日大医学雑誌

良性発作性頭位眩暈症の診断と最近の治療法

総説

著者

鴫  原  俊太郎
日本大学医学部耳鼻咽喉科学講座

はじめに

良性発作性頭位眩暈症は難聴を伴わない頭位性めまいを数日から数ヶ月にかけて繰り返す疾患で,最も頻繁にみられるめまい疾患である.ほとんどの症例は運動により軽快することが知られており,また内耳病変に二次的に生じる点から内耳の関連が考えられていたが,その病態については種々の説があり,確実に本症の性状を説明するには一長一短があって,確定するにはいたらなかった.Barany や Dix-Hallpike は耳石障害によるとしたが,本症によくみられるめまいの減衰性を説明できなかった1, 2).1969 年に Schuknecht が側頭骨病理で半規管膨大部のクプラに沈着物を認めて,クプラ結石症の概念をうちだし3),後の後半規管膨大部神経切断術導入の端緒となったが,やはり減衰傾向を説明できなかった.Hall は半規管内に耳石由来のデブリス (浮遊耳石) が移動し,このために半規管が刺激されるとした (半規管結石症)4).この説では浮遊耳石が安静時に最も下方にある後半規管に沈着しやすく,後半規管起源が多いこと,浮遊耳石が動き出すまでの時間が潜時となり,また浮遊耳石が崩壊するために減衰傾向がおきること,それが再度沈殿するために朝に症状が強くなることなど諸症状を説明しやすい.また後に半規管充填術が行われるようになってから,実際の手術で半規管開放時に浮遊耳石が半規管内に確認できるようになり,現在では本症の原因されることが多いが,この概念が本症の全てを説明することはできない.実際の臨床でも小脳疾患などで類似の頭位性めまい症状がみられることがあり,診断には注意が必要である.

keyword

Benign paroxysmal positional vertigo, canalithiasis, cupulolithiasis, canalith repositioning maneuver,
free-floating debris
良性発作性頭位眩暈症,半規管結石症,半規管膨大部結石症,耳石置換法,浮遊耳石