日大医学雑誌

C 型肝炎のチンパンジー感染実験

記念講演

演者

杉谷 雅彦
日本大学医学部病理学講座

はじめに

C 型肝炎は 1989 年に原因ウイルスが発見されるまでの長い間,非 A 非 B 型肝炎とよばれていたが,我々はその時代より,チンパンジーを用いた C 型肝炎ウイルス(HCV) 感染実験を長期にわたり施行してきた1).HCV を含む血清を接種した後のチンパンジーでは,肝炎発症までの潜伏期の長さ,血清データ,肝組織所見のパターンは基本的にヒトと同様であった.ただヒトと比すると急性期のトランスアミナーゼの値は低く,肝組織の壊死炎症反応や再生像は軽度であった.特に,HCV 接種後のチンパンジー肝細胞に電顕上ヒトでは認められない超微細構造が出現し,HCV 発見までの期間は HCV 感染の唯一の科学的なマーカーとして認められていた.さらに超微細構造物が出現する時期のチンパンジー血清は C 型肝炎を引き起こす事が感染実験により確かめられた.即ち,チンパンジーでは HCV の継代感染が成立し,ヒト C 型肝炎モデル動物として有用であった.

(注 : 最初の一段落を掲載しております。)