日大医学雑誌

十二指腸潰瘍穿孔症例に対する保存的治療の適応基準

総説

著者

富田 凉一  丹正 勝久1)  小豆畑丈夫1)  藤崎  滋2)
日本歯科大学生命歯学部外科学講座
1)日本大学医学部救急医学講座
2)藤崎病院外科

はじめに

H2 blocker に続きプロトンポンプ阻害剤 (PPI) の出現,そして , Helicobacter pylori 除菌療法の開発により,十二指腸潰瘍の治療において,外科治療の対象となる症例は著しく減少を遂げた1~7).一方,合併症 (穿孔,出血,狭窄) を有する十二指腸潰瘍,なかでも穿孔症例は増加傾向にある4).近年,穿孔症例の治療方針には大きな変遷が認められ,1990 年以前までは手術療法が絶対的適応とされていたが 3),その後は腹膜炎の程度を考慮して,多くの施設で保存的治療が行われる様になっている1~7).
 保存的治療を行う際には,当然のことながら十二指腸潰瘍穿孔の確定診断を得る必要がある.それには,問診と病歴が重要であり,突然発症する激しい上腹部痛,十二指腸潰瘍の既往や不規則な服薬を聴取する.受診時の所見では,発症から治療開始時までの時間,ショックの有無,腹部理学的検査で腹膜炎の範囲 (限局性,汎発性腹膜炎) を見極める.そして,血液・生化学検査では,WBC, CRP, S-amylase 値などの上昇,画像診断では,腹部単純レントゲン撮影,上部消化管造影,腹部超音波検査,腹部 CT 検査で病変の広がりを調べる.また,鑑別診断として,胃潰瘍穿孔,胃癌穿孔,急性胆嚢炎などを除外する必要がある1~7).しかしながら,手術移行率は 5.8~12.5%と報告2, 6, 7) されており,未だ保存的治療の適応基準は各施設で一定していない.そこで,本論文では,十二指腸潰瘍穿孔症例に対する保存的治療の適応基準を,若干の文献的考察を加え概説する.

keyword

perforated duodenal ulcer, conservative treatment, indication
十二指潰瘍穿孔,保存的治療,適応基準