日大医学雑誌

本態性高血圧症と妊娠高血圧症候群との類似点,相違点
―遺伝的背景からの考察―

総説

著者

中山 智祥  山本 樹生1)  佐藤伊知朗1)  田村 正明1)
押田 茂實2)
日本大学医学部先端医学講座分子診断学部門
1)日本大学医学部産婦人科学講座
2)日本大学医学部社会医学講座法医学部門

要旨

高血圧症の 8?9 割を占める本態性高血圧症と妊娠中に高血圧をきたす妊娠高血圧症候群とは類似点がたくさんあるが,共にいまだ病態や原因が解明されていない疾患である.特に後者は最近名称変更 (旧名:妊娠中毒症) がありトピックスである.
 近年,さまざまな遺伝性疾患の原因遺伝子が同定されてきており,その原因としてはっきりとしたものに遺伝子変異がある.DNA の塩基配列が変化することでアミノ酸配列に変化を来たしタンパク質構造が異常なものになるため疾患が発症するのである.それに対して疾患の発症には原因と言えないまでもその病態に関連する要因として個人個人の遺伝的背景が関係していると考えられものがある.つまり遺伝子の個人差すなわち遺伝子多型がそのまま疾患になりやすいとかなりにくいという個々の差異 (疾患感受性) に結びつくのである.そしてすべての疾患の発症には少なからず遺伝子変異・多型による遺伝要因と環境要因とが絡み合っていると考えられる1).本態性高血圧症と妊娠高血圧症侯群はともに遺伝要因と環境要因とが関係して発症するとされる多因子遺伝性疾患と考えられている.本総説では両者の類似点,相違点を特に遺伝要因から考察する.

keyword

susceptibility gene, essential hypertension, pregnancy-induced hypertension, mutation, polymorphisms
疾患感受性遺伝子,本態性高血圧症,妊娠高血圧症侯群,変異,多型