日大医学雑誌

心 脳 蘇 生 へ の 先 進 的 挑 戦

有賀賞受賞記念講演

演者

長  尾     建
日本大学医学部救急医学系

要旨

2000 年 American Heart Association (AHA)/InternationalLiaison Committee on Resuscitation (ILCOR) から EBM に基づく心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドラインが報告された1).特に院外で突然心停止に陥った患者の生存率を最大限に引き上げる対策として各々の国,地域で救急医療体制を科学的に検証し,再構築することが必要であるとした.そして,2005 年には 2000 年以降の EBM を追加し,心肺蘇生と救急心血管治療のガイドラインが改変された2, 3).その中で,市民が開始する蘇生法と自動体外式除細動器 (AED) を用いた除細動,及び病院収容後の蘇生後ケア (特に低体温治療) の重要性がクローズアップされた.著者らは,我が国の救急医療体制の構築に寄与する目的で院外心停止患者に対する多施設大規模臨床研究を企画し実行した.そして,その結果をAHA 学会 (世界の心肺蘇生と心血管治療をリードしている最も権威のある米国の学会) で発表し,2005 年に蘇生部門の Best Abstract Award,2006 年には Investigatoraward を頂き,2007 年には世界の主要臨床医学雑誌である Lancet に記載され,国内外から脚光を浴びるに至った.また,著者らは自施設で 1996 年から院外心停止患者に対する低体温療法の前向き研究を実施している.2006 年 AHA 学会において教室の蘇我氏は,この低体温療法に関する Investigator award を頂いた.さらに著者らは,従来の標準的心肺蘇生に反応しない院外心停止患者に対する人工心肺装置 (CPB),低体温療法及び冠再灌流療法を組み込んだ侵襲的蘇生法にも挑戦している.この評価も高く,2006 年 AHA の蘇生シンポジウムでシンポジストとして講演し,Daily News に画期的な蘇生法として紹介された.そして,2007 年 6 月には,AHA 蘇生部門の会長,Lance B Becker 氏とその医療チームが我々の先進的蘇生法を習得するために 10 日間駿河台日大病院救命救急センターに滞在した.

名誉ある有賀賞の講演として [1] 市民による胸骨圧迫心臓マッサージのみ蘇生法の効果 (Lancet 2007; 369: 920?26) と [2] 院外心停止患者に対する低体温療法 (Circulation2005; 112: II-325, Circulation 2006; 114: II-347) を報告した.今回,紙面の都合により,市民による胸骨圧迫心臓マッサージのみ蘇生法について紹介する.