日大医学雑誌

パルスフィールド電気泳動法 (PFGE 法) による
臨床検体由来の Pasteurella spp. の疫学調査

原著

著者

荒島 康友  神山 恒夫1)  池田 忠生2)  矢内  充
上原 由紀  坂上 伸哉3)  熊坂 一成
日本大学医学部臨床検査医学講座
1)国立感染症研究所獣医科学部
2)日本大学医学部生物学教室
3)株式会社エスアールエル

要旨

日本大学板橋病院で,1984 年から 2002 年までの 18 年間に Pasteurella spp. の分離された症例のうち,患者由来 Pasteurella spp. 4 例 4 株〔Pasteurella dagmatis(P. dagmatis) 1 株,Pasteurella multocida subsp. multocida(P. multocida) 3 株〕 と,その原因と考えられた動物から分離された Pasteurella spp. 5 株:イヌ 1 頭〔Pasteurelladagmatis (P. dagmatis) 1 株〕,ネコ 4 頭〔Pasteurellamultocida subsp. multocida (P. multocida) 4 株〕の計 9 株(Table 1) について,PFGE 法により疫学的な検証を行った.その結果,患者由来株 4 株,および患者に対応する原因と考えられた動物から分離された菌 4 株,の 4 組について,各組毎に同位置に同数のバンドを示し,一致率(類似度) も 1.00 であったことから,各組毎に同一のPasteurella spp. であることが分かった.  今回検討した 68 歳,男性 (気管支肺炎の気管支洗浄液から P. multocida の分離された) のように,患者と飼育ネコとの直接的接触が全く無く,感染経路が不明確な症例の場合,従来は菌の生化学的性状,薬剤感受性,等の状況証拠 (表現型の一致) により,飼育ネコを原因動物と考えた.しかし,今回,4 例中 1 例ではあるが,直接的接触が皆無という情報と,PFGE 法による結果から,間接的に,とくに空気中からの感染の可能性もあることを,分子疫学とうい観点から一歩踏み込んだ形で明らかにすることができた.  現在,本邦にペットブームが存在し,パスツレラ症の激増傾向が認められ,死亡例もあることから,PFGE 法のような分子疫学的解析を行い,原因動物,および感染経路の特定を行うことは,パスツレラ症の予防をはじめ病態の解明のために今後さらに必要と思われた.

keyword

Pasteurella, PFGE, Epidemiological study
パスツレラ,パルスフィールド電気泳動法,疫学調査