日本大学医学部

社会医学系衛生学分野

社会医学系衛生学分野

●教室紹介

1945年(昭和20年),小坂隆雄教授が初代教授に就任され,衛生学教室が開講された.その後,1954年(昭和29年)から及川周教授,1960年(昭和35年)から白石信尚教授,1982年(昭和57年)から谷島一嘉教授へと引き継がれた.社会医学系衛生学分野に改組された後,2007年(平成19年)11月からは現在の岩﨑賢一教授となり,宇宙航空医学を主軸としながら、環境医学の研究と教育を行っている.
衛生学とは,物理的・化学的・生物学的・社会的要因など,人間の健康と疾病(障害)に関わるさまざまな環境因子の影響について研究し,健康の保持・増進ならびに疾病(障害)の予防に寄与していく学問である.当教室は,その中でも,宇宙航空医学研究を特色とし、宇宙飛行,飛行機旅行,高所トレーニングなどにより生じる環境変化(微小重力,低酸素など)が自律神経性循環調節機能や脳循環調節機能に及ぼす影響について研究している.また,航空機乗員(パイロット,キャビンアテンダント)やクロスカントリースキーナショナルチームの健康管理及び医学教育などにも参加し,この特殊な医学分野における社会的貢献にも励んでいる.さらに,JAXA(宇宙航空研究開発機構),航空医学研究センター,防衛省航空幕僚監部などと協力し,日本宇宙航空環境医学会の認定医制度を運営している.その他に,臨床医学系や他学部などの他分野との共同研究も幅広く行っている.

●教育について

 公衆衛生学が集団調査等を用い問題抽出と対策を展開するのに対し,衛生学は,その事象の機序や対策の自然科学的妥当性を,基礎医学の各分野で養われた実験的研究方法を用いて明らかにする学問である.また社会応用においては,自然科学的なものとは相反する柔軟さも必要とされる.この様な衛生学の知識や手法,考え方を,臨床医が身に付けることは有用と考えられる.
卒前教育の中では,医学医療に対するモチベーションの維持と向上を目的とした1年次の「医学序論」において,宇宙航空医学をはじめとする特殊環境医学の概論を講義している.また4年次には「生活環境・職業と疾患」において,生活や職業における環境要因と健康の関係及び環境因子により引き起こされる疾病についてのPBLチュートリアルと講義を行っている.さらに同年次の実習では,宇宙航空環境を模擬した実験方法を体験した際の人体の適応や,室内外環境や水質検査の測定・評価を教育している.6年次の「選択コース」では,将来研究を行う際に環境医学的な考え方を生かすための知識と技術を習得することを目的とし,当分野の研究活動や,関連研究施設での研究活動に参加し,研究結果を論文として発表することも出来るよう教育している.また,総合講義の「医学・医療総論II」において生活環境因子による疾患,環境衛生,国民栄養・食品衛生の講義を行い,社会における医師と患者の基本的問題を教育している. 卒後教育の中では,研究情報を適切に評価選択し応用する能力や,基礎科学的な思考能力を醸成することが,臨床医に対しても重要と考えている.また,臨床医学的問題を抽出し,研究によって解明するという姿勢を有することも重要である.これらの点を踏まえ,環境医学研究を独立して行うことができる人材や,環境医学的考慮を他分野の研究遂行時にも生かすことができる人材の育成を目標として卒後教育を行っている.

●研究について

 宇宙航空医学は,衛生学の基盤である生理学,生化学,組織学的な実験方法を駆使して,宇宙航空環境における生体の変化を解明していく分野である.微小重力による人体変化は,脳循環,自律神経,骨,筋,血液など多岐に及び,様々な疾病に関係するものである.この様に研究の対象や方法が広範な医学分野と関係し,さらに社会医学系として社会応用を念頭においていることなどから,麻酔科や脳神経外科などの臨床医学系や,生化学,公衆衛生学,文理学部体育学などと幅広く共同研究を行っている.これらの共同研究を軸に,他分野との緊密な連携をさらに発展させ,広範囲な分野に関連を持つ宇宙航空環境医学の特性を活かし研究を行っている.
主な研究テーマとして,「循環血液量の変化が循環調節機能に及ぼす影響」「重力変化(人工過重力・微小重力)が自律神経やビタミンD受容体活性に及ぼす影響」「酸素(低酸素及び高酸素)が循環調節機能に及ぼす影響」「持久性トレーニングの循環調節機能に及ぼす効果」「麻酔薬,温熱負荷,人工心肺,各種疾患(慢性疼痛やパーキンソン病)などが循環調節機能に及ぼす影響」などが挙げられる.ヒトの体循環・脳循環調節機能の評価手法としては,心電図波形,連続血圧の波形,経頭蓋ドップラによる脳血流速度の波形を取得し,血圧変動と心拍変動の関係,もしくは血圧変動と脳血流変動の関係を解析する方法を主に用いている.また,マウスでは頸部迷走神経を採取し,過重力による形態的変化の観察も行っている.

長期臥床に類似した宇宙環境の研究は,臨床医学やスポーツ医学にも役立つ基礎的研究であり,また,航空医学における低酸素環境の研究も,臨床医学や産業衛生,高地トレーニングなどにおいて重要となる.このように当分野の研究は,宇宙航空医学の特色を活かしながら,医学や産業,スポーツの分野でも役立つ環境医学として実験的手法を用いて進めることが特徴となっている.