Classification of Tumors of the Digestive Systemに掲載されて以来、HCAの診療・研究は新しい局面を迎えています。私たちは共同研究者と協力してHCA症例を収集し、組織像と免疫染色から新WHO分類による4型の頻度を報告し(ILCA, Paris, 2015)、日本のHCAにおいて欧米とは異なるいくつかの特徴をみいだしました。現在、unclassifiedに分類された症例の遺伝子解析を行い、特徴を検討しています。さらに日本でのHCAの頻度を明らかにするために肝切除症例の多い日本全国の基幹病院・施設に協力を求め、調査を行っています。
  • 混合型肝癌は肝細胞癌と肝内胆管癌が混在する肝腫瘍です。しかし、上記2010年のWHO分類では、両者が混在する旧来型の典型的な症例をClassical type と命名し、それとともにSubtypes with stem-cell featuresという新しい名称が分類され、後者はさらに3つに細分類されています。その後者の中にこれまで“細胆管癌”と呼ばれていたものが含まれています。混合型肝癌の研究は、肝細胞癌と肝内胆管癌の発生岐路解明につながるものと期待されます。組織像とCK7, CK19, NCAM1/CD56, EpCAM, KIT等を用いた免疫染色による検討を施行して研究を進めています。

    血清アミロイドA陽性の炎症性肝細胞腺腫

    混合型肝癌

    鹿の角状に分岐増殖する癌細胞(左)
    肝細胞策に移行するような癌細胞(右)

  • 悪性リンパ腫では、組織型と治療法や予後との関連性や長期経過例の特徴等の臨床研究を血液膠原病内科と共同で施行しています。(Leuk Lymphoma, 2014, 2015; Int J Hematol, 2015)
  • 転移には、’seed and soil’ (種と土壌)説が知られています。他臓器癌からの転移性胃癌を検討しますと、胃のsoil(微小環境)としての重要性が示唆されました。その本態を明らかにしています。
  • 感染症病理では、病原体の同定を精力的に行っています。急性白血病症例にムコール症(真菌)を、サイトメガロウイルス感染症に糞線虫症(寄生虫症)を見つけています。(Jpn J Inf Dis 2013, 2011) また剖検症例の血液培養から、その死因となる細菌感染症の同定を試みています。

■分子生物学的疾患解析から

  • ヒト肝臓組織におけるC型肝炎ウイルスと宿主との攻防について
     ウイルス量の多い肝臓に、発現亢進する26個の遺伝子を見つけました。HLA-DQA1は抗原提示細胞の増加を、OASLはウイルス複製抑制能を有することがわかりました。細胞膜セリンプロテアーゼTMPRSS2は、ウイルス感染を活性化することもわかりました。この他、肝臓類洞内皮細胞に特異的に発現するC型レクチンCLEC4Mは、ウイルスをキャッチして感受性細胞に受け渡すトランスインフェクション機能のあることがわかりました。(Hepatology 2016, Arch Virol 2014, BBRC 2010)
  • ヒト肝細胞癌再発マーカーの癌部からと非癌部からの探索
     肝細胞癌の再発には、初発の癌の肝内転移と初発の癌とは異なる多中心性発癌とがあります。肝内転移しやすい癌の特徴的タンパク質発現を、プロテオーム解析から見つけました。多中心性発癌しやすい非癌部のmRNA microarray解析やタンパク質2次元ゲル電気泳動解析から,間質由来の遺伝子やタンパク質,すなわち微小環境因子が再発と深く関わることがわかってきました。
  • 受動喫煙ラット椎間板では、組織化学的変性とともに、時計遺伝子のサーカディアンリズムが6時間シフトすることがわかりました。(J Orthop Res 2016)
  • DNA定量法のひとつ、DNA結合蛍光色素法では、過小評価することがあるので注意です。様々な条件で組織DNAを抽出したとしても、PCRによる定量が最も信頼できます。(PLOS ONE 2016)

■形態機能と分子の橋渡し研究から

 レーザーマイクロダイセクションを用いて、顕微鏡下で特徴的な細胞集団、組織領域をくり抜いて、タンパク質発現変化や遺伝子変異を網羅的に検索し,局所におこる分子レベルの変化を明らかにしています。これらをミクロプロテオミクスミクロゲノミクスと呼び、主には病理診断に用いられるホルマリン固定パラフィン包埋組織から実施し,将来,新たな分子診断,分子治療につながることを期待しています。たとえば

  • ヒト肝臓組織におけるC型肝炎ウイルス制御因子として、門脈域周囲の肝実質細胞に発現増強するタンパク質をLC/MS解析で見つけました。その遺伝子編集培養細胞では、ウイルス感染が増強、逆に発現増強細胞ではウイルス感染が抑制されました。
  • 癌の発生進展におけるゲノム遺伝子変異の進化ドライバー変異について、同一症例内に見られる複数箇所の癌組織および異形成病変、増殖性病変などを検討すると、がんの進展方向や発生起点、それらの決め手となる遺伝子変異が明らかとなってきました。肝臓癌、乳癌、舌癌、多臓器転移腫瘍などを例にして研究を進めています。
PAGE TOP