日大医学雑誌

当科で経験した MEN Type I 症例の一例

症例報告

著者

北島  晃  櫻井 健一  天野 定雄  榎本 克久
根本 則道*
日本大学医学部外科学講座乳腺内分泌外科部門,*同病理学講座

要旨

症例は 21 歳,女性.家族歴として,父方の祖母,父親,伯父,長男が MEN Type I と診断され,治療を受けている.18 歳時に遺伝子診断をうけ,MEN TypeI と診断され,定期的に全身検索をおこなっていた.21歳時の血液生化学検査にて高 Ca 血症を指摘された.原発性副甲状腺機能亢進症の診断にて副甲状腺摘出術を施行した.自験例のように下垂体腫瘍と副甲状腺腫瘍のみが存在し,膵内分泌腫瘍が存在しない非典型的な MEN1 症例では,典型例とは遺伝的に異質な疾患であると考えられ,MEN 1 遺伝子変異が同定できないことが多いとされているが,自験例では遺伝子解析にて MEN 1 遺伝子の exon 6 に C の 1 塩基欠失を同定することができた.現在も厳重に経過観察をおこなっているが,他臓器に腫瘤性病変は認めていない.は じ め に多発性内分泌腺腫症 I 型 (MEN I 型) は下垂体,副甲状腺,膵,腸管の内分泌腫瘍を特徴とする常染色体優性遺伝を呈する家族性腫瘍症候群である.
 家族歴が明らかな家族性 MEN I 型の約 90%, 家族歴の明らかでない孤発性 MEN I 型の約 70%に MEN 1 遺伝子の変異が同定できるとされている.
 今回われわれは,MEN I 型家系に発生した原発性副甲状腺腫瘍の 1 例を経験したので報告する.

keyword

MEN Type I, Primary hyperparathyroidism
多発性内分泌腺腫症 I 型,原発性副甲状腺機能亢進症