日大医学雑誌

遷延性意識障害に対する脳脊髄刺激療法

教授就任講演

演者

山本 隆充
日本大学医学部先端医学講座応用システム神経科学部門

要旨

1949 年に Moruzzi and Magoun は上行性網様体賦活系ascending reticular activating system の概念を提唱した1).彼らは,ネコの脳幹の破壊や電気刺激実験によって,末梢からの感覚刺激は脳幹を上行する感覚の求心路から脳幹網様体に側枝を出し,網様体ニューロンは視床の非特殊核を中継し,大脳皮質に広く投射することにより,意識の保持に関与すると考えた.
 脳幹網様体では神経細胞が散在しており,明瞭な細胞集団を形成しておらず,Magoun らの中脳網様体電気刺激は,刺激部位に存在する神経細胞群のみならず,青斑核からのノルアドレナリン線維や外側被蓋核からのアセチルコリン線維など,この部位を通過する線維群の刺激が重要な役割を担っているものと考えられる.しかし,ヒトにおいても中脳網様体や視床非特殊核 (正中中心核) の刺激によって激しい覚醒反応が出現するのは事実であり,Magoun らの上行性網様体賦活系の概念に一致した現象が観察されることが明らかになった2~5).以前は脳内電極に結線した外部刺激装置を用いて刺激を行っていたため,長期の慢性刺激を行うのは困難であったが5),近年になって慢性植込み型の脳深部刺激装置が開発され,長期刺激も可能となった2~4).
 慢性植込み型脳深部刺激装置の臨床応用が進み,本邦では疼痛ならびに不随意運動に対する脳深部刺激療法が保険的適応となり,手術例が激増している6, 7).これに加えて,私どもは遷延性意識障害の治療を目的に,脳内慢性植込み電極を用いた中脳網様体ならびに視床非特殊核の慢性刺激療法に加えて脊髄硬膜外刺激療法を行ってきたので (Fig 1),その詳細について紹介する2~4, 8, 9).