日大医学雑誌

閉塞型睡眠時無呼吸―低呼吸症候群

総説

著者

赤星 俊樹  赤柴 恒人  川原 誠司   野村奈津子
齊藤  修  堀江 孝至
日本大学医学部内科学講座呼吸器内科部門

要旨

睡眠時無呼吸症候群 (Sleep apnea syndrome, SAS) の大部分を占める閉塞型睡眠時無呼吸―低呼吸症候群 (Obstructivesleep apnea hypopnea syndrome, OSAHS) は,睡眠中に繰り返し生じる上気道 (主に咽頭腔) の部分的あるいは完全閉塞により特徴づけられ,その有病率からよく遭遇する一般的な疾患である.

咽頭腔は十分な骨性支持組織に囲まれていないため,その開存性は解剖学的な構造 (断面積や虚脱性) と上気道拡張筋群の筋活動とに依存する.例えば肥満や顎顔面形態の異常は,咽頭断面積を狭小化させる.狭小化した咽頭気道 (解剖学的因子) を有する個々では,睡眠に伴う上気道拡張筋群の筋活動低下 (機能的因子) が OSAHS 発症に重要な因子となる.このように,解剖学的因子と機能的因子の 2 要因は咽頭気道の開存性を決定し,OSAHS発症のメカニズムに重要である.

睡眠中の無呼吸や低呼吸 (肺胞低換気) は,低酸素血症,高炭酸ガス血症や呼吸性アシドーシスを生じさせる.一方,無呼吸や低呼吸を終了させるには,睡眠からの微小覚醒が必要である.頻回な肺胞低換気と微小覚醒は,睡眠中の交感神経系の活動性を高め,睡眠の分断化を生じさせる.こうした変化は,睡眠中の血行動態に多大な影響を与え,虚血性心疾患,脳血管疾患やうっ血性心不全の発生要因となりうるが,既に高血圧とは直接的な関連が示され,JNC7 (高血圧の予防,発見,診断,治療に関する米国合同委員会の第 7 次報告,2003) では,2 次性高血圧の原因疾患として OSAHS が明示された1).睡眠の分断化は,精神認知機能の低下,Quality of life(QOL) の低下を生じさせ,交通事故や産業事故などの社会問題にも発展しうる.このように OSAHS は,単に個々の疾病のみならず,社会問題を背景に抱える疾患としても注目されている.2003 年に起きた山陽新幹線運転士による居眠り事件は,OSAHS が原因とされまだ記憶に新しい.Table 1 には, OSAHS に関連する合併症や事故率に対する相対危険度の研究報告を示す2).

OSAHS 治療の第一選択は,経鼻的持続気道陽圧療法(nasal Continuous Positive Airway Pressure, nCPAP) である.近年,その効果が科学的に検証され,治療による降圧効果,神経認知機能や生命予後の改善が示された.このように,OSAHS の研究は近年めざましい発展がみられるが,多くの患者が未だ適切に診断されず未治療でもある.本稿では,その有病率より common disease といえる OSAHS における, 疫学, 発症のメカニズム, 診断・治療ならびに社会問題に関して詳述する.

keyword

Obstructive sleep apnea hypopnea syndrome, Common disorder, Pharyngeal airway obstruction,
Pharyngeal airway dilator muscle, Nasal continuous positive airway pressure
閉塞型睡眠時無呼吸―低呼吸症候群,一般的な疾患, 咽頭気道閉塞,咽頭気道拡張筋群,経鼻
的持続気道陽圧療法