日大医学雑誌

特 発 性 低 髄 液 圧 症 候 群

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著者

永岡 右章  大島 秀規
日本大学医学部脳神経外科学講座

はじめに

頭蓋内圧の変化,特に頭蓋内圧亢進に伴って頭痛を生じることはよく知られている.頭痛は古典的な頭蓋内圧亢進症状の一つであり,脳腫瘍や脳出血などの頭蓋内器質的疾患を有する患者はしばしば頭痛を訴える.一方,頭蓋内圧低下も頭痛の原因の一つとして重要な病態である.臨床的に頭蓋内圧低下を生じる病態は,髄液量減少に由来することがほとんどである.このタイプの頭痛(低髄液圧性頭痛)は起立時・動作時に増悪し,臥位・安静にて軽快する特徴を有する.最近まで,低髄液圧性頭痛のほとんどは腰椎穿刺,開頭手術,脊髄手術,脳室-腹腔 (V-P) シャント手術,頭部外傷(髄液漏を伴う頭蓋底骨折)などに伴って生じると考えられていた.  しかし近年,軽微な外傷や重量物運搬,咳,くしゃみなどの日常的なエピソードを誘因として,もしくは明らかな原因なしに低髄液圧性頭痛を生じることが指摘されており,特発性低髄液圧症候群または脳脊髄液減少症と呼ばれている.従来は稀な疾患と考えられていたが,本疾患に特徴的なMRI所見が広く知られるようになった 1990 年代後半以降,特発性低髄液圧症候群と診断される症例数は増加の一途をたどっている.現在,特発性低髄液圧症候群は common disease の一つとして認識されており,頭痛の診療において本疾患についての知識は欠かせないものとなっている.