日大医学雑誌

肝発癌抑止から見た慢性 C 型肝炎治療

同窓会学術奨励賞受賞講演

演者

森  山  光  彦
日本大学医学部内科学講座消化器肝臓内科部門

本文

現在我が国には,約 150 万人の C 型肝炎ウイルスの保菌者がいると推定されている.このうち約 20% (30 万人) が無症候性キャリアーと考えられている.さらに現在まで約 25 万人にインターフェロン (IFN) 治療が行われ,約 30% (8 万人) が HCV の駆除に成功している.したがって現在本邦では治療必要な C 型慢性肝炎 (CH),肝硬変 (LC),肝細胞癌 (HCC) の症例が約 110 万人前後存在する.この C 型 CH および LC の生命予後は,HCC発生の如何により左右される.現在 C 型 HCC の生命予後は,どのような治療法 (肝移植をのぞく) をもってしても不良であり,10 年生存率は 10%前後である.我々の教室での最長生存例は 10 年である.したがって,いったんHCC が発生すれば,その症例の生命予後はほぼ決定されてしまうわけである.このため,C 型 CH および LC 例の生命予後を改善するためには,HCC 発生抑止が重要となる.

我々の教室は,1987 年より非 A 非 B 型 (後に C 型) CHに初めて IFN 製剤を使用して以来,2002 年までに約 1000例の C 型慢性肝炎例にこの IFN 治療を施行してきた.この IFN 治療の治療目的は,HCV の駆除のみならず,HCC 発生抑止,生命予後改善である.この項では,日本大学付属板橋病院および駿河台日大病院にて IFN 治療を施行し,追跡調査が可能であった 596 例の長期予後について解説し,さらに IFN 治療が生命予後および HCC 発生を抑止したかについて述べる.