苦味を解消したバンコマイシンの臨床的評価
日大・医・板橋病院薬剤部 ○三輪典子,大塚 進,古川稔朗,牧村瑞恵
日大・医・小児科 麦島秀雄
 
【目的】
 塩酸バンコマイシン散(以下商品と記す)は,感染症の予防・治療に繁用されているグリコペプチド系抗生物質製剤である。当院においても入院患者への本剤の使用例は多く,特に骨髄移植時の消化管殺菌にとって欠かせない薬剤である。しかしながら,本剤の持つ特有の苦味・渋みなどに因る不快感や嘔気・嘔吐,服薬拒否などが小児科領域において大きな問題となっている。骨髄移植時には無菌室に隔離されるという特殊な環境におかれることもあり,薬剤による負担はできるだけ軽減されることが望まれる。
 そこで,矯味剤などの添加物を加えることなく,服薬しやすい製剤を調製し(以下この院内製剤をVCM−Sと記す),その臨床評価が得られたので報告する。

【方法】
1.診療録の調査
 小児科の骨髄移植患者を対象とし,次の項目について調査を行った。
 @年齢,入院期間および無菌室在室期間
 A商品あるいはVCM−S服用前から服用後までの咽喉粘膜および便の細菌検査結果
 B入院開始からの,特に無菌室在室中の内用・外用剤の使用状況(特に消化管殺菌用薬に着目して)
 C無菌室入室約1週間前より退室までの服薬状況および吐気・嘔吐の状況
2.VCM−SのMIC測定
寒天平板希釈法により,次の条件でMICの測定を行った。
 @試験薬剤:塩酸バンコマイシン原末,商品,VCM−S調製直後,1日目,3日目,7日日,14目目,28日目,45日目,80日目
 A試験菌株:標準菌株として S.aureus ATCC 29213,E.faecalis ATCC 29212を用い,他に患者から採取し分離培養し同定した16株の菌株を用いた。
3.商品の購入量およびVCM−S調製量
【調査対象】
当院小児科での骨髄移植は現在までに130例を越えており,小児科で初めてVCM−Sが使用されたのは1996年5月であった。これ以降全症例にVCM−Sが処方された。
そこで1996年5月以前の症例をA群,以降の症例をB群として調査を行った。
A群:商品を添付文書記載通りに使用した症例(n=13)
  年齢=1〜16歳(平均7.3歳)
入院期間=51〜414日(平均198.4日)
  無菌室在室期間=18〜44日(平均27.9日)
B群:VCM−Sを使用した症例(n=13)
  年齢=2〜15歳(平均6.8歳)
入院日数=55〜605日(平均250.0日)
  無菌室在室期間=20〜45日(平均30.9日)
【結果】
1.@VCM−S服用例の咽喉粘膜および便の細菌検査結果において,商品服用例と有意差は認められなかった。
  AA・B両群とも消化管殺菌薬服用時の併用薬は,ほとんど変わりなかった。また両群ともに消化管内が殺菌されたことにより引き起こされたと思われる下痢を改善するためのリン酸コデインの使用が多くみられた。

[使用薬一覧]
A群  
塩酸バンコマイシン散 300〜1,500mg/day 分3
ナイスタチン 50〜200万IU/day 分2
硫酸ポリミキシンB 150〜200万IU/day 分2〜3
塩酸シプロフロキサシン  200〜600mg/day 分3
フロリードゲル
イソジンガーグル
バクトラミンC 1〜2錠/day 分2 隔日
  (バクトラミンG     0.5〜1.0g/day 分2 隔日)
アロプリノール 200〜300mg/day 分2〜3
ヒドロキシカルバミド 1,000mg/day 分2
ニフェジピン徐放 10〜20mg/day 分2
ペントキシフィリン 200〜900mg/day 分2〜3
リン酸コデイン 15〜60mg/day 分2〜3
プレドニゾロン 15〜30mg/day 分2〜3
アセトアミノフェン 100〜400mg/回 頓服
アロプリノール含そう水

B群  
VCM−S 3〜5cap/day 分3
ナイスタチン 100〜200万IU/day 分2
硫酸ポリミキシンB 150〜300万IU/day 分2〜3
フロリードゲル
イソジンガーグル
バクトラミンC 1〜2錠/day 分2 隔日
  (バクトラミンG     1.0〜1.2g/day 分2 隔日)
アロプリノール 100〜400mg/day 分2〜3
ヒドロキシカルバミド 500mg/day 分2
ニフェジピン徐放 18〜20mg/day 分2
ペントキシフィリン 200〜900mg/day 分2〜3
リン酸コデイン 18〜60mg/day 分2〜3
プレドニゾロン 20〜30mg/day 分2〜3
アセトアミノフェン 100〜400mg/回 頓服
アロプリノール含そう水

BA・B両群の服薬状況をそれぞれ3ランクに分類し比較した。

[服薬状況]
ランク1 服薬拒否が激しく,服用時間の遅れが半日以上になることもある
      薬剤が原因と思われる嘔吐・嘔気が連日記載されている
ランク2 服薬を嫌がるものの,服用時間に遅れがみられない
      薬剤が原因と思われる嘔吐・嘔気が何度か記載されている
ランク3 服薬がスムーズである


A 群 B 群
ランク1 6 例 0
ランク2 3 例 7 例
ランク3 4 例 6 例


 A群ではバンコマイシンについてのコンプライアンスの悪さについての記載が多く,その対応策に苦慮していた。
 B群ではバンコマイシンについての記載はほとんどみられず,併用薬であるナイスタチンやフロリードゲルについての拒否の記載が目立った。

2.MIC測定結果も各試験薬剤間に差は認められず,VCM−Sは有効であると思われる。

3.購入量に対してのVCM−Sの調製量は現在約30%であり,一定の需要が得られている。

【考察】
以上のことからVCM−Sは,その安定性や抗菌力が商品に劣ることなく,患児の身体的苦痛および精神的苦痛の軽減に寄与できる有用な院内製剤であると考えられる。なお診療録をみると本剤と同時に服用されている「ナイスタチン」や「フロリードゲル」などについても服用困難であるという記載が多く,今後検討したい。

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