日大医学雑誌

定位脳手術中のヒト脳内ニューロン活動記録

総説

著者

小林 一太  加納 利和  大島 秀規  深谷  親
山本 隆充  片山 容一
日本大学医学部脳神経外科学講座
日本大学医学部先端医学講座応用システム神経科学部門

はじめに

パーキンソン病,ジストニア,振戦といった不随意運動は皮質―大脳基底核を中心とする運動制御機能に変調をきたした状態である.こうした不随意運動に対する外科的治療として脳深部刺激療法 (deep brain stimulation:DBS) が行われる.以前は脳深部の一部を破壊する凝固術が中心に行われてきた.しかし,凝固術の標的となる領域を電気刺激することによっても,凝固術と同等かそれ以上の効果が得られ,しかも凝固術に比較して副作用が少ないことが明らかとなり,今日,DBS が不随意運動の治療に広く応用されるに至っている.本邦では日本大学医学部脳神経外科学講座で初めて臨床応用された治療法である.
 DBS に用いる刺激電極は定位脳手術によって適切な部位に留置される.留置部位を同定する方法として脳画像が用いられるが,現在の解像度では画像所見のみに基づいて,高い精度で電極留置部位を決定することは困難である.術中に脳深部のニューロン活動記録を併用し,ニューロン活動の程度や発火パターンから適切な留置部位を確実に同定することができる.こうして記録したニューロン活動には,それぞれの病態に特有の性質が観察される.
 本稿では,DBS の対象となる不随意運動について,定位脳手術中に記録された脳深部ニューロン活動に関する知見を中心にしてその病態について述べる.

keyword

basal ganglia, movement disorder, deep brain stimulation
大脳基底核,不随意運動,脳深部刺激療法